村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

好きだからこそ 2

 烈毅を目覚めさせようの会が結成されてから三日が経ち、これといってまだ何もしていない。それは、烈毅が中々外に出てきてくれないため、動こうにも動き出せなかったのだ。

「烈毅、出てこないわね」

「だね……だけど、中に居るのは確実だから、いっその事突撃してみる?」

「そんな事しても無駄よ。どうせ話もろくに聞きゃしないわよ〜」

「そ、それはそうかもだけど……じゃあどうしろって言うのよ、ミーシュ」

「待てばいいのよ。下手に動いて烈毅を刺激するよりは良いでしょ?」

「それもそうだけど……」

「取り敢えず、今は特訓に集中しましょ? 少しでも強くなっておけば気が変わるかも」

「う〜ん……」

「まぁそうなる気持ちも分かるけどさ、まだこの作戦をしようと決めて三日しか経ってないのよ? 落ち込むには早すぎるわ」

「そう……だね。うん、早すぎるよね!」

 ナーシェは、無理矢理自分に言い聞かせ、特訓を再開するためにファイアの元へ戻る。ミーシュも、そう強がって見せたは良いものの、正直心のどこかで同じ事を思っていた。ミーシュだけではない。レーナ、ルノ、ファイアも同じ事を思っていた。

「さて、私も特訓に戻りますかね」

 ミーシュは、マグカップに入ったらコーヒーを飲み干し、いざ立ち上がろうとすると、そこにクルルが現れた。

「待ってくれ、ミーシュ」

「な、何?」

「烈毅の事なんだが……」

「うん」

「と、その前に、ミーシュに聞いておきたいんだが、貴方は烈毅の事をどれくらい思っている?」

「そんな事、今はどでもいいでしょ?」

「まぁそう言うな。貴方は他の者と比べて冷静にことを見ている。だから、貴方に話しておこうと思ったんだ」

「何を?」

「さっきの質問に答えてくれたら教えよう」

「あぁ、もうわかったわよ。好きよ、好き。信用してるし頼りにしてる」

「なら、どんなに辛い事でも受け入れられる事は出来るのか?」

「できる」

「即答か……よし、なら単刀直入に言おう。多分、このままいくと烈毅は人で無くなる。完全にだ」

「それはどういうこと?」

「烈毅の持つ、ユニークスキル。あれは、理性を壊すものだったか? あの効果が積み重なって完全に人としての感情やらその他諸々を失うって事だ」

「何で?」

「あれは、確か"憤怒"のユニークスキルと連動しているだろ? これから何度も王と戦うとなれば、あれは必ず発動する。その度理性を失っていく」

「何度も? 烈毅がそう何度も負ける訳無いでしょ?」

「いや、それがそうはいかないんだ。先日、烈毅が王と戦ったと言っただろ? その時、烈毅の力は遠く及ばなかったんだ」

「遠く及ばなかった……? それはつまり、王の強さは、烈毅の強さの何倍も上ってことなの?」

「そうだ」

 それを聞いたミーシュは、鳥肌が立った。そして、次の言葉が出てこなかった。

 絶対的な力を持つ烈毅が、負けたと聞き、その戦いが均衡した戦いでは無く、力の差を歴然と感じさせる程の負け方をしたとなれば、そうなるのも仕方がなかった。

「だから、もしあの状態から目を覚まさせるとなると、烈毅が何かしらのユニークスキルを持っているか、もしくは取り除くかしかない」

「そ、そうね。でも、そんな効果のユニークスキルは無かったと思う……取り除くっていうのは、具体的にはどうするの?」

「私には分からない……が、一度だけ王宮にあった本で読んだことがある」

「それは?」

「この世界にはいない者の種族が書いてあって、絶対に有り得ない話だからな……聞いても無駄だぞ?」

「じゃあなんで言ったのよ……」

「気休め程度にな?」

「はぁ……そんな嘘を言うくらいだったら、もう少し夢の持てる嘘にしなさ……い……」

「どうした? 急に顎を抑えたりなんかして」

「あんた今、『この世界では有り得ない』って言ったわよね? その本に書いてあった世界って、どんな世界なの?」

「ん? それは教えてもいいが、おとぎ話の様な世界の話だぞ?」

「いいから、早く言いなさい!」

「強引な女め……その本に書いてあったのは、『耳が長く、長命な種族と呼ばれるエルフが作るとされる、特殊な秘薬を飲めば、どんな病気や異常状態をも直せる』という物だが、信じられないだろ? まず、エルフってなんだ? 聞いたこともないぞ」

「私も……でも、もしかしたらそれは嘘では無くて、本当の事なのかも」

「は? なぜそう思う?」

「まぁ、ちょっとね。よし、ならそれを話に烈毅の部屋まで行くわよ!」

「なっ、そんな話、烈毅が信じると思うか!?」

「思う!」

「強引な……」

「女って言いたいのはわかったから! 早く行くわよ!」

 先程までどこか希望のなさそうな目をしていたミーシュは、その話を聞いて突然目を輝かせながら立ち上がり、クルルの手を引っ張っていく。

 その話を聞く途中、なぜあの世界の事が書いてある本があるのかと、ミーシュは疑問に思ったが、すぐにその疑問は頭から消えた。

 今やろうとしている作戦よりも、何倍も見込みがあるその話に、ミーシュは少し希望を見出していた。

「待っててよ〜、烈毅! 絶対あんたを救ってみせるから!」

「ひ、引っ張るな! 自分で歩くから!」

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