転生銀髪美少女は勇者にすべてを任せて楽に生きたい

美浜

第21話 覚悟ならあります!

「シオンさんっ」


 ハルバルトさんとの特訓を終え宿で帰りを待っていたところ、宿の扉が開かれた。

 中に入ってきたのは金髪と整った顔が印象的な現勇者であるシオンさんと、真っ赤な髪が活発的な印象を与えるレーラさん。


 この二人がいつものように、まるで激しい運動をした後のように汗を垂らしながら帰ってきた。


「あ、シルバーか。すまんが先に風呂に入らせてくれ。汗を流したい」


 そう言うとレーラさんとシオンさんは二階へ上がって各自の部屋に入る。

 僕も何もすることはないから自分の部屋に戻る。
 ダンジョンについては夜ご飯のあとに聞くことにした。




 魔王ちゃんではなく宿の人が作ってくれた夜ご飯を食べ、片付けを済ませて早速シオンさんの部屋にきた。


「それで、なんか俺に用か?」

「はい。ハルバルトさんからダンジョンのことを聞いて、詳しく知りたいならシオンさんにと」

「ハルバルトのやつ余計なことを······。シルバー、ダンジョンあそこは危険だ。何がいるか分からないし、帰れる保証もない」
 
「それでも、僕は強くなりたいんです! 魔法だけに頼らないでも強くなりたいんです!」

「冗談抜きで死ぬかもしれないんだぞ?」

「······覚悟はあります」

「助けにはいけないからな?」

「自力でなんとかしてみせます」

「う~ん。シルバー、一気に強くなるにはどうしたらいいと思う?」

「えっと、ハルバルトさんは神の祝福ファンファーレだと言ってました」

「まあ、それもあるな。ただ、もう一つあるぞ」

「もう一つ?」

「ああ、火事場の馬鹿力って言うだろ? 本当にピンチになったときに覚醒するってこともあるんだ。だからな、相当自分を追い込まなくちゃいけない。それこそ、死ぬ寸前までな」

「······やってみせます」

「シルバーはどうしてそこまでして強くなりたいんだ?」

「どうして······」


 僕は深く考え込んでしまう。
 流れみたいなもので覚悟があると言ったけれど、どうしてそこまでしたいのか。

 僕は特に特別なことはしてなくてこういう異世界に憧れていたのもあるけど、実際に魔法を使ってみてそのすごさにテンションが上がってあたかも自分がすごいのだと勘違いしていた。

 ハルバルトさんと魔法なしで戦って、元の世界よりもはるかに機敏に、力強く動けていたのに僕の剣はかすりもしなかった。

 そこで気づいたんです。

 借り物の力に頼っていちゃダメなんだって。

 だから決めたんです。
 元の世界ではなんの取り柄もなくて役立ずな僕だったけど、強力な魔法を持ってて身体能力の高い今の僕は何か役に立とうと。
 そして僕の目標は今目の前にいるシオンさんやレーラさんと一緒に魔王を倒すこと。

 そのためにも僕は───


「僕は借り物の力に頼りたくない。自分の力で僕にしかできないことを成し遂げたい!」

「うん。いい目をしている。大口叩いたんだから自分の言葉には責任を持つんだぞ?」

「はい!」

「早速で悪いが······」


 すっとシオンさんが近づいてくる。
 そしてそのまま強烈なボディブローが僕のみぞおちにクリーンヒット。
 激痛に顔を歪ませる。呼吸をしようにも息を吸っても吐くことができない。
 どんどん苦しくなり意識が遠退いていく。


「どう······して·····」

「目が覚めたらそこはもうダンジョンだ。どこにゴールがあるかも分からない。けれど諦めるな。諦らめなければ道はある。それと、最後に。魔女・・には気を付けろ。会ったらすぐに逃げるんだ。それじゃ、健闘を祈ってる」


 シオンさんの言葉に返事もできずに僕の意識は完全に落ちた。

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