天下界の無信仰者(イレギュラー)
逃走
「お前等に言っておきたいことがある」
エリヤは話す男に指を突きつけ、宣誓するかのような大声で言い切った。
「それ襲う前に言えないのか! 人を斬ろうとしておいて構うなだと? 構うに決まってるだろ腹立つ! お前ら全員ボコボコにしてやるからな!」
エリヤは構えた。ボクシングポーズを取りウリエルも剣を構える。
デバッカー部隊も剣先を二人に向けていた。いつ戦いが始まってもおかしくない。
しかし男の一人が片手を上げた。制止の合図だ。それを見て男たちは剣をしまい即座に姿を消していった。
「なんだ逃げるのか!」
エリヤは叫ぶがすでに敵の姿はなくここにはエリヤとウリエルしかいない。敵も教会と対立する気まではないのか、それとも聖騎士エリヤでは分が悪いと判断したのだろう。
敵が撤退したのを見てウリエルは静かに剣を消した。その後申し訳なさそうな顔を地面に向ける。
「すまないな、お前を巻き込んだ」
エリヤはウリエルに近づいた。
「お前、こんな連中に狙われるとかなにしたんだよ」
「…………」
気になる。そもそもデバッカー部隊に狙われるなど相当なことだ。いったいなにをすればこんなことになるのか。
「…………」
ウリエルは答えなかった。それも当然か。相当なことをしたのだから言えるはずがない。小さな口は動くことなく沈黙を守っている。反面顔は辛そうに暗くなるばかりだ。
「やっぱりいい、言うな」
「聞かないのか?」
ウリエルがそっと見上げる。
「言いたくないなら言わなくていい。そこまで聞きたいとは思わねえよ」
そんな顔をされてしまっては聞けるものまで聞けやしない。気になるのは確かだが嫌な思いをさせてまで知りたいとは思わなかった。
「そうか。……エリヤは、いいやつだな」
そうつぶやくウリエルはエリヤの気遣いに感謝していた。晴れた笑顔とまではいかないが、その優しさに気を楽にしたようだった。
いいやつだな。その言葉にエリヤは複雑な思いを抱きながら、頭上に広がる青空を仰ぐ。
「そう願ってるよ」
果たしてなにが正しいのか、なにが間違っているのか。いいやつとはなんなのか。それすら見失いそうだ。
エリヤは視線を戻しウリエルを見た。
「とりあえず場所を変えるぞ」
「しかしどこへ」
「ついてこい。隠れるならもってこいの場所がある」
またさっきの連中に狙われてはたまったものじゃない。エリヤはウリエルをその場所へと案内していった。
*
街の外れ、木々が生い茂る今は使われなくなった山道を歩いていく。道は砂利が敷き詰められているが手入れをされなくなって久しいのか小石の間からは雑草がいくつも生えている。道の両側から伸びた小枝が邪魔くさい。エリヤはやっかいそうに押し退け前を進んでいくのを後ろにいるウリエルが心配そうに見つめていた。
「なあエリヤ、本当にこっちで合っているのか?」
歩いていたはずの道はすでに道とも思えない有様だ。
「当たり前だ、俺を信じろ」
「しかし、この先に休める場所があるというのか?」
「俺が夜遅くまで飲んだ時はよくこの場所を使ってたんだよ」
「なぜ素直に家に帰らない」
「止めてくれ、妹に殺される」
(こいつは命がけで酒を飲むのか)
二人の間で他愛のない会話が続く。それからしばらくして木々のカーテンを抜けると一気に開けた場所に出た。
「ここだよ」
「これは」
そこには小さな教会が立っていた。そこだけが木の傘に隠れることなく太陽の光に照らされている。
エリヤは話す男に指を突きつけ、宣誓するかのような大声で言い切った。
「それ襲う前に言えないのか! 人を斬ろうとしておいて構うなだと? 構うに決まってるだろ腹立つ! お前ら全員ボコボコにしてやるからな!」
エリヤは構えた。ボクシングポーズを取りウリエルも剣を構える。
デバッカー部隊も剣先を二人に向けていた。いつ戦いが始まってもおかしくない。
しかし男の一人が片手を上げた。制止の合図だ。それを見て男たちは剣をしまい即座に姿を消していった。
「なんだ逃げるのか!」
エリヤは叫ぶがすでに敵の姿はなくここにはエリヤとウリエルしかいない。敵も教会と対立する気まではないのか、それとも聖騎士エリヤでは分が悪いと判断したのだろう。
敵が撤退したのを見てウリエルは静かに剣を消した。その後申し訳なさそうな顔を地面に向ける。
「すまないな、お前を巻き込んだ」
エリヤはウリエルに近づいた。
「お前、こんな連中に狙われるとかなにしたんだよ」
「…………」
気になる。そもそもデバッカー部隊に狙われるなど相当なことだ。いったいなにをすればこんなことになるのか。
「…………」
ウリエルは答えなかった。それも当然か。相当なことをしたのだから言えるはずがない。小さな口は動くことなく沈黙を守っている。反面顔は辛そうに暗くなるばかりだ。
「やっぱりいい、言うな」
「聞かないのか?」
ウリエルがそっと見上げる。
「言いたくないなら言わなくていい。そこまで聞きたいとは思わねえよ」
そんな顔をされてしまっては聞けるものまで聞けやしない。気になるのは確かだが嫌な思いをさせてまで知りたいとは思わなかった。
「そうか。……エリヤは、いいやつだな」
そうつぶやくウリエルはエリヤの気遣いに感謝していた。晴れた笑顔とまではいかないが、その優しさに気を楽にしたようだった。
いいやつだな。その言葉にエリヤは複雑な思いを抱きながら、頭上に広がる青空を仰ぐ。
「そう願ってるよ」
果たしてなにが正しいのか、なにが間違っているのか。いいやつとはなんなのか。それすら見失いそうだ。
エリヤは視線を戻しウリエルを見た。
「とりあえず場所を変えるぞ」
「しかしどこへ」
「ついてこい。隠れるならもってこいの場所がある」
またさっきの連中に狙われてはたまったものじゃない。エリヤはウリエルをその場所へと案内していった。
*
街の外れ、木々が生い茂る今は使われなくなった山道を歩いていく。道は砂利が敷き詰められているが手入れをされなくなって久しいのか小石の間からは雑草がいくつも生えている。道の両側から伸びた小枝が邪魔くさい。エリヤはやっかいそうに押し退け前を進んでいくのを後ろにいるウリエルが心配そうに見つめていた。
「なあエリヤ、本当にこっちで合っているのか?」
歩いていたはずの道はすでに道とも思えない有様だ。
「当たり前だ、俺を信じろ」
「しかし、この先に休める場所があるというのか?」
「俺が夜遅くまで飲んだ時はよくこの場所を使ってたんだよ」
「なぜ素直に家に帰らない」
「止めてくれ、妹に殺される」
(こいつは命がけで酒を飲むのか)
二人の間で他愛のない会話が続く。それからしばらくして木々のカーテンを抜けると一気に開けた場所に出た。
「ここだよ」
「これは」
そこには小さな教会が立っていた。そこだけが木の傘に隠れることなく太陽の光に照らされている。
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