永久欠番

増田朋美

第二章

華子が、常静の部屋をたずねると、常静は、ちゃぶ台のまえにすわり、何か書類をよんでいた。
「今日は、交流分析をしましょう。これは、あなたが、いま現在どんな状態かを知るもので、良い悪いの点検ではありません。どの、結果が一番いいのか、とか、またその逆でもありません。」
「はい。」華子は、ちゃぶ台にすわった。
「この紙をご覧ください。なんてことのない質問ですが、はいか、いいえを
かきこんでください。」
常静は、紙と鉛筆を手渡した。
「僕はあなたが、はいと答えた問いの数を方眼紙にかきます。そして、それを、五つの要素にわけます。さらに、五つの要素に、はいと回答したものの数がきまったら、折れ線グラフにあらわします。これによって、あなたが、何に過敏なのかをみることができます。」
うまく、理解できなかったが、華子は、常静からわたされた紙に、はい、いいえをかきこんでいった。
ほんとうにありふれた質問だった。「人の話を遮って自分の考えを言ったことがあるか?」、「炊事や、掃除はすきか?」、「決断は早いか?」、「音楽や美術はすきか?」、「自分がいいたいことがあっても、いえるか?」というような、そんなの当たり前じゃないか、と、いう質問が、五十題。華子は、五分もしないうちに、全問に回答した。常静は、速いな、とわらいながら、答を折れ線グラフに、あらわした。
「こんな感じですね。」
常静は、グラフをみせた。
「まず、五代要素を説明します。」常静は、鉛筆で、CP,NP,A,FC,AC
とかいてある箇所を示しながらいった。
「まず、CP,批判的な親、すなはち父親のこと。批判したり、責任感が強かったりします。次にNP,療育的な親、すなはち母親です。他人に対する親切や、同情心をあらわします。次にA、大人のこころ。合理的に、臨機応変にものごとをすすめるこころ。そして、FC,自由な子どものこころ。感性がよく、明るいこころです。音楽家には、よくある要素です。最後は、AC、順応した子どものこころ。自分を抑えて、まわりに入ろうとするこころです。どの要素の力がつよいのか、で、いまの精神状態をみるわけです。グラフのかたちは、N字型だったり、W字型だったりします。理想のかたちは、台形です。全て同じ点数で、一文字型もありますが、それは、理想ではありません。現代人には、非常に多いかたちですが。」
「私のグラフをみせてください。」
華子は、いった。自分もその形だと、
思っていた。
「はい、これですよ。あなたは、逆への字型です。」
常静は、方眼紙をみせた。そんなばかな、と、華子は思った。しかし、グラフは、CPが極端に高く、NPが非常に低い。それを定点に、右に上がっていく、まさしく、ひらがなの「へ」の文字の逆字だった。
「どうして、あたしがこんなかたちに。」
「はじめは、みんなそういいますよ。この形があなたの心です。助けてくれと悲鳴をあげている形です。なぜ、この形になったのか、を、傾聴でききとり、ときには、ヒプノセラピーを利用しなければならないときもありますよ。そして、台形に持ってゆく。これが、交流分析です。」
「台形というのは、どんな形なんですか?どこが強いんですか?」
「お見せしましょう。こういう形です。」
常静は、方眼紙をみせた。CPとACは、半分くらい、NP,A,FCが高得点の形だった。まさしく、富士山のような、形だった。
「初めからこの形なんて、だれもいませんよ。」と、常静は、いった。
「いたとしても、お釈迦様か、イエス・キリスト様とかでしょう。この治療は心の状態が、具象的になりますので、とても効果的な治療ですよ。1日一枚、その日にみたことや、かんじたことをおもいだしながら、質問に答えて、グラフを百枚かきなさい。そうしていくうちに、変わってくる筈です。では、今日は、ここまでにしましょう。」
と、常静は、たちあがり、桐箪笥の中から、方眼紙が、百枚入った桐箱をさしだした。いや、差し出そうと思った。しかし、急にくるしくなり、桐箱は、ドスンと畳の上におちた。
「先生?」
華子は、常静の体をささえた。
「大丈夫です。」
常静は、喉をゴロゴロならしながらいった。
「単なるアレルギーですから。その箱を持っていってくださいね。」
「はい」
常静の顔が引きつっていたので、華子は、箱を持って、寮にかえった。

一方。
東京では、、、。
長野淳子が、高校生のカウンセリングをしていた。しかし、彼女がいう、「自分の人生は自分できめられる。」という言葉を理解できるものは、ほとんどなかった。退学する者もいたが、結局、なにもできなくなる。自分できめろ、私を頼るのはだめよ、などいったが、結局は、生きるマニュアルを求める者が多かった。カウンセラーが、ああだこうだと、指示をだすことは、原則的にない。長野は、それを詠ったが、自分で気づくということができないものが、おおすぎた。
長野は、かつて、交流分析を習っていたことがあった。しかし、実際には役に立たなかったのでやめにした。
その中に、須田常静のながあった。須田は、もうまもなく、というところまできていると、きいたことがあったが、じつはどうなのだろうか。

華子は、常静にいわれたとおり、毎日グラフを書いた。一週間経っても逆への字方のままだ。
「華子さん」と、野村教授が声をかけた。
「須田君とは、うまくやっていますか?」
「うーん、いまのところは、、、。」
「でも、薬がうまくきいたのかな。随分おちついてきましたね。だれかにおいかけられたとか、まだありますか?」
「いえ、ないです。こんな山の中だから、みんな、嫌になったのかな。」
「実はね、明日のごご、精神科へ訪問にいくんです。あなたは、日が浅いから、まだいけないかな、とおもっていましたが、顔色はいいですから、いってみませんか?勿論須田君も、一緒ですよ。高橋医師のところです。慰問ではなく、患者さんたちの合唱をききにいくんですよ。」
「素敵だわ。」
と、華子はいった。
「では、いきますか?」
「ぜひ、おねがいします。」
華子は、笑みをうかべた。
翌日。
和代がワンボックスカーを運転して、全員精神科にいった。博が、野村教授の車椅子を押した。常静は、なにか心配そうだった。
全員、高橋医師の案内で、病棟に入った。病棟といっても、問題をおこすような、重度のものは、いなかった。華子たちは、広い部屋にとおされた。患者たちが着飾って舞台に立っていた。中には、薬でぼんやりしているものもいる。それだけ症状が激しいのだろう。人が獣のようになる、それが、精神疾患というものだ。
華子たちは、指定されたパイプ椅子にすわった。まもなく患者たちの合唱がはじまった。曲は、木下牧子の、「夢見たものは、」と、「鴎」であった。しかし、華子は、急に気分がわるくなった。曲が佳境にはいってきた、
すると、彼女の目の前に、担任教師があらわれた!そして、物差しを振り上げた、、、。
「やめてください!」
華子は、思わず金切り声を上げた。すると強い腕が彼女の目をふさぎ、しっかりと彼女を抱きしめた。歌っていた患者たちも、彼女の豹変ぶりに、おどろき、貰い泣きをしたり、自分たちの歌を邪魔したと怒鳴る者、華子につっかかるものまでいた。非常ベルが鳴り、看護師がとびだしてきて、柔道の技を使ったり、注射をうつなりして、おちつかせた。患者たちがもどるまで、華子は、強い腕の中にいた。やがて野村教授が高橋医師に、金を払い、謝罪している声がした。
「いいんですよ、野村教授。こういうことは、よくありますから。お金なんていりませんよ。」高橋医師の声がした。
やがて、華子を抱えている手がゆるんできた。頭上から、うめき声がして、華子から、手が離れた。
「常静君、もう良いよ、手を放してあげて。」と高橋医師の声がして、華子は、やっと、ものを見れるようになった。後ろで、ゴロゴロと、聞き覚えがあるおとがした。振り向くと、常静が胸を押さえながら、うずくまっていた。華子は、常静になにか言おうとした。しかし、声がでない!一生懸命金魚のように、口を動かしていると、常静が彼女のかおをみて、再び彼女をだきしめた。
「常静、」
高橋医師は静かにいった。
「きみは、そんな体で、教授が勤まるはずがない。すぐに大きな病院で、手術してもらいなさい。君は、いつまで、わがままを押し通すつもりかね。」
非常に厳しい声だった。
「いえ。」と、常静は、呼吸を整えながらいった。
「やります。」
細い細いこえだった。
「高橋先生、かれの事より、華子さんをなんとか、してあげてくたさい。」野村教授が発言した。
「うん。ちょっと落ち着くまで、休憩室にいこうか。いま、薬をもってこさせます。」高橋医師は、看護師一人と、博と和代を付き添いとして、華子を病棟からだした。
「常静、君は、庭を散歩して頭を冷やせ。」
野村教授は、強くいった。
常静は、何か言おうとしたが、
「これは、命令だ!」
と、教授は、どなった。
「常静先生、お庭にいきましょうか。」
と、看護師に体を支えてもらいながら、常静も、部屋からでた。
残ったのは野村教授と、高橋医師だった。
「すみません、僕の不注意で。」
野村は、車椅子のまま、謝罪した。
「いやいや、彼女のような例は沢山ありますから気にしないでください、それより、常静のほうが心配です。専門ではない僕がみてもわかりますよ。都内か、どこかの心臓外科で、バチスタとか、やらないと、大変なことになります。」
「先生、常静は、自分でもわかっていると思うんです。彼女を最期の生徒として、立ち直らせたいのでしょう。彼は、人が何をいっても、聞かないことがありますから。許してやってくれますか、」
「しかし、彼はまだ三十五ではないですか、まだまだ可能性のある年齢でしょう。あそこまで音楽の才能をゆうしながら、何かもったいなさすぎでは。」
「きっと、もう、手遅れだと知っているのではないでしょうか。本人が、長くないと、わかっているのだとおもいますよ。彼の言うとおりにして、最期の最期まで、古筝に生きた人間として、送ってやるのが一番だと、おもいます。それしかないんです。きっと。」
「そうか、、、。」高橋はがっかりしたようにいった。
「あの音が聞けなくなるのもそうとおくないな。でも、野村君、少しでも彼の音をきけるように、病院にはちゃんといくように、いってくださいよ。」
二人は肩をおとした。



徳松百合子は、あることで、悩んでいた。彼女が若いころは、親たちは、自分の前にひれ伏していた。受験のことを何一つ、知らない、そして良い学校へいかせたい、という親たちばかりで、ただ、受験は、テクニックであると、知らせればよかった。私立大学に行かせないために、学費が一千万かかると、生徒を脅し、言うことを聞かなければ、物差しでぶったたく。これでよい。と、彼女は、確信していた。とにかく自分の地位を保持するため、そのやり方を貫き通し、若い男性教師よりも、恐ろしかった。
その徳松は、50歳の誕生日を迎えた。
結婚もしていないので、一人で、近所のスーパーマーケットにいった。夕食は、カップヌードルと、サプリメントしかなかった。すると、とんとん、と肩を叩かれた。池波淳子だった。
「あら、池波先生。」
「いえ、ちがいます。長野です。主人と離婚して、シングルにもどりました。」
「まあ、あんなに仲良くされていたのに?」
長野が、夫と仲がいいのは、学校中知れ渡っていた。徳松も、知っていたが、うらやましいとも何とも思わなかった。しかし、ここへきて、急に寂しくなった。
「ええ。主人は、浮気して出て行きました。私、主人のこと、何も知らなかったんですよ。」
「先生は、いまは、お一人?」
「 ええ。カウンセリングはしてますけど。」
徳松は、長野が、うらやましかった。まだ、手に職をもっている。しかし、自分には何もない気がした。

翌日。
徳松は、いつもどおりに、学校に来た。そしてまた、根無し草の受験生に、私立大学は、一千万かかる、いってはいけない、と、物差しを振り上げた。そして、
「いいか、とにかく、お父様やお母様に、負担をかけず、卒業して、ご両親が安心してあの世へいける、そんな人間になりなさい!」
とどなり、物差しを床へ振り下ろした。すると、それは、一番前に座っていた、男子生徒の額にあたり、男子生徒の頭から噴水のように、血がふきだした。すると、隣にすわっていた、吉田朗子というがたいの大きい女子生徒が、たちあがった。
「先生、私たちは先生のために、大学へ行くんじゃありません。」
徳松は、ケッとわらった。
「何もしない、あなたに、何がわかるの?ご両親があなたのために、何回も血を流したかわかるの?」
「親がいない場合はどうなるんですか?」
朗子も負けじとどなりかえした。徳松は、はっとした。この生徒は、交通事故により、両親をなくしている。いまは、母方の祖父とくらしているのだ。
そんなこと、なぜ忘れたのだろう。
「先生、はやく、佐藤君を保健室へ。」朗子は、いったが、徳松は、指示をだせなかった。物差しがパタンと落ちた。怪我をした男子生徒は、他の生徒がつれていった。すると、それまで黙っていた生徒が、一斉にさわぎだした。
「あたしたちはもう、先生なんて信じません!」
朗子が怒鳴ると、女子生徒たちは、手拍子しながら、
「でていけ、でていけ!」と叫びだした。
「しずかに!」徳松がさけんでもつうじない。
徳松は、腰に激しい痛みをかんじ、すわりこんでしまった。ぎっくり腰であった。生徒たちは、ちんどんやのように、教室をでていった。

富士では、深刻な問題がおきてきた。華子がまったく口を聞かず、何かキーワードをいうと、奇声をあげて大暴れする。そのキーワードは、おもに学校のことや、心理学的なことだった。博や、和代は、入院させてあげたら、と提案したが、高橋医師にたのんでも、病院は、定員いっぱいで空きがない、と断られてしまった。二人は、華子に話しかけないようにしないと、自分の身がもたない、と、愚痴をいったが、常静だけはちがった。彼は、華子を寮からだし、自分のいえにすまわせた。力を振り絞って、古筝をを弾き歌いした。体をみせなければならない場所いがいなら、華子が暴れると、強いうででだきしめ、ブラームスの子守歌などを口ずさんだ。
博と和代は、常静の体が心配だと、野村教授からきいていたので、定期的に訪れたが、古筝のおとは、鳴り止まなかった。
それを、何日繰り返しただろう。
あるひ、常静が華子をだきしめ、漢詩に節をつけて歌ったところ華子は、復唱しはじめた。しかし、それは、オウム返しでしかなく、話す言葉にはほどとおかった。



華子は、常静が弾き語りをする漢詩を復唱することは、できるようになったが、まだ発話はできなかった。常静は、彼女の症状を健忘失語と見抜いた。ある、重大な心の傷を負い、それから逃れようとするために、言葉が言えなくなる、と言うものだ。また、キーワードは、「夢に向かって」とか、「夢を追いかけて」など、将来性の話をすると暴れ出す、ということもわかった。一時期、解離性同一性障害とも考えたが、全く矛盾したことを言うわけではないし、キーワードさえ言わなければ、喋れなくても生活は可能なので、それは違うな、とわかった。
「華子さん、大丈夫なのかなあ。」博は、和代にいった。
「大丈夫よ。きっと。常静先生と一緒なら。」
「でも、健忘失語って、」
「大丈夫よ。先生は、解離性同一性障害、いわゆる多重人格障害の方もなおしたのよ。」
「えっ、それ初耳。本当なんですか。」
「ほんとうよ。彼女と同じ年の男の子だったわ。人格さんを三十人以上作って、すごく大変だったらしいけど、最後には人格さんは、みんな消えていったわ。いまは、立派な古筝弾きとして、音大で教えているそうよ、」
「ねえ和代さん、」
博は、何かひらめいた。
「その人の名前は?」
「吉田玲」
「その人をこっちへ呼ぶわけには、いかないかな。常静先生だけじゃ、カバーできないよ、いくらキーワードをいわなければ、大丈夫だとはいっても、ポロッと口にしてしまうことはあるし。」
「そうね。野村教授に頼んで、呼んでもらいましょうか。」

翌日。
吉田玲が、アカデミーにやってきた。
きりっとした、しかし、憂いをもった顔であった。
野村教授がでむかえた。
「吉田先生、きてくださってありがとうございます。」
野村は、頭を下げた。
玲は、昔と全く変わっていた。三十人以上、有名なビリー、ミリガンよりも多くの人格を宿した、あのころの風貌は、少しもなかった。
「常静先生は、お元気ですか。」
「いえ、それが、須田君は、相当進んできているみたいで。もう、、、。」
「そうですか、クライアントの華子さん、上村華子は、僕の妹の、吉田朗子の同級生です。朗子は、徳松という教師にひどくいじめられ、先月、退学しました。朗子に聞いた話ですと、華子さんは、徳松に、三十六回叩かれていた、と聞いています。」
「三十六。まあ、それは、やりすぎですね。」
「ええ、朗子の話ですと、あの学校は、日常的に体罰が行われているようてす。その理由は知らないようですが、朗子が入学する前には、耳を殴られ、聴力をなくした生徒がいたときいています。朗子は、いま、退学して、特殊学校にいっていますが、友達も何人かいるみたいです。華子さんは、健忘失語になるほど辛かったんですね。」
「ええ。須田君は、弱音をはきませんから、なにも言わずにセラピーを続けていますが、このままですと、もともとこれっきりしかない生命力がむしり取られてしまいます。手伝ってやってくれませんか?」
「はい。常静先生のような、優秀では、ありませんが。」
野村は、玲を常静の部屋につれていった。
「常静先生。」
と、玲は、戸をあけた。古筝の音がとまった。常静がお入りください、と優しくいった。
「吉田くん。」
常静は、涙を流しながらいった。
「随分良くなったんだね。あのころとは、大違い。」
「先生のおかげです。」
華子もこの人が誰だかわかった。吉田朗子の兄だ。しかし、朗子は、徳松の殿のようなかんじであり、高得点者でもあった。確かに朗子の兄は、多重人格者だとは、知っていたが、なぜここへきたのだろう?
「もう、国家試験には、受かったの?」
「お陰様で受かりました。中国は、なんとなく怖い国といわれますが、のんびりしていて、心がらくになりましたよ。」
「そうか、いまは、立派な気孔師になったんだね。」
「はい。先生、」
二人は、専門用語を使い、打ち合わせをした。
「では、やってみましょうか。」
常静は、古筝を弾き始めた。
非常にゆっくりしたメロディーがながれだした。華子は、力がぬけた。すると、温かい手が、彼女の頭を触り、次に首をさわった。はじめは、セクハラとおもったが、その手は、やさしく包み込むような、極論すれば、赤ん坊を抱く母親のような温もりを感じられた。
音楽がとまり、手がはなれた。
華子は、周りが明るくなったように、みえた。
「華子さん。」
玲が小さく声をかけた。
「は、はい。」
と華子はいった。言葉がでた!言葉がでた!言葉がでた!
華子は、感涙にむせいだ。常静も、泣いていた。
「先生、、、」華子は、おそるおそる、口を開いた。違和感もなにもない。
「ありがとう、ございました!」
今度は一気にいった。流暢にでた、訛りや、どもりもなにもない。
華子は、涙を流している常静に、
「先生、そんなに泣くと、絃が錆びますよ。」
といった。常静は、彼女をだきしめた。
「よかったですね。」
玲もわらった。
その日、華子が書いたグラフは、逆への字てはなく、CPが少しおち、NPが、少しあがった。 


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