異世界系ラノベ作家御案内します。

深谷シロ

『異世界系ラノベ作家おもてなし課』創設

「最近、異世界系ラノベ作家のお客様が増えましたよね。」


とある異世界の住人は話す。それを聞いたもう1人も同意というように大きく頷いた。


「最近、『チキュウ』では異世界系のライトノベルが流行ってるみたいだよ。」


異世界住民は地球からの異世界系ラノベ作家の為に取材に応じているのだ。それに応じた額は貰えるが、世界間でお金の価値が違うのだろうか、地球のお金は異世界ではあまり馴染みの無いものなのだ。


最近では地球のお金を換金できる銀行が増えてきたのは幸いな事だ。


この世界では異世界系ラノベ作家達を案内する為に様々な仕組みが取り入れられてきた。歴史は浅い。革新派が次々と取り入れている事が漸く受け入れられてきたのが現状況だ。


「そう言えば、この前『チキュウ』のライトノベルを読んだんだけどさ。最近は『ユウシャ』が流行りなのか?」


地球の異世界系ライトノベルではよく、勇者という単語を目にする。これ自体は異世界には実際には存在しない。異世界系ラノベ作家がこれがあったら良いだろな……的な事を考えて取り入れているのだ。風評被害が甚だしい。魔王なんていないわ。


「あ、そう言えばこの世界にも今、旅行者が一人いるみたいだぞ?」


この世界には今、1人だけ異世界系ラノベ作家が旅行している。何でも新作のライトノベルを書くのに斬新なアイデアを取り入れたいのだそうだ。その心意気は分からない事も無いが、他の世界でも良いのではないだろうか。


「どうやらかなりのロリコンらしい。」


ある人はこう言う。どうやらその異世界系ラノベ作家は重度のロリコンで今回の作品もロリっ子が出てくるらしい。こちらの世界ではあまり好まれない嗜好であるが、まあそれは別の世界の話だ。受け入れるしか無いだろう。


「どこに泊まってるんだ?」


「勇者村だってさ。」


勇者村。異世界系ラノベ作家が勇者という言葉を取り入れ始めた事でこちらの世界でも流行語となった。ある企業がそこからこの村のアイデアを出したのだ。現在、ぼろ儲け中らしい。異世界系ラノベ作家は必ずそこに泊まるそうだ。


異世界系ラノベ作家にとって、サービスは重要らしい。特にこちらの特産物などを提供されると、カタカタと音をさせつつ、薄い板に汗水垂らしつつ、必死に書き込んでいるらしい。地球の技術は凄いな。その薄い板は研究中だが、様々な機能が付いているらしい。俺も欲しいよ。


俺は友人とそんな事を話しつつ、街を歩いていた。勇者村はこの街の郊外にある。少し興味があるが、まだ訪れたことは無い。いつか訪れようとは思っているのだが。


「……おい、あれを見てみろよ。」


冒険者ギルドに入って依頼ボードを見ていると、友人が何やら珍しい依頼を見つけたのか俺を呼んだ。


「何だ?」
「これを見てみろ。」


面白がる友人の言葉に怪訝そうな顔を浮かべつつも俺は見た。その依頼書は王族からの依頼書であった。


「……何だこれ。」


あまりにも特異な依頼内容に呆然とした。その依頼内容は『異世界系ラノベ作家を饗す為にギルドを設立する。そのギルドに入る者を募集する。』というものだ。異世界系ラノベ作家を饗すのは、こちらの王族の仕事ではあるが、あまりにも数が増えた為に別の組織に委託するとは、誰が考えたであろうか。王族、勝手すぎるだろ……。


だが、俺はこの依頼に少しばかり興味を惹かれた。友人とギルドを出て、家に帰っていたのだが、俺は用事を思い出したと言って、ギルドに戻った。そして依頼を受注した。


「依頼を受注します。」


依頼書を持って、俺はギルドの受付に行った。何故か先着1名だったのが、俺にも分からないが、異世界系ラノベ作家と会えるのなら、それはそれで良い。俺はライトノベルが好きなのだ。


「確かに受け取りました。依頼者から伝えたい事項があるとの事なので、明後日王宮へ向かわれて下さい。」


……ん?王宮……?どうしてこうなった……。どうやら俺は王宮に招かれる事になったらしい。訳が分からないが、依頼者は王族だから仕方が無い事なのだろうか……?考えても無駄な気がしてきた。


兎に角、頭を冷やすために家に帰って水浴びをして寝た。この世界に地球の風呂なんて贅沢な物はない。地球が羨ましいよ。





明後日。俺は身支度を整えた。一番、高級な服を着て、髪を整えた。異世界文化の石鹸やワックスなど少し高かったが、購入して使用した。今の俺は冒険者だとは気付かれない筈だ。それぐらいにこの下町には似合わない程、今の俺は整っていた。モテるかもな。


モテすぎて困るであろう俺は王宮へと歩いた。冒険者な俺が馬車なんて大層な物は使えない。下町から怪訝そうな顔で俺を見る門番に笑いながら、貴族街へ入る。今の俺には臨時証明書があるので、貴族街に入れるのだ。やっぱ、俺モテるかもな。自慢しておくべきだったか。


貴族街でも冷たい目線を浴びていた気がするが、俺は気にしない。異世界系ラノベ作家に会うためだ。俺は何でもする。ついでにモテたいな。


王宮には三十分ほどして着いた。王宮の騎士に招待状を見せると、これまた冷たい目線を浴びたが、案内された。……裏口から。


まあ、俺は王族と会えるのなら、如何なる手段も問わないさ。これがモテ男のモテ道さ。


少しドヤ顔になっていたのか、騎士からの目線が痛い。ま、まあ気にしない。


「よく来た、冒険者よ。」


依頼者は王様だが、たかだか冒険者の為には面会できないとの事だ。代わりに王子が対応してくれるらしい。王女が良かったとは口が裂けても言えない。勿論、俺は跪いている。


「面をあげよ。」


俺は王子の許しの下、顔を上げる。王子は美形だ。俺よりは少し、少しだけ顔が良いようだ。王族というハンデがあるから、俺が負けるが、実際は俺が上だな。


心の中で見栄を張っているが、そんなことは王子が知る由もない。王子は依頼内容について話し始めた。


「其方を遣わしたのは他でもない、異世界系ラノベ作家を饗すためのギルドに所属してもらうためだ。」


「はっ。」


礼儀だけは弁えなくてはならない。俺かっこいい。


「そのギルドはあくまでも王族が主となるギルドだが、少々手が足りなくてな。其方に所属してもらい、異世界系ラノベ作家を饗してほしいのだ。」


要するに異世界系ラノベ作家の相手をするのが、大変だからその役目を渡してあげようと言う事か。俺は凄い幸運なようだ。まさしくwin-winな関係じゃないか。


「分かりました。王の名のもとにギルドに所属する事を誓います。」


「良かろう。ギルドの名は異世界系ラノベ作家から頂いておる。『異世界系ラノベ作家おもてなし課』というそうだ。詳しくは冒険者ギルドで聞いてくれ。」


これで王子との面会は終わった。どうやら俺は最高の生活が始まりそうだ。

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