天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

……これから起こる問題はいいのかよ

 そう言ってエリヤはサン・ジアイ大聖堂の敷地内へと入っていった。来場客はまだいない。いつもより静かな聖堂内を歩いていく。

「ん、エリヤ?」

 と、そこで声を掛けられた。見ればそこにいたのはサリエルだ。赤い髪にサングラスをかけ、どう見てもチンピラにしか見えないこの男だが制服には司法庁長官としてのバッジが輝いている。

「てめえ、こんなところでなにしてんだ」

 口調までガラが悪い。

 けれどエリヤはこの態度は嫌いではなくサリエルとはなんだかんだ仲はよかった。周りからは似たもの同士だとよく言われるが本人たちはそうは思っていない。

「おお、ちょっとな。ガブリエルはどこにいるんだ?」

「あいつになんのようだよ。てかお前、どうせアポなしだろ。そんなんで会えるかよアホ」

「うるせーよ」

 そう言ってエリヤは廊下を歩き出す。

「おい、どこに行くんだよ」

「あいつの部屋だ」

「ったく」

 サリエルはめんどくさそうに髪を掻いた。

「今の時間ならテラスだろ」

「お、サンキューな」

 エリヤは振り返らず手だけ振るう。

「それともう一つ」

「ん?」

 改めて言われる言葉にエリヤは立ち止まり顔だけで振り返る。

「おめえがなに言ったところで変わりやしねえよ。言うのは勝手だがくれぐれも問題だけは起こすんじゃねえぞ。俺の仕事を増やすな。それだけだ」

 それだけを言うとサリエルは去っていった。エリヤがなぜここに来たのか分かっていたようだ。この時間に理由もなく来る男じゃない。今朝のニュースもある。察しがつくには十分だ。

 エリヤは彼の背中姿を見つめるが、表情は渋くなっていた。

「……これから起こる問題はいいのかよ」

 つぶやきは独りきりの廊下に消える。

 朝流れてきたニュースが脳裏に過ぎる。軍事予算の拡充。そのこと自体は理解できる。だが納得はまた違う話だ。このままでは大きな争いが起きる。そうなれば世界中の人間が悲しい思いをする。

 自分の大切な人たちだって、その中にはいるのだ。

 そんな大事になるくらいなら、ここで問題を起こした方がましだ。

 エリヤはサリエルに言われた通りテラスに出る。青空の下、レンガ色をしたタイルが並ぶ地面にはいくつもの白いテーブルが並んでいた。

 ここにはエリヤともう二人がいる。ガブリエルとラファエルだった。

「エリヤ?」

 エリヤの登場にラファエルが振り向いた。持ち上げていた紅茶をお皿の上に置く。ガブリエルも目だけを動かしエリヤを見てきた。

「おう、モーニングタイム中悪いな」

「なんであなたがここにいるのよ」

「分からないか?」

「…………」

 エリヤの言葉に押し黙る。気さくだがどこか重いエリヤの話し方に彼女も察する。

「そう」

 ラファエルは小さくつぶやくだけだった。表情は落ち込んでいるのか暗い。

 だが反対にエリヤの声は大きくなっていく。危機感と焦りが胸の中で暴れていた。

「どういうことだよ!? 軍事予算の追加だと? そんなことしてお前ら戦争でもしたいのかよ!」

「そんなわけないでしょ」

 エリヤの大声にラファエルは抑えながらも芯のある声で応えた。

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