天下界の無信仰者(イレギュラー)
和解
「なぜついてくる?」
ウリエルが胡乱な目で見てくる。
「いや、ほら、なんか迷惑かけたみたいだからさ。悪かったよ。謝る」
まさか人助けしようとしていたのを思いこみで逮捕しようとしていたとは。失礼だし申し訳ない。謝らないわけにはいかないだろう。それでエリヤは素直に謝った。
「ふぅー」
「?」
エリヤの謝罪を聞いて分かってくれたのか、ウリエルは胸の中にある重荷を下ろすように息を吐いた。次に呆れたような、けれど小さく笑いエリヤを見上げる。
「悪いやつではないんだな」
苛立ちはなくなり清々しい声だった。どうやら許してくれたらしい。エリヤはホッとするが複雑そうに頭を掻く。
「そうだといいんだがな」
「自信がないのか?」
聞かれたもののなんと答えればいいのか困る。エリヤ自身自分が立派ではないという自覚はあるがかといって悪者だというつもりもない。いい加減な部分があっても大切な芯だけはまっすぐに生きてきたつもりだ。
ただし、それが果たして正しいことだったのか。自信があるとはなかなか言えなかった。
「自分が正しいと思ったことでも本当は間違いかもしれない。そういうのを最近経験してね。今回もやっちまったし」
これが正しいんだと勢いづいても失敗ばかり。妹や弟からの視線も痛くなるわけだ。
「……そうか」
「ん?」
エリヤの話を聞いていた彼女だが雰囲気がいつの間にか変わっていた。ウリエルの表情はどこか寂し気で静かな空気だった。
「私も、かつてそんな経験をした。これが正しいと信じ努力してきたが、後になってそれがひどく矛盾したことだと気がついた。なにを信じていいのか分からなくなり自分を見失ったよ」
さきほどは炎のように燃えていた青い瞳に翳りが見える。いったい彼女になにがあったのか。当然エリヤには分からない。
「今はどうなんだ?」
だから聞いた。けれどそれは過去のことではなく今のことだった。彼女がなにをしてなにを間違えたのか。それは知らないがそれよりも今の彼女のことが気になった。
「今は……旅をしている。どこに行く宛もなく歩き続けるだけの。そこで自分にできることをしている。ささいなことばかりだが、人の役に立つことをして。それが今の私の生き方だ」
「どうしてそんなこと」
「……贖罪さ」
「贖罪?」
不穏な言葉が聞こえる。彼女が犯した間違いというのはそれほどまで大きいものなのだろうか。
そんな風には見えない。フードで顔を隠していた時ならともかく、こうして話をしていて分かる。
彼女は悪い人じゃない。そもそも悪い人は後悔なんてしない、贖罪なんて求めたりしない。エリヤはそう思うが、けれど彼女は悲しそうに言った。
「私は、かつて大きな罪を犯してしまったから」
そういう時、彼女の表情は辛そうだった。
彼女が犯した罪というものは今も彼女を苦しめている。ずっと許されることなく、一人っきりの旅の中彼女を責め続けるのだ、他ならぬ自分自身が。
「その、罪滅ぼし、かな」
それが今の彼女。ウリエルという、贖罪を求める女性だった。
「そうか。でもそんな風には見えないけどな」
「え」
ウリエルは深刻そうに話すが、そんな彼女にエリヤはあっけらかんに言った。ウリエルが顔を上げる。エリヤは小さく笑ってみせた。
「お前が罪人になんて見えないって話さ」
転んだ少年に手を貸そうなんてする罪人なんているわけがない。彼女には困っている人を助けようという優しさがある。だからエリヤは思ったことを素直に言えた。
「……フッ」
そんなエリヤの答えにウリエルは笑ってくれた。
「お前も、思いこみが激しいはた迷惑みたいだからな」
「お前なあ!」
ウリエルが口元に手を当てクスクスと笑っている。
「だからそれはさっき謝っただろ~!」
誤解は解けた。むしろ二人は打ち解け自然に会話ができる仲にまでなっていた。
だが、そこへ足音が混ざる。
「ん?」
エリヤが振り向く。そこには鎧を被った衛兵が五人、無言で並んでいた。
ウリエルが胡乱な目で見てくる。
「いや、ほら、なんか迷惑かけたみたいだからさ。悪かったよ。謝る」
まさか人助けしようとしていたのを思いこみで逮捕しようとしていたとは。失礼だし申し訳ない。謝らないわけにはいかないだろう。それでエリヤは素直に謝った。
「ふぅー」
「?」
エリヤの謝罪を聞いて分かってくれたのか、ウリエルは胸の中にある重荷を下ろすように息を吐いた。次に呆れたような、けれど小さく笑いエリヤを見上げる。
「悪いやつではないんだな」
苛立ちはなくなり清々しい声だった。どうやら許してくれたらしい。エリヤはホッとするが複雑そうに頭を掻く。
「そうだといいんだがな」
「自信がないのか?」
聞かれたもののなんと答えればいいのか困る。エリヤ自身自分が立派ではないという自覚はあるがかといって悪者だというつもりもない。いい加減な部分があっても大切な芯だけはまっすぐに生きてきたつもりだ。
ただし、それが果たして正しいことだったのか。自信があるとはなかなか言えなかった。
「自分が正しいと思ったことでも本当は間違いかもしれない。そういうのを最近経験してね。今回もやっちまったし」
これが正しいんだと勢いづいても失敗ばかり。妹や弟からの視線も痛くなるわけだ。
「……そうか」
「ん?」
エリヤの話を聞いていた彼女だが雰囲気がいつの間にか変わっていた。ウリエルの表情はどこか寂し気で静かな空気だった。
「私も、かつてそんな経験をした。これが正しいと信じ努力してきたが、後になってそれがひどく矛盾したことだと気がついた。なにを信じていいのか分からなくなり自分を見失ったよ」
さきほどは炎のように燃えていた青い瞳に翳りが見える。いったい彼女になにがあったのか。当然エリヤには分からない。
「今はどうなんだ?」
だから聞いた。けれどそれは過去のことではなく今のことだった。彼女がなにをしてなにを間違えたのか。それは知らないがそれよりも今の彼女のことが気になった。
「今は……旅をしている。どこに行く宛もなく歩き続けるだけの。そこで自分にできることをしている。ささいなことばかりだが、人の役に立つことをして。それが今の私の生き方だ」
「どうしてそんなこと」
「……贖罪さ」
「贖罪?」
不穏な言葉が聞こえる。彼女が犯した間違いというのはそれほどまで大きいものなのだろうか。
そんな風には見えない。フードで顔を隠していた時ならともかく、こうして話をしていて分かる。
彼女は悪い人じゃない。そもそも悪い人は後悔なんてしない、贖罪なんて求めたりしない。エリヤはそう思うが、けれど彼女は悲しそうに言った。
「私は、かつて大きな罪を犯してしまったから」
そういう時、彼女の表情は辛そうだった。
彼女が犯した罪というものは今も彼女を苦しめている。ずっと許されることなく、一人っきりの旅の中彼女を責め続けるのだ、他ならぬ自分自身が。
「その、罪滅ぼし、かな」
それが今の彼女。ウリエルという、贖罪を求める女性だった。
「そうか。でもそんな風には見えないけどな」
「え」
ウリエルは深刻そうに話すが、そんな彼女にエリヤはあっけらかんに言った。ウリエルが顔を上げる。エリヤは小さく笑ってみせた。
「お前が罪人になんて見えないって話さ」
転んだ少年に手を貸そうなんてする罪人なんているわけがない。彼女には困っている人を助けようという優しさがある。だからエリヤは思ったことを素直に言えた。
「……フッ」
そんなエリヤの答えにウリエルは笑ってくれた。
「お前も、思いこみが激しいはた迷惑みたいだからな」
「お前なあ!」
ウリエルが口元に手を当てクスクスと笑っている。
「だからそれはさっき謝っただろ~!」
誤解は解けた。むしろ二人は打ち解け自然に会話ができる仲にまでなっていた。
だが、そこへ足音が混ざる。
「ん?」
エリヤが振り向く。そこには鎧を被った衛兵が五人、無言で並んでいた。
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