天下界の無信仰者(イレギュラー)
私は、ずっと兄さんの味方ですからね、兄さん
「覚悟というのは、どういう……」
「それはこれから分かる。これからエリヤを教皇宮殿に連れて行き、教皇様からなにかしらの処分を受ける。だがそれで終わりとも限らない。……長い別れになるかもしれない」
ラグエルからの重い言葉にシルフィアの瞳から光が退いていく。不安に押しつぶされるようにうなだれた。
当然だ。たとえどんなことをしようとも彼女にとってはエリヤは大事な兄だ。いきつけの酒場にツケを作り生活態度はだらしなく始末書は数え切れないほどの男だがそれでも大事な兄だ。
だが、今回ばかりはどうにもならない。それだけのことをしてしまった。覚悟をしておけ、その言葉が暗い雲のようにシルフィアを覆う。
そんな彼女を見てラグエルはエリヤを見た。
エリヤは、落ち込んだ顔で下を向いていた。
「では行こう。車は用意してある」
「あの、私も行っていいですか?」
踵を返そうとするラグエルにシルフィアが言い寄る。心配そうに揺れる青い瞳はけれど真剣な強さがあった。十歳とはとても思えない力強い視線がラグエルを見上げる。
「当然だ。君にも同行してもらう」
「ありがとうございます」
「車を入り口前に持ってこよう。なにか話したいことがあるならその内に済ましておけ」
「わりいな」
「言っておくが、私にできるのはこれくらいだからな」
ラグエルは二人を残して出て行った。ラグエルの姿が見えなくなってからエリヤはシルフィアに振り向いた。
けれど、なかなか言葉が浮かばない。なんと言えばいいのか分からなかった。迷惑をかけるつもりはなかったのに、だけどシルフィアは今も心配そうに胸を痛めている。
それが、辛かった。
「その、俺はだな、シルフィア。お前ら二人のことが心配で、それで」
別に悲しませたくてやったわけじゃない。それが分かって欲しくて言うのだがなぜか言い訳っぽくなってしまう。違う、こんなことが言いたいわけじゃない。エリヤの表情が苦く歪む。
どうすれば分かってもらえるのか、どうすればシルフィアの不安を消せるのか。
「兄さん」
その時、シルフィアの優しい声がエリヤにかけられた。
「分かってます、兄さんのこと。私は分かってますから」
不安なエリヤに、シルフィアは笑顔を見せてくれた。
責めることも不安をこぼすこともせず、明るい表情でエリヤを見上げていたのだ。
「このままじゃいけないって、そう思ったんですよね。兄さんは分かりやすいですから」
本当は辛くて他に言いたいことがたくさんあるはずなのに。それでも彼女は言わない。我慢してエリヤのために言ってくれる。
その笑顔に、その姿勢に、エリヤは彼女の強さを感じていた。優しさを痛感していた。
「私は、ずっと兄さんの味方ですからね、兄さん」
「……ああ。ありがとうな」
立派な妹に、エリヤは心から感謝した。
「行くぞ」
戻ってきたラグエルに声をかけられ二人は車に乗り込む。車は走り出し教皇宮殿へと向かっていった。
「それはこれから分かる。これからエリヤを教皇宮殿に連れて行き、教皇様からなにかしらの処分を受ける。だがそれで終わりとも限らない。……長い別れになるかもしれない」
ラグエルからの重い言葉にシルフィアの瞳から光が退いていく。不安に押しつぶされるようにうなだれた。
当然だ。たとえどんなことをしようとも彼女にとってはエリヤは大事な兄だ。いきつけの酒場にツケを作り生活態度はだらしなく始末書は数え切れないほどの男だがそれでも大事な兄だ。
だが、今回ばかりはどうにもならない。それだけのことをしてしまった。覚悟をしておけ、その言葉が暗い雲のようにシルフィアを覆う。
そんな彼女を見てラグエルはエリヤを見た。
エリヤは、落ち込んだ顔で下を向いていた。
「では行こう。車は用意してある」
「あの、私も行っていいですか?」
踵を返そうとするラグエルにシルフィアが言い寄る。心配そうに揺れる青い瞳はけれど真剣な強さがあった。十歳とはとても思えない力強い視線がラグエルを見上げる。
「当然だ。君にも同行してもらう」
「ありがとうございます」
「車を入り口前に持ってこよう。なにか話したいことがあるならその内に済ましておけ」
「わりいな」
「言っておくが、私にできるのはこれくらいだからな」
ラグエルは二人を残して出て行った。ラグエルの姿が見えなくなってからエリヤはシルフィアに振り向いた。
けれど、なかなか言葉が浮かばない。なんと言えばいいのか分からなかった。迷惑をかけるつもりはなかったのに、だけどシルフィアは今も心配そうに胸を痛めている。
それが、辛かった。
「その、俺はだな、シルフィア。お前ら二人のことが心配で、それで」
別に悲しませたくてやったわけじゃない。それが分かって欲しくて言うのだがなぜか言い訳っぽくなってしまう。違う、こんなことが言いたいわけじゃない。エリヤの表情が苦く歪む。
どうすれば分かってもらえるのか、どうすればシルフィアの不安を消せるのか。
「兄さん」
その時、シルフィアの優しい声がエリヤにかけられた。
「分かってます、兄さんのこと。私は分かってますから」
不安なエリヤに、シルフィアは笑顔を見せてくれた。
責めることも不安をこぼすこともせず、明るい表情でエリヤを見上げていたのだ。
「このままじゃいけないって、そう思ったんですよね。兄さんは分かりやすいですから」
本当は辛くて他に言いたいことがたくさんあるはずなのに。それでも彼女は言わない。我慢してエリヤのために言ってくれる。
その笑顔に、その姿勢に、エリヤは彼女の強さを感じていた。優しさを痛感していた。
「私は、ずっと兄さんの味方ですからね、兄さん」
「……ああ。ありがとうな」
立派な妹に、エリヤは心から感謝した。
「行くぞ」
戻ってきたラグエルに声をかけられ二人は車に乗り込む。車は走り出し教皇宮殿へと向かっていった。
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