天下界の無信仰者(イレギュラー)
次のニュースです。スパルタ帝国軍が先日国境付近で軍事演習を行いました。
「ほらエリヤ兄さん、水です」
「ゴク、ゴク、ぷはー」
シルフィアから受け取った水を一気飲みする。それでもまだ意識はあやふやなままだ。
「次は顔を洗ってくる!」
「う~」
妹から言われる新たな指示にエリヤは生きた屍のように洗面台へと歩いていった。
「…………」
そんな様子をエノクは無言で見つめる。そうしてエリヤは扉の向こうへと消えていった。
「はあ」
まだ朝の七時前だというのにため息が尽きない。
シルフィアは自分の分の朝食を持ちエノクの隣へと座った。
「エリヤ兄さんは昔からああだったんですか?」
「昔からああだったな。最初は気にしていなかったが、最近では腹が立つようになってきた」
「それはちょっと遅すぎるのでは……」
「反省している」
二人はテレビを点けトーストをかじった。流れるニュース番組を漠然と見ながら朝食を進めていく。
「あ~、マシになったぁ~」
そこへ顔を洗ってきたエリヤが戻ってきた。シルフィアを挟むようにソファに座る。
「ほらエリヤ兄さん、せっかくの朝食が冷めちゃいますよ」
「おう、わりいな」
フォークでベーコンを口に入れ間を置かずトーストにかぶりつく。食べ方までおおざっぱな男だ。
三人は食事を進めていく。そんな中テレビ番組が新たなニュースを報じていた。
「次のニュースです。スパルタ帝国軍が先日国境付近で軍事演習を行いました。今年に入って四回目となり、先月国務長官ガブリエルが名指しは避けたものの軍事的示威行為は控えるべき、という旨を発表しましたが効果は依然見られません。スパルタ軍の示威行為はコーサラ国にも見られ、近々ゴルゴダ共和国とコーサラ国での会談が行われる見通しです。スパルタ帝国による挑発行為は年々――」
テレビ画面ではニュースキャスターが真剣な顔で原稿を読み上げている。他人事ではない危機に三人の食卓も活気を失い緊迫としていた。
「以前もありましたよね、国境付近での軍事演習」
「四回目だ」
シルフィアのつぶやきにエノクが即座に答える。その目は優しい兄ではなく戦士のものだ。
「どうしてこんなことを……」
「分からない。先日の定例会議でも持ち出されたが、結局ことが起きた場合は我らの務めを果たすという確認作業で終わってしまった。もともと外交関係は神官庁の管轄だからな。ただ、教皇様ならなにか掴んでいるのかもしれない」
「……戦争に、なったりしませんよね?」
「…………」
シルフィアからの質問に、しかしエノクは答えられなかった。
戦争。そんなことは起こらないと断言できるならしたかった。だがそれは最近になってますます現実味を帯びている。国境付近での軍事演習。外交からの制止も振り切りスパルタ帝国の行動はエスカレートするばかりだ。無我無心のコーサラ国も巻き込み緊張状態が続いている。
一髪触発。無数に伸びた導火線に火が点くだけで戦火が飛ぶ。そんな危うさが世界中を覆っていた。
「ならねえよ」
だが、それを否定する声はシルフィアを挟んだ反対側から聞こえてきた。
今まで黙っていたエリヤだった。見ればトーストを片手に平然としている。
「戦争なんかしてどうする。スパルタになんの得があるんだよ?」
「それはそうですけど……」
エリヤの言うことは尤もだがそれでもシルフィアの不安は晴れない。
「ゴク、ゴク、ぷはー」
シルフィアから受け取った水を一気飲みする。それでもまだ意識はあやふやなままだ。
「次は顔を洗ってくる!」
「う~」
妹から言われる新たな指示にエリヤは生きた屍のように洗面台へと歩いていった。
「…………」
そんな様子をエノクは無言で見つめる。そうしてエリヤは扉の向こうへと消えていった。
「はあ」
まだ朝の七時前だというのにため息が尽きない。
シルフィアは自分の分の朝食を持ちエノクの隣へと座った。
「エリヤ兄さんは昔からああだったんですか?」
「昔からああだったな。最初は気にしていなかったが、最近では腹が立つようになってきた」
「それはちょっと遅すぎるのでは……」
「反省している」
二人はテレビを点けトーストをかじった。流れるニュース番組を漠然と見ながら朝食を進めていく。
「あ~、マシになったぁ~」
そこへ顔を洗ってきたエリヤが戻ってきた。シルフィアを挟むようにソファに座る。
「ほらエリヤ兄さん、せっかくの朝食が冷めちゃいますよ」
「おう、わりいな」
フォークでベーコンを口に入れ間を置かずトーストにかぶりつく。食べ方までおおざっぱな男だ。
三人は食事を進めていく。そんな中テレビ番組が新たなニュースを報じていた。
「次のニュースです。スパルタ帝国軍が先日国境付近で軍事演習を行いました。今年に入って四回目となり、先月国務長官ガブリエルが名指しは避けたものの軍事的示威行為は控えるべき、という旨を発表しましたが効果は依然見られません。スパルタ軍の示威行為はコーサラ国にも見られ、近々ゴルゴダ共和国とコーサラ国での会談が行われる見通しです。スパルタ帝国による挑発行為は年々――」
テレビ画面ではニュースキャスターが真剣な顔で原稿を読み上げている。他人事ではない危機に三人の食卓も活気を失い緊迫としていた。
「以前もありましたよね、国境付近での軍事演習」
「四回目だ」
シルフィアのつぶやきにエノクが即座に答える。その目は優しい兄ではなく戦士のものだ。
「どうしてこんなことを……」
「分からない。先日の定例会議でも持ち出されたが、結局ことが起きた場合は我らの務めを果たすという確認作業で終わってしまった。もともと外交関係は神官庁の管轄だからな。ただ、教皇様ならなにか掴んでいるのかもしれない」
「……戦争に、なったりしませんよね?」
「…………」
シルフィアからの質問に、しかしエノクは答えられなかった。
戦争。そんなことは起こらないと断言できるならしたかった。だがそれは最近になってますます現実味を帯びている。国境付近での軍事演習。外交からの制止も振り切りスパルタ帝国の行動はエスカレートするばかりだ。無我無心のコーサラ国も巻き込み緊張状態が続いている。
一髪触発。無数に伸びた導火線に火が点くだけで戦火が飛ぶ。そんな危うさが世界中を覆っていた。
「ならねえよ」
だが、それを否定する声はシルフィアを挟んだ反対側から聞こえてきた。
今まで黙っていたエリヤだった。見ればトーストを片手に平然としている。
「戦争なんかしてどうする。スパルタになんの得があるんだよ?」
「それはそうですけど……」
エリヤの言うことは尤もだがそれでもシルフィアの不安は晴れない。
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