天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

話し合い中悪いが邪魔するぜ

 二人がそうしたやり取りをしているのもいざ知らずエリヤは廊下を歩いていく。

 目指す先は、神官長室、モーゼのいる場所だった。

 サン・ジアイ大聖堂の上層。一本道の廊下の突き当りにその部屋はあった。扉の前には二人の騎士が立っている。扉を守護するように並ぶ彼らは神官長警護兵だ。二人とも騎士の格好をしている。そもそも神化とは信仰者が持つ特性であり銃器のような飛び道具は信仰者から離れると次第に効力を失っていく。

 よって威力も失ってしまう。それでも遠距離攻撃の利点は大きく、軍では銃器が主流になっている。二人が騎士の武装をしているのは伝統と美観を兼ねてのことだろう。もしくはそれほどの実力者ということだ。

「止まりなさい」

 そこで声が掛けられる。固い言葉には警戒の念がありありと表れている。

「聖騎士、エリヤ様とお見受けする。ここから先は関係者以外立ち入り禁止となっているのでお引き取りを」

 事務的でありかつ強い意思のある声だった。兜をかぶっているため顔は見えないが鋭い視線を感じる。

「お仕事ご苦労さん。言ってることは分かるんだけどよ、ちょっとそこ通してくれないか。どうしてもそこにいる人物に言わなくちゃならないことがあるんだよ」

「なりません」

 エリヤは心苦しくも言いたいことを言い警護兵も己の役割をはたしている。当然か。エリヤは髪を描きたくなったが、その手は髪ではなく大剣の柄へと伸びた。

「わりいな」

 警護兵も剣を抜く。

 警護の騎士の強烈な視線が突き刺さる。生半可ではない、どちらも神官長を守る盾に相応しい騎士たちだ。

 その三秒後。

 大勢の悲鳴とともに神官会議室の扉は開かれた。

「なにごとだ?」

 部屋の中にいる神官たちがどよめきながら振り向いた。みな白の法衣に身を包みソファに座っていた。

 そこへ騎士の頭を片手で引きずりながらエリヤが入室する。

「話し合い中悪いが邪魔するぜ」

「エリヤ!?」

 突然現れた聖騎士に一同驚く。物騒な登場をしたエリヤは騎士から手を放し部屋を見渡す。その様はまるで部屋を襲撃してきた悪者だ。というよりもそのものなのだが。

 この事態に当然この場は騒然としていた。なにをするつもりなのか、暴れるのではないかと立ち上がり警戒している。

 だが、そんな連中にエリヤは用はない。彼の目が探し出す標的。

 その老人は一番奥の席で平然としていた。湯船にでも浸かっているかのような穏やかな笑みと薄くなった白髪。神官長だけの特製の白衣。

 神官長モーセは笑顔のまま乱入者エリヤを迎え入れていた。

「眉一つ動かさないっていうのはさすがだな。先読みの力ってやつか?」

「いやいや、君が来るのは分かっていたがそうではないよ。足音さ。君のは特に大きいからねエリヤ君。それに簡単に先読みと言ってくれるが、これはずいぶん疲れることなんだよ? 日常的には使わないよ。それに、だからこそ何人もの神官たちと会議を行うんじゃないか」

 肉体の年齢は八十歳くらいだろうか。立派な椅子に腰掛けたモーセは孫と話す祖父のように接してくる。

「久しぶりじゃないか。会えるのは嬉しいが、乱暴なのは感心せんな」

「言いたいこと言わなきゃ気が済まないんだよ」

 モーセの好々爺こうこうや然に対してエリヤには敵意が滲んでいる。見る目はナイフのように鋭い。そうした態度だからか神官たちも身動きがとれない。 

「軍事予算の追加案、通したのはあんたか」

 核心を突きつける。睨みつける目に力が入る。目の前にいるのはゴルゴダ共和国のトップにも関わらずそこには畏まる仕草はない。

「なるほど、君の意見は分かった」

「分かってねえ! なんでこんなことした? お前ら俺よりも賢い神官たちじゃねえのかよ。路肩の喧嘩じゃねえんだ、もっと慎重にやることあるだろ。こんなことしてスパルタが黙ってるわけがねえ、もし戦争になったら……」

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