天下界の無信仰者(イレギュラー)
聞いてるんですか兄さん!?
「理不尽だろ。そもそもどうして俺が悪いことみたいになってんだ?」
「私に秘密事をしていたこと。エノク兄さんに怪我をさせたことです」
「最初のは知らせたらお前止めてただろ。それにあいつが怪我したのは仕方がねえよ。それはあいつも承知だったんだ」
「先日酒場で起こした件ですが」
「なんでお前まで知ってんだよ!?」
すでにバレてた。
シルフィアにとってエリヤの更正は最重要課題だ。騎士あるまじき振る舞いは彼自身のためにもよくないし家族にもよくないし近所つき合い的にもよくないし特に家計的によろしくない。主に酒代が。
エリヤの秘密と罪を把握しているシルフィアは強気な態度で腕を組んだ。
「私はいついかなる時でも兄さんに命令できる権利と義務があるんですからねッ」
「あの、僕の自由はどこで買えますか?」
「これが自由の対価なんですけど」
「…………」
正論になにも言えない。
「さて、それではなにを食べるのか探しに行きましょう!」
答えが出たことでシルフィアは前に進んでいく。ニコニコしているのはなによりだがその背後でエリヤはうなだれていた。
「まったく……。わかった、わかったよ。でも高いのは駄目だぞ」
「家計簿を付けてるのは私ですよ? 兄さんに言われなくても限度額は知っています。むしろその発言はブーメランですよ。兄さんの享楽でどれだけ我が家の生計が圧迫されているのか」
「…………」
口では敵わないと分かったエリヤは黙ってやり過ごす作戦に切り替えた。
「…………」
「聞いてるんですか兄さん!?」
「沈黙は金なりって言葉があってだな」
「沈黙は金、雄弁は銀ですね。それを知っているなら兄さんの生活態度ももう少し落ち着いてくれれば助かるのですが」
シルフィアは小さくため息を吐いた。その仕草からは普段の苦労が伺える。
「なに言ってんだ、普段から黙りこくってたら損しかしねえよ。時間っていうのは楽しむ機会だ。楽しめない時間なんて資源の無駄使いなのさ。だから俺はしたいことをするんだよ。それが」
「クレープだ!」
「ちげえよ! おい、聞けって!」
話の途中にシルフィアは走り出してしまった。その先には屋台のクレープ屋さんがありシルフィアは宝石を見るような目でメニューを見上げている。
「なんだクレープが食べたいのか?」
「たべたい!」
背後からエリヤは聞くがシルフィアはメニューを見たまま振り向いてもくれない。写真つきのメニューにはホイップクリームを包んだクレープやそこにチョコレートソースとバナナが入ったものなど数々の品目が並んでいる。シルフィアはそれらを夢中で見比べていた。
「クレープたべたい! フルーツいっぱいあるやつ!」
「おいおいどうした、この一瞬で幼児退行でもしたのか? 語彙力が三歳児みたいになってるぞ?」
「うるさいですよ兄さん!」
そこでようやくシルフィアは振り向いてくれた。その顔はエリヤを威嚇しておりムキーという音が聞こえてきそうな表情だ。
「いいじゃないですかクレープ、おいしいじゃないですかクレープ」
「家計のこともあるんだろうがもう少し贅沢なもんでもいいんだぞ?」
「クレープがいい!」
「もう少し歩けばうまい肉屋があるだろ。ステーキでもよかったんだぞ?」
「クレープ、クレープ!」
「分かったよ、クレープだなクレープ。買ってやるよ」
「やったー!」
「三歳児か」
「うるさいです!」
「私に秘密事をしていたこと。エノク兄さんに怪我をさせたことです」
「最初のは知らせたらお前止めてただろ。それにあいつが怪我したのは仕方がねえよ。それはあいつも承知だったんだ」
「先日酒場で起こした件ですが」
「なんでお前まで知ってんだよ!?」
すでにバレてた。
シルフィアにとってエリヤの更正は最重要課題だ。騎士あるまじき振る舞いは彼自身のためにもよくないし家族にもよくないし近所つき合い的にもよくないし特に家計的によろしくない。主に酒代が。
エリヤの秘密と罪を把握しているシルフィアは強気な態度で腕を組んだ。
「私はいついかなる時でも兄さんに命令できる権利と義務があるんですからねッ」
「あの、僕の自由はどこで買えますか?」
「これが自由の対価なんですけど」
「…………」
正論になにも言えない。
「さて、それではなにを食べるのか探しに行きましょう!」
答えが出たことでシルフィアは前に進んでいく。ニコニコしているのはなによりだがその背後でエリヤはうなだれていた。
「まったく……。わかった、わかったよ。でも高いのは駄目だぞ」
「家計簿を付けてるのは私ですよ? 兄さんに言われなくても限度額は知っています。むしろその発言はブーメランですよ。兄さんの享楽でどれだけ我が家の生計が圧迫されているのか」
「…………」
口では敵わないと分かったエリヤは黙ってやり過ごす作戦に切り替えた。
「…………」
「聞いてるんですか兄さん!?」
「沈黙は金なりって言葉があってだな」
「沈黙は金、雄弁は銀ですね。それを知っているなら兄さんの生活態度ももう少し落ち着いてくれれば助かるのですが」
シルフィアは小さくため息を吐いた。その仕草からは普段の苦労が伺える。
「なに言ってんだ、普段から黙りこくってたら損しかしねえよ。時間っていうのは楽しむ機会だ。楽しめない時間なんて資源の無駄使いなのさ。だから俺はしたいことをするんだよ。それが」
「クレープだ!」
「ちげえよ! おい、聞けって!」
話の途中にシルフィアは走り出してしまった。その先には屋台のクレープ屋さんがありシルフィアは宝石を見るような目でメニューを見上げている。
「なんだクレープが食べたいのか?」
「たべたい!」
背後からエリヤは聞くがシルフィアはメニューを見たまま振り向いてもくれない。写真つきのメニューにはホイップクリームを包んだクレープやそこにチョコレートソースとバナナが入ったものなど数々の品目が並んでいる。シルフィアはそれらを夢中で見比べていた。
「クレープたべたい! フルーツいっぱいあるやつ!」
「おいおいどうした、この一瞬で幼児退行でもしたのか? 語彙力が三歳児みたいになってるぞ?」
「うるさいですよ兄さん!」
そこでようやくシルフィアは振り向いてくれた。その顔はエリヤを威嚇しておりムキーという音が聞こえてきそうな表情だ。
「いいじゃないですかクレープ、おいしいじゃないですかクレープ」
「家計のこともあるんだろうがもう少し贅沢なもんでもいいんだぞ?」
「クレープがいい!」
「もう少し歩けばうまい肉屋があるだろ。ステーキでもよかったんだぞ?」
「クレープ、クレープ!」
「分かったよ、クレープだなクレープ。買ってやるよ」
「やったー!」
「三歳児か」
「うるさいです!」
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