天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

もぉう!

「それに、これを決めたのは私たちじゃない。私たちに言うのはお門違いよ」

「なんだ、そうなのか?」

「呆れた」

 ラファエルは力が抜けたように頭をがくっと下げる。そのあと思いっきり顔を上げた。

「いい加減にしてよもう! 私だってこのことには頭を悩ましてるのになんであなたの勘違いで責められないといけないのよ! スケジュールはパンパンでこれからだって会議が立て続けにあって昼食を取る時間もなくて休む間もない一日で唯一こうして紅茶が飲める時間だったのにあなたのせいで――」

「分かった分かった、怒鳴って悪かったよ」

 ラファエルの愚痴をすかさず止める。このままだと長く続きそうだ。

「でもなラファエルちゃん」

「そのちゃん付けやめて」

 ぎろりとエリヤを睨むがエリヤは口を止めない。

「このままじゃどうするんだよ。本当に戦争だぜ? ガブリエル。おめえからなんとか言えねえのかよ。外交官なんだろ? 対話による平和的解決とか得意だろ?」

「やれるだけのことはやっている。だが、国の方針までは私の管轄外だ」

 頼みの綱だったガブリエルだったが彼女でもこの事態にはどうにもできないらしい。エリヤの表情がさらに渋くなる。

「なあ、ラファエルちゃんよ」

「私に言っても無駄よ。私にできるのは用意されたものを用いてその通りに行使すること。用意するのはまた別の人なんだから。あとなんで私だけちゃん付けなの?」

「くそ」

「ちょっと聞いてる!?」

「聞いてねえよ」

「もぉう!」

 ラファエルが子供のように言うがエリヤは無視して視線を移した。二人に頼っても仕方がない。言う相手が違うのだ。彼女たちでは領分が違う。

 言うのなら別の人間だ。

「言いがかりつけて悪かったな」

 エリヤは踵を返し扉へと戻る。そんな背中姿にぷんぷんになったラファエルが「まったくよ」と言ってきた。その後ガブリエルも口を開いてくる。

「エリヤ、気持ちは分かる。しかし急くな。ことを荒げてもこのことは改善しないぞ」

 それはエリヤがなにをするのか先読みした言葉だった。牽制ともいえるそれにエリヤは足を止める。

「有り難いお言葉だな」

「それとお前は職務に戻れ」

「それは聞きたくなかった」

「そういえばあなた仕事はどうしたのよ?」

「今更かよ」

「呆れた」

 ラファエルはがくっと頭を下げた。

 そんな二人を残しエリヤはテラスを後にした。テーブルにつくラファエルたちは向かい合う。ガブリエルはいつも通りだがラファエルには不安が過る。

「行かせてよかったの?」

「さて、結果を待たなくてはなんとも言えんな。そこまで馬鹿ではないと思うが」

 この後エリヤがなにをするのか予想できなくもないが、まさかしないだろうと考える。軍事予算の追加を撤回するのなら一人しかいない。神官長モーゼ。だが聖騎士といえどこの国のトップに早々会えるわけもなく言ったところで通るはずがない。彼一人が足掻いたところで無駄なだけだ。警護の人間を倒してまで会いに行くというのか。そんな馬鹿な真似はしないだろう。

 と、ラファエルが怪訝な顔で聞いてきた。

「……ほんとに?」

「聞くな。自信が削げる」

 ガブリエルは目を瞑りコーヒーに口をつけた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品