天下界の無信仰者(イレギュラー)
ああ、エリヤの妹ですよ
政治の中枢であるサン・ジアイ大聖堂。多くの政府関係者、あるいは観光のため足を運んだ人々でここは活気に溢れている。一階や広場ではサン・ジアイ大聖堂の美景にうなる声が響いてくる。みなこの芸術に感嘆の息をこぼしていた。
だがそれも見学が許可されている一階部分までだ。それから上の階層は政治の場であり厳粛な空気に切り替わる。
静かな廊下を国務長官ガブリエルは部下とともに歩いていた。白を基調とし静穏な空気が漂うが、彼女の登場に途端に緊張感に包まれる。彼女がまとう雰囲気はいつだって厳粛だ。
二人は廊下を歩きながら今後の日程を確認していく。
「明日の日程ですがコーサラ国と会談していただきます。昨今の軍事事情について確認と協調路線の演説をするよう話はすでにまとまっています」
「分かっている」
横に並ぶ秘書が手帳を見ながら報告していく。ガブリエルは正面を向いたまま彼女に応えた。
秘書は手帳から顔を上げる。
「今回の件、彼ら無我無心も静観ばかりしていられない、ということでしょうか」
「無我無心といえど人間だ。オラクル以上は知らんが、いくら私欲を消し去ろうとしても生きたいという本能にはあらがい難いのだろう」
「なるほど、そうですね」
無我無心といえどよほど高位の信仰者でなければ死は怖い。未来消失、そこからくる三柱戦争は彼らも回避したい。
見通しの利かない世界情勢にどの国、どの信仰者も危機感を抱いている。ガブリエルも表面上は静かだがこの事態には焦燥している。
秘書は再び手帳に目を落とした。
「それと今後の予定ですが」
話の続きを再開する。
その時、ガブリエルの足が止まった。
「ガブリエル長官?」
滅多なことでは立ち止まることをしない上官に秘書の女性も珍しそうに声をかける。見ればガブリエルは窓の外を見つめていた。六階のここからでは町の景色を見渡せる。見たところ異変は見当たらないが、そんなことはない。ガブリエルが足を止めるほどのことがこの景色には隠されているはず。
国務長官の秘書を任されるほどの女性だ、彼女も信仰者としての腕には覚えがある。一見変哲のない町の風景に目を凝らしてみる。
するとガブリエルの視線の先には留置所があり、その入り口には聖騎士エリヤの姿があった。
秘書は納得した。
「ああ、騎士エリヤですか。神官長殿に刃を向けるとは」
彼女は呆れと怒りを含んだ声でそう言った。これがただの賊ならともかく、聖騎士がそれを行ったのだ。自分だけでなく総教会庁の威信も地に落ちる行いだ。
「本来なら重罪です。私も思うところはありますが、しかし事態が事態では。ラグエル長官も慎重な判断が要求されますね」
今は世界的に重大な場面なのだ、要らぬ騒ぎは起こしたくない。エリヤの行いを非難しつつも政治的処置にも理解を示した。
ガブリエルも気持ちは彼女と同じだ。むしろ変な気を起こすなと忠告したのを無視され彼女以上に呆れている。
だが、今ガブリエルが注目しているのは別の人物だった。
「あの娘は」
「娘?」
ここからでは胡麻粒程度にしか見えない距離だがそこは信仰者、神化を視力に集中し入り口前を見る。
そこには小さな女の子がいた。金髪でエリヤのそばに立っている。親子ほどの年の差があるが、そうでないことを秘書は知っていた。
「ああ、エリヤの妹ですよ」
「妹?」
その言葉にガブリエルが怪訝そうに聞く。
だがそれも見学が許可されている一階部分までだ。それから上の階層は政治の場であり厳粛な空気に切り替わる。
静かな廊下を国務長官ガブリエルは部下とともに歩いていた。白を基調とし静穏な空気が漂うが、彼女の登場に途端に緊張感に包まれる。彼女がまとう雰囲気はいつだって厳粛だ。
二人は廊下を歩きながら今後の日程を確認していく。
「明日の日程ですがコーサラ国と会談していただきます。昨今の軍事事情について確認と協調路線の演説をするよう話はすでにまとまっています」
「分かっている」
横に並ぶ秘書が手帳を見ながら報告していく。ガブリエルは正面を向いたまま彼女に応えた。
秘書は手帳から顔を上げる。
「今回の件、彼ら無我無心も静観ばかりしていられない、ということでしょうか」
「無我無心といえど人間だ。オラクル以上は知らんが、いくら私欲を消し去ろうとしても生きたいという本能にはあらがい難いのだろう」
「なるほど、そうですね」
無我無心といえどよほど高位の信仰者でなければ死は怖い。未来消失、そこからくる三柱戦争は彼らも回避したい。
見通しの利かない世界情勢にどの国、どの信仰者も危機感を抱いている。ガブリエルも表面上は静かだがこの事態には焦燥している。
秘書は再び手帳に目を落とした。
「それと今後の予定ですが」
話の続きを再開する。
その時、ガブリエルの足が止まった。
「ガブリエル長官?」
滅多なことでは立ち止まることをしない上官に秘書の女性も珍しそうに声をかける。見ればガブリエルは窓の外を見つめていた。六階のここからでは町の景色を見渡せる。見たところ異変は見当たらないが、そんなことはない。ガブリエルが足を止めるほどのことがこの景色には隠されているはず。
国務長官の秘書を任されるほどの女性だ、彼女も信仰者としての腕には覚えがある。一見変哲のない町の風景に目を凝らしてみる。
するとガブリエルの視線の先には留置所があり、その入り口には聖騎士エリヤの姿があった。
秘書は納得した。
「ああ、騎士エリヤですか。神官長殿に刃を向けるとは」
彼女は呆れと怒りを含んだ声でそう言った。これがただの賊ならともかく、聖騎士がそれを行ったのだ。自分だけでなく総教会庁の威信も地に落ちる行いだ。
「本来なら重罪です。私も思うところはありますが、しかし事態が事態では。ラグエル長官も慎重な判断が要求されますね」
今は世界的に重大な場面なのだ、要らぬ騒ぎは起こしたくない。エリヤの行いを非難しつつも政治的処置にも理解を示した。
ガブリエルも気持ちは彼女と同じだ。むしろ変な気を起こすなと忠告したのを無視され彼女以上に呆れている。
だが、今ガブリエルが注目しているのは別の人物だった。
「あの娘は」
「娘?」
ここからでは胡麻粒程度にしか見えない距離だがそこは信仰者、神化を視力に集中し入り口前を見る。
そこには小さな女の子がいた。金髪でエリヤのそばに立っている。親子ほどの年の差があるが、そうでないことを秘書は知っていた。
「ああ、エリヤの妹ですよ」
「妹?」
その言葉にガブリエルが怪訝そうに聞く。
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