天下界の無信仰者(イレギュラー)
だから、離れないでくださいね?
また否定されると思っていたエリヤは少しだけ驚いた。なにより、そばにいるという言葉が力強くて。その言葉に意識をもっていかれる。
シルフィアはエリヤを見上げ、真っすぐその青い瞳を向けていた。
「私は、なにがあっても。兄さんがどうであろうと。ずっと! ……ずっとそばにいますから」
とても純粋で、ブレない視線。強い意思だ。まだ初等部の年頃なのに。彼女はこんなにも強い芯を持っている。
そんな彼女が、エリヤを見つめて言う。
「だから、離れないでくださいね?」
彼女のつぶらな瞳が見える。強さのなかに悲しみを湛えた、それは少女の懇願(こんがん)だった。
シルフィアの願いを聞いてエリヤは少しだけ面食らっていたが、すぐに顔つきを優しくした。
「ったく」
離れないでくださいね。そんなこと確認するまでもない。約束するまでもないことだ。だというのにそれをするシルフィアの健気さと、そこまでさせてしまった自分の不甲斐なさが身に染みる。
エリヤはシルフィアの気を晴らそうと、頭に手を置き髪をくしゃくしゃ撫でてやった。
「安心しろ。お前が二十歳になるまではちゃんと世話見てやるよ」
エリヤの手からシルフィアが慌てて逃げる。乱れた髪を直しすぐに睨んできた。
「もぉう! 世話してるのは私の方だと思うんですけど!」
「へいへい、そうだったな」
「感謝してもいいと思うんですけど!?」
「おう、ありがとよ」
「う~、なんか期待してるのと言い方が違う……」
「ははは」
エリヤは笑った。いろいろあるけれど、それでもこうして日常は過ぎていく。時には喧嘩して、時には笑って。そんな時間を過ごすことができる。
それが、たまらなく嬉しかった。
エリヤは立ち上がりシルフィアに手を伸ばす。
「ほら、帰ろうぜ。夕飯の用意、今日は手伝ってやるよ」
エリヤから差し出された手を見つめ、シルフィアは微笑むとその手を握って立ち上がる。
「はい!」
そして二人は岐路についた。親子ほどにも見える兄妹は笑顔を浮かべ、楽しそうに公園をあとにした。
「あ、ちなみにお酒はなしですからね」
「げ」
*
路地裏の影の中、その男は太陽のように明るい人だった。
「おい、お前こんな場所でなにしてんだ?」
見上げれば青空が見える。なのにこの場所は陰鬱だ。人はまず通らないし見向きもしない。だからこそ居座るにはちょうどよかった。壁に背を持たれ座り込む。誰にも知られることなく。誰に憐れられることもなく。誰にも迷惑をかけない。一人きりの影の国。それがこの場所だったのに。
なのに、彼は現れた。
「…………」
問いには応えない。すでに少年の目に生気はなく、生きることを諦めた空虚な瞳があるだけだった。
「親は?」
「…………」
「家族はいるのか?」
「…………」
少年はもう諦めたのだ、すべてを。それが分からないのか目の前に立つ青年はしつこく聞いてくる。それでも黙り込んでいると、青年は納得したように頷いた。
「……そっか」
シルフィアはエリヤを見上げ、真っすぐその青い瞳を向けていた。
「私は、なにがあっても。兄さんがどうであろうと。ずっと! ……ずっとそばにいますから」
とても純粋で、ブレない視線。強い意思だ。まだ初等部の年頃なのに。彼女はこんなにも強い芯を持っている。
そんな彼女が、エリヤを見つめて言う。
「だから、離れないでくださいね?」
彼女のつぶらな瞳が見える。強さのなかに悲しみを湛えた、それは少女の懇願(こんがん)だった。
シルフィアの願いを聞いてエリヤは少しだけ面食らっていたが、すぐに顔つきを優しくした。
「ったく」
離れないでくださいね。そんなこと確認するまでもない。約束するまでもないことだ。だというのにそれをするシルフィアの健気さと、そこまでさせてしまった自分の不甲斐なさが身に染みる。
エリヤはシルフィアの気を晴らそうと、頭に手を置き髪をくしゃくしゃ撫でてやった。
「安心しろ。お前が二十歳になるまではちゃんと世話見てやるよ」
エリヤの手からシルフィアが慌てて逃げる。乱れた髪を直しすぐに睨んできた。
「もぉう! 世話してるのは私の方だと思うんですけど!」
「へいへい、そうだったな」
「感謝してもいいと思うんですけど!?」
「おう、ありがとよ」
「う~、なんか期待してるのと言い方が違う……」
「ははは」
エリヤは笑った。いろいろあるけれど、それでもこうして日常は過ぎていく。時には喧嘩して、時には笑って。そんな時間を過ごすことができる。
それが、たまらなく嬉しかった。
エリヤは立ち上がりシルフィアに手を伸ばす。
「ほら、帰ろうぜ。夕飯の用意、今日は手伝ってやるよ」
エリヤから差し出された手を見つめ、シルフィアは微笑むとその手を握って立ち上がる。
「はい!」
そして二人は岐路についた。親子ほどにも見える兄妹は笑顔を浮かべ、楽しそうに公園をあとにした。
「あ、ちなみにお酒はなしですからね」
「げ」
*
路地裏の影の中、その男は太陽のように明るい人だった。
「おい、お前こんな場所でなにしてんだ?」
見上げれば青空が見える。なのにこの場所は陰鬱だ。人はまず通らないし見向きもしない。だからこそ居座るにはちょうどよかった。壁に背を持たれ座り込む。誰にも知られることなく。誰に憐れられることもなく。誰にも迷惑をかけない。一人きりの影の国。それがこの場所だったのに。
なのに、彼は現れた。
「…………」
問いには応えない。すでに少年の目に生気はなく、生きることを諦めた空虚な瞳があるだけだった。
「親は?」
「…………」
「家族はいるのか?」
「…………」
少年はもう諦めたのだ、すべてを。それが分からないのか目の前に立つ青年はしつこく聞いてくる。それでも黙り込んでいると、青年は納得したように頷いた。
「……そっか」
コメント