天下界の無信仰者(イレギュラー)
ちなみに用件はなんですか?
雨がぽつりぽつりと降り注いでいる。勢い自体は強くはないが教会から町まで歩いてきたエリヤは全身ずぶ濡れだった。さらに教皇宮殿に辿りつくころには雨は土砂降りに変わりさらにエリヤの体を濡らした。髪は肌に張り付きコートは倍以上に重くなっている。雨に打たれたその姿はこの男には珍しく哀愁が漂っている。
エリヤは教皇宮殿の門で立ち止まった。ここは検問所になっており車の通行はもちろん歩行者もパスがなければ通れない。
検問所に一人、屋根の下に一人、警備の人間が立っていた。
「聖騎士、エリヤ?」
地面で雨粒が跳ね返り視界は白く霞んでいる。音も激しい。警備の男性は遠くから近づいてくる影がエリヤだと分かったのはずいぶん近づいてからだった。エリヤも屋根の下に入る。警備の男は知り合いだった。
「ずぶ濡れじゃないですか、災難でしたね」
「ああ、まあ、な」
いつもと違ってエリヤの言い方は弱々しい。それもそうかと警備の彼も思った。エリヤは今謹慎中だ、ここに入ることも許可されていない。
エリヤもそれは分かっている。だが、どうしてもここに入らなければならなかった。
「なあ、なんとか通すわけにはいかないか?」
「エリヤさん……、すいませんけど、あなたは入れてはいけないと伝令がきてて。私も仕事ですし」
「そうなんだけどよ」
エリヤは濡れた頭をかく。予想はしていたがやはり入れてはくれないか。
「頼む。重要なことなんだわ」
エリヤは素直に頼み込んだ。これもエリヤにしては珍しいことだ。どこか暗い態度といい普段のエリヤからは考えられない。
「ちなみに用件はなんですか?」
エリヤがそうまでなる重大なこととはなんなのか。
エリヤは、素直に答えた。
この場は降水の音が鳴り響いている。水しぶきが周りの音を遮る。
その中でも、エリヤの答えは彼の耳に一語違わず入り込んでいった。
「そう、ですか」
警備員の顔が沈んでいく。そういうことかと理解したものの軽い衝撃にうなだれていた。
その後、男ははあーとため息を吐くと吹っ切れたように顔を上げた。
「あなたには、うちの妹が世話になりましたからね」
「最近は大丈夫なのか?」
「あのストーカーなら引っ越しましたよ、妹を見るとあなたの顔が浮かぶらしい」
鼻を折ったのはやりすぎでしたよ、と釘を差しつつも男の顔は笑っていた。反対にエリヤはバツの悪い顔で「元から折れてるような顔じゃねえか」と言い訳した。
警備の男は逡巡する素振りを見せたが、やれやれと検問所のいる男に話しかける。
「おい、開けてやってくれ」
中の男も話は聞いていた。そういうことかと頷いてくれた。
そのことにエリヤは感謝した。簡単に入れるとは思っていなかったが、まさか通してくれるとは。酒の一杯でも奢りたいが同時に心配にもなる。
「いいのか、始末書だぞ?」
「あなたに注意されるとはね」
「言えてる」
が、自分が言える義理ではなかったかと苦笑した。
「ありがとよ」
エリヤは二人の顔に向け感謝すると屋根から出ていった。再び雨の中に体を晒す。目指すは教皇宮殿。門は通った。あとは目と鼻の先だ。
「エリヤさん!」
と、声をかけられ振り向いた。見れば警備の彼が口に両手を当て、雨に負けない勢いで声を出している。
「妹、今でもあなたに感謝していましたよ!」
その言葉に、エリヤの口元が持ち上がった。
エリヤは振り返り背を向けると、口には出さず、片手を上げ歩き出した。
扇状に広がる階段を上がり教皇宮殿の扉を通る。以前も幾度となく出入りしてきた場所なのに初めてきた人の家のような緊張感がある。実際、そういう立場なのだから当然ではあるが、不思議な感じだった。
また、中に入るなりその場にいた人たちの視線を集めたのも大きな理由だった。どうしてここに? 彼らの目を見ればなにを考えているのか一目瞭然だった。
それを承知でエリヤは中へと入っていく。最初は誰しもがエリヤの登場に困惑していたがそのままでいい訳がない。冷静さを取り戻した者からエリヤに詰めより、立ち入り禁止だと伝えた。
エリヤは教皇宮殿の門で立ち止まった。ここは検問所になっており車の通行はもちろん歩行者もパスがなければ通れない。
検問所に一人、屋根の下に一人、警備の人間が立っていた。
「聖騎士、エリヤ?」
地面で雨粒が跳ね返り視界は白く霞んでいる。音も激しい。警備の男性は遠くから近づいてくる影がエリヤだと分かったのはずいぶん近づいてからだった。エリヤも屋根の下に入る。警備の男は知り合いだった。
「ずぶ濡れじゃないですか、災難でしたね」
「ああ、まあ、な」
いつもと違ってエリヤの言い方は弱々しい。それもそうかと警備の彼も思った。エリヤは今謹慎中だ、ここに入ることも許可されていない。
エリヤもそれは分かっている。だが、どうしてもここに入らなければならなかった。
「なあ、なんとか通すわけにはいかないか?」
「エリヤさん……、すいませんけど、あなたは入れてはいけないと伝令がきてて。私も仕事ですし」
「そうなんだけどよ」
エリヤは濡れた頭をかく。予想はしていたがやはり入れてはくれないか。
「頼む。重要なことなんだわ」
エリヤは素直に頼み込んだ。これもエリヤにしては珍しいことだ。どこか暗い態度といい普段のエリヤからは考えられない。
「ちなみに用件はなんですか?」
エリヤがそうまでなる重大なこととはなんなのか。
エリヤは、素直に答えた。
この場は降水の音が鳴り響いている。水しぶきが周りの音を遮る。
その中でも、エリヤの答えは彼の耳に一語違わず入り込んでいった。
「そう、ですか」
警備員の顔が沈んでいく。そういうことかと理解したものの軽い衝撃にうなだれていた。
その後、男ははあーとため息を吐くと吹っ切れたように顔を上げた。
「あなたには、うちの妹が世話になりましたからね」
「最近は大丈夫なのか?」
「あのストーカーなら引っ越しましたよ、妹を見るとあなたの顔が浮かぶらしい」
鼻を折ったのはやりすぎでしたよ、と釘を差しつつも男の顔は笑っていた。反対にエリヤはバツの悪い顔で「元から折れてるような顔じゃねえか」と言い訳した。
警備の男は逡巡する素振りを見せたが、やれやれと検問所のいる男に話しかける。
「おい、開けてやってくれ」
中の男も話は聞いていた。そういうことかと頷いてくれた。
そのことにエリヤは感謝した。簡単に入れるとは思っていなかったが、まさか通してくれるとは。酒の一杯でも奢りたいが同時に心配にもなる。
「いいのか、始末書だぞ?」
「あなたに注意されるとはね」
「言えてる」
が、自分が言える義理ではなかったかと苦笑した。
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エリヤは二人の顔に向け感謝すると屋根から出ていった。再び雨の中に体を晒す。目指すは教皇宮殿。門は通った。あとは目と鼻の先だ。
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と、声をかけられ振り向いた。見れば警備の彼が口に両手を当て、雨に負けない勢いで声を出している。
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その言葉に、エリヤの口元が持ち上がった。
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