村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

最善策 8

「おらおらおらぁ!!」

 烈毅は、躊躇いもなく殺しにくる暗殺者達に対応し、殺さない程度に力を入れて攻撃をして、次々と無力化していった。

 途中、少しでも犠牲者を増やそうとしたのか、暗殺者の幾人かが囚われた人質を殺そうとする光景が目に入り、それだけはさせまいと、烈毅は"負け知らずの最弱"を発動させ、一瞬で距離を詰めて無力化させた。

「おい烈毅、外の連中は片付けたぞ!」

「わかった! なら、壁ぶっ壊してもいいから人質を連れて逃げてくれ!」

「それだと気づかれるけどいいのか!」

「ああ、大丈夫! もう気づかれてるから!」

 烈毅は、五人を相手にしながらも余裕を残して話していると、外の方から「侵入者だ!」という声が飛び交い、いよいよ逃げられなくなった。

「カゲロウ、シェルド、お前ら二人で先に人質と逃げてろ! 俺は後で合流する!」

「そんなことできるわけ―」

「わかった。なら先に待っている」

「頼むよ!」

 その会話の後、烈毅に再び暗殺者達が飛びかかる。

「何でだシェルド! 烈毅を助けないのか!?」

「逃がす方が先決だ。早く行くぞ、みんな待ってる」

「……チッ、わかった」

 そうして、二人は人質の囚われている方へ向かい、犠牲者を出さないために迅速に動いた。

「俺が壁を壊す。そのうちに纏めとけ」

「わかった」

 シェルドは走って壁の方へ向かった。入口は念の為に閉めておいてはあるが、壊されるのは時間の問題だ。少しでも逃げる距離を短くするための策だ。これが失敗したらそれは仕方ない。

「みんな、逃げるぞ! 走れる者は歩ける者はシェルドについてけ! 怪我人や病人は担げるやつが担げ! 最後尾には俺が付くから、置いてかれんなよ!」

 その指示の後、すぐに壁が壊れた激しい音が鳴ると、人質達は一斉に走り出した。壁の穴の大きさはかなり大きいものだったが、何千といる人質が一斉に押し寄せると、やはり詰まってしまう。

「ど、どけぇ! オラが行くだァ!」

「早く行けよ! こんな所で死にたくねぇ!」

 様々な声がそこら中を飛び交い、混乱状態に陥ってしまう。カゲロウも、一生懸命止めようと叫ぶも、幾つもの声が重なってしまうとその指示は通らない。

「まずいまずいまずい!」

 カゲロウは焦り始め、一滴の汗が頬を伝う。頭の中は真っ白になりかけ、何をしようも行動ができない。そんな時―

「てめぇらうるせぇぇぇぇえ!!」

 どこからとも無く聞こえた、耳を塞ぎたくなるような大きい声が聞こえ、一同は一言も喋らなくなり、動きが止まる。

 その発言者は、今も尚暗殺者と対峙する烈毅の声だった。

「そんな状態じゃだめだろ! 余計に時間がかかるだろうがアホ! しっかりカゲロウとシェルドの指示を聞け! それが出来ないのなら死ね!」

 烈毅の言葉は、その場の全員の心に響く。苛立ちを覚えるものもいたが、大半は反省をした。

「行け、カゲロウ、シェルド! しっかり指示しろよ!」

「……ありがとう、烈毅」

 そのカゲロウの感謝の言葉は、戦っている烈毅のもとには届かない。だが、うっすらと烈毅が笑った事を確認する。それを見たカゲロウは目を見開き、フッと笑ってから指示を始める。

「さぁ、押さず走らず喋らずにだ! 外にも敵はいると思うけど、それはシェルドが倒してくれるから安心して行動してください!」

 その指示が通るようになると、すんなり人質は減り、もう建物内に人質はゼロになる。

「最後の一人!」

 人質が逃げ終わるのとほぼ同時に、烈毅は暗殺者を全員無力化させた。そして、休憩する訳でもなく、すぐに建物の外まで走り、人質が安全かを確かめに行った。

「さっきので最後か?」

「多分。残りは……あいつらだな」

「カゲロウ。ここは俺に任せて、お前は家族を探しに行け」

「烈毅……」

「強がってるわけじゃない。ただ、俺も家族の大切さってのは分かってるつもりだからさ」

 目の前には、ぞろぞろと迫り来る援軍の妖狐達がおり、その数は目算でざっと一万。その相手を前にしても、烈毅は他人のことを気にしていた。

「わかった。じゃあ、後で会おう」

「おう……家族、無事だといいな」

「ああ。本当にありがとう」

 そうして、カゲロウはその場を走り去って行く。

「さてさて、ここは全力で死守させてもらいますよ過激派の皆さん。なんてったって、あっちでは感動の再開シーンやってんだからなぁ」

 先程まで戦っていた疲れを1ミリも見せずに、烈毅は手足をブラブラとさせ、首を二度鳴らす。

「さぁ、第二ラウンドの始まりだぁ!」

「村人が世界最強だと嫌われるらしい」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • 勝長

    れつきカッコイイ!

    2
コメントを書く