村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

次はお前の番だ 3

 行きと全く同じ道を帰り、来た時よりも格段に早く帰ることができた一同は、その帰り道で烈毅の異常なまでの身体能力の向上に気づき、驚いていた。

 だが、それを烈毅には言おうとはしなかった。というより、誰も言い出さなかった。あのエルフの国の惨状を見てしまった後では、そんな気も起きなかった。

 恐らく、烈毅自身も気づいてはいるのだろうが、それを態々今この場で自慢するほど、烈毅も馬鹿ではなかった。

 妖狐の国まで誰も喋らなかった。そして、皆思っていた。あそこまでできる人物がこの世にいるのかと。ものすごく大きな国ひとつを簡単に一掃できる者がいるのかと。

 少なくとも、皆が知る中では烈毅が一番強いのだが、それでも多分あそこまでは出来ないと思っている。烈毅自身、あれは無理だと確信している。

 そして妖狐の国に戻り、長かった旅もひとまず終了だ。エルフの国が消し飛ばされたことはとても驚いたが、収穫もあった。烈毅の復活だ。

 その事を思えば、皆も落ち着いていられた。その日は城に戻ってすぐ眠りについた。長い旅の疲れが出たのか、丸一日眠りっきりだった。

 そしてその翌日、改めて生還の祝いをと城でパーティーが計画された。小さい誕生日パーティーのような感じだが、それでも十分な規模であった。

 その計画がされた後、エルフの国の惨状についてや、ルーフについてなども話し合うこととなった。

「さぁ、パーティーの事は今は置いといて、エルフの国の事とかその他諸々について話す」

 その一言でその場の賑やかな雰囲気は一瞬で変わり、重苦しい雰囲気になった。それを察したネキツ、キュウも唾を飲み込み話を聞いた。

「まず、エルフの国のことを話すか。ネキツさん、キュウ、聞いてもあまり慌てないで欲しいんだけど、率直に言う。エルフの国はこの世界から消え去った」

「なんじゃと!?」

 キュウは驚かずにはいられず、立ち上がりながら声を荒らげた。ネキツも冷静そうではいるが、額から垂れる汗を烈毅は見逃さなかった。

「まぁ落ち着け、キュウ。完全に絶滅した訳じゃない。ここにいるルーフが、エルフの最後の生き残りだ」

 烈毅に紹介され、ペコりとお辞儀をするルーフに、キュウとネキツも軽く会釈する。そして、目の前にいるとても貴重な存在に、少し心がほっとする。

「完全に絶滅した訳ではあらへんのなぁ。ほんなら良かったわぁ。ルーフはん、辛いかもしれへんけど頑張っていこなぁ」

「は、はい!」

「ルーフ! 童女とお主はもう友達じゃ! 仲良くあそぶのじゃ! 童女の名前はキュウじゃ。ヨロシク!」

「う、うん!」

 早速キュウとルーフが仲良くなってくれたおかげで、この後の話も切り出しやすくなったと、烈毅もホッとした。

「それと、俺も無事治りました。迷惑をお掛けしました」

「かまへんよ。キュウの将来の旦那が、死なれたら困るからなぁ? 助けるのは当たり前や」

「「なに!?」」

「ああ、ほらミーシュ、ナーシェ、落ち着いて……」

「それなら良かったです。それと、この後の話なんですけど……」

「……もう行くんか?」

「……はい。やらなければならない事があるので」

 ルーフがもしこのグループから弾かれたら、ルーフの為に動いていた。だが、その心配も杞憂に終わり、この後の行動に取り掛かりやすくなった。

「俺達はパーティーの後すぐに戻るつもりです。エルフの国の事できついかもしれないけど、それでも行かないと行けないんです」

 烈毅の明確な意志に、ミーシュ達も強く頷く。弱っていては足を引っ張るだけだ。

「そうか……強くなったんやなぁ、烈毅はん」

「いえ、強くなってはいないですよ」

「ふふ……ほんまおもろしわぁ。ウチにはお見通しなの忘れてはるん?」

「ああ、そうでした。でも、読めない所もあったんじゃないんですか?」

 烈毅の謎の自信にネキツも少し驚く。実際、以前よりも読めないところがいくつかあった。ネキツは、ますます烈毅の事が知りたくなった。

「ま、そんな感じです! ちょっと雑になってしまいましたが、これで終わりにしましょう。これを乗り越えて行きましょ」

 最後に、エルフの国と民に黙祷を捧げ、その場は解散した。ルーフは、少し涙ぐんでいたが、キュウがそれを慰めてくれていた。本当にできた九尾だ。

 部屋に戻り、ベット寝っ転がり足を組んで高い天井を見上げながら、烈毅はある事を考えていた。

 それは、エルフ関連のことではなく、妖狐関連の事でもない。

 それはルノの事だ。自分自信辛い経験をしてようやっとバットステータスを解除できたのだ。ましてやルノは女の子であり、まだ弱い。

 彼女は、何時からか戦えなくなってしまったバットステータスがついており、それを克服させる為につい最近から訓練はさせているが、まだ回復が見込めていない。

 自覚は彼女にもあるようだが、どうも一歩が踏み出せないらしい。烈毅とは違い、外部の者が魔法をかけてこうなったのではなさそうだ。

「これは、俺がやってあげなきゃならないよな」

 自分が一番長く付き合っているルノに、感謝や期待、そして何より愛をこめて、対策を練ることにし、烈毅はその日、一晩どうするかを考えた。

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