天下界の無信仰者(イレギュラー)
てめえがミカエルか?
男の頭に手が当てられる。そのまま男は顔面から地面に叩きつけられた。
「ぐはあ!」
「奇襲か? やっぱり聖騎士隊とは違うのな、勝つためなら背後からだろうが攻めるっていうのは俺も賛成だぜ」
男を叩きつけた張本人、エリヤは大剣を担いだまま男を掴んでいた手をどかしやれやれと振るう。
「今のは」
「やはりあの噂は本当なのか?」
先出しの空間転移に対しカウンターを決めるのは難しい。いくら姿が消えたのを視認したからといってもどこに出てくるかは分からず、仮に勘が当たってもこちらが空間転移をする前に相手の攻撃がくる。次元の駆け引きはまさに先手必勝だ。
しかしエリヤは見事カウンターを決めた。それは誰にもできることではない。
「対次元操作体質」
信じられないという表情で十字隊員はつぶやいた。
対次元操作体質。体質と呼ばれているのは技術体系がなく使っている本人も無自覚だからだ。
その特性は受動的な次元操作。自分からは時間操作どころか空間転移もできない代わりに相手が発動した場合カウンターとして発動し相手の次元操作を上回るというもの。相手が空間転移を行えばどこに出てくるか把握、先回りして空間転移ができる。相手が時間停止を行おうと相手を上回る速度で動く。
それが神化によって得たエリヤの変質的な次元操作だった。さらには世界改変にすら反応するようになったこの力はレジェンドとも対抗できるものであり、その実力は神官長、教皇に次ぐものとなっていた。
最強の聖騎士の名は伊達では無い。次元操作も全能も利かず肉体強度は規格外という怪物。
その力もあり方も異端。
まさしく、現代のイレギュラーだった。
そんな中、この場には似合わない声が聞こえてきた。
「まったく残念残念」
緊張感のない声。その声に十字隊が振り返る。
「ミカエル神官!?」
「あいつが……」
神官である白の正装に身を包んだ金髪の美青年がこちらへと近づいてくる。
あれが最近頭角を表してきたというミカエル。ウリエルを処刑しようとしている黒幕か。
「神官殿は下がっていてください、ここは我々が」
「いや、残念だが下がるのは君たちの方だ。それに残念だが私をご指名のようだしね」
「しかし」
十字隊の警告を無視してミカエルは前線に出てくる。警備対象である神官が前に出るなど十字隊員からすれば気が気ではない。
「なに、私の心配ならいらないよ」
そんな彼らの心配を気に留めずミカエルはエリヤの正面で立ち止まった。まだ距離はあるものの余裕の態度だ、緊張感どころか危機感すら彼の素振りからは見られない。
しかし。
足が止まりエリヤを正面に見据えた時、その目が鋭く細められた。
「このような賊にやられるほどやわじゃないんでね」
深い、底の知れない容量。その瞳の凄みはただ者ではない。神官というだけではない、この男は特別だ。
(こいつも天羽か)
見るだけで他人に与えるプレッシャー。ミカエルが放つ圧力にエリヤは瞬時に理解した。
「エリヤ君、だったかな」
底冷えする眼光をそのままにミカエルがおもむろに話し出す。
「モーゼ神官長を襲った時以来か。私もあの場にいてね。ずいぶんやってくれたじゃないか、これは重罪だよ? 残念な君は理解していないようだがね。神官長殿を襲ってなお実刑を免れた温情を忘れ、またしてもこのような行いとは。君は救いようがないほど残念だ。残念残念」
「いちいち残念残念うるさいやつだな」
ミカエルの視線が突き刺さるがエリヤはなお平然としている。これで乱されるほどエリヤの肝もやわではない。
ここに来てエリヤもようやく顔が真剣なものへと変わっていった。
「てめえがミカエルか?」
「いかにも」
エリヤの答えにすんなりと答える。睨むような目つきのエリヤだがミカエルの表情は変わらない。
「なぜウリエルを狙う?」
「ふふ」
ミカエルが小さく笑う。
「そうかそうか、やはり君だったか。彼女の手引きは」
「ぐはあ!」
「奇襲か? やっぱり聖騎士隊とは違うのな、勝つためなら背後からだろうが攻めるっていうのは俺も賛成だぜ」
男を叩きつけた張本人、エリヤは大剣を担いだまま男を掴んでいた手をどかしやれやれと振るう。
「今のは」
「やはりあの噂は本当なのか?」
先出しの空間転移に対しカウンターを決めるのは難しい。いくら姿が消えたのを視認したからといってもどこに出てくるかは分からず、仮に勘が当たってもこちらが空間転移をする前に相手の攻撃がくる。次元の駆け引きはまさに先手必勝だ。
しかしエリヤは見事カウンターを決めた。それは誰にもできることではない。
「対次元操作体質」
信じられないという表情で十字隊員はつぶやいた。
対次元操作体質。体質と呼ばれているのは技術体系がなく使っている本人も無自覚だからだ。
その特性は受動的な次元操作。自分からは時間操作どころか空間転移もできない代わりに相手が発動した場合カウンターとして発動し相手の次元操作を上回るというもの。相手が空間転移を行えばどこに出てくるか把握、先回りして空間転移ができる。相手が時間停止を行おうと相手を上回る速度で動く。
それが神化によって得たエリヤの変質的な次元操作だった。さらには世界改変にすら反応するようになったこの力はレジェンドとも対抗できるものであり、その実力は神官長、教皇に次ぐものとなっていた。
最強の聖騎士の名は伊達では無い。次元操作も全能も利かず肉体強度は規格外という怪物。
その力もあり方も異端。
まさしく、現代のイレギュラーだった。
そんな中、この場には似合わない声が聞こえてきた。
「まったく残念残念」
緊張感のない声。その声に十字隊が振り返る。
「ミカエル神官!?」
「あいつが……」
神官である白の正装に身を包んだ金髪の美青年がこちらへと近づいてくる。
あれが最近頭角を表してきたというミカエル。ウリエルを処刑しようとしている黒幕か。
「神官殿は下がっていてください、ここは我々が」
「いや、残念だが下がるのは君たちの方だ。それに残念だが私をご指名のようだしね」
「しかし」
十字隊の警告を無視してミカエルは前線に出てくる。警備対象である神官が前に出るなど十字隊員からすれば気が気ではない。
「なに、私の心配ならいらないよ」
そんな彼らの心配を気に留めずミカエルはエリヤの正面で立ち止まった。まだ距離はあるものの余裕の態度だ、緊張感どころか危機感すら彼の素振りからは見られない。
しかし。
足が止まりエリヤを正面に見据えた時、その目が鋭く細められた。
「このような賊にやられるほどやわじゃないんでね」
深い、底の知れない容量。その瞳の凄みはただ者ではない。神官というだけではない、この男は特別だ。
(こいつも天羽か)
見るだけで他人に与えるプレッシャー。ミカエルが放つ圧力にエリヤは瞬時に理解した。
「エリヤ君、だったかな」
底冷えする眼光をそのままにミカエルがおもむろに話し出す。
「モーゼ神官長を襲った時以来か。私もあの場にいてね。ずいぶんやってくれたじゃないか、これは重罪だよ? 残念な君は理解していないようだがね。神官長殿を襲ってなお実刑を免れた温情を忘れ、またしてもこのような行いとは。君は救いようがないほど残念だ。残念残念」
「いちいち残念残念うるさいやつだな」
ミカエルの視線が突き刺さるがエリヤはなお平然としている。これで乱されるほどエリヤの肝もやわではない。
ここに来てエリヤもようやく顔が真剣なものへと変わっていった。
「てめえがミカエルか?」
「いかにも」
エリヤの答えにすんなりと答える。睨むような目つきのエリヤだがミカエルの表情は変わらない。
「なぜウリエルを狙う?」
「ふふ」
ミカエルが小さく笑う。
「そうかそうか、やはり君だったか。彼女の手引きは」
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