天下界の無信仰者(イレギュラー)
勝者にご褒美は?
試合後、エリヤとシルフィアの二人は街道を歩いていた。昼下がりのこの場所にはまだ人が多い。整備された区画に飲食店や服飾店が並ぶ。
この街で剣をぶら下げて歩く者は珍しくない。教皇宮殿を中心に構えるエルサレムは騎士の本拠地だ。数多くの騎士たちが巡回し身近な存在として街にとけ込んでいる。
しかし、エリヤほどの大剣を持つ者は別だ。これほどの大剣を背負って歩く者は彼しかいない。エリヤが街を歩けば見かけた人々から「エリヤだ」と声が上がっている。
そんな人々の反応を気にする様子もなくエリヤは平然と歩き、隣にいるシルフィアは人々の顔色を伺っていた。
「有名人ですね」
この国で聖騎士といえば知らない者はいないほどのスターだ。見かければ握手を求める者やサインをせがむ者も表れる。
「まあな。これもひとえに俺の活躍ってやつさ。人望よ人望」
エリヤは得意げに笑っている。
すると街角から二人の女性が表れた。楽しそうに談笑しているとこちらに気づく。
「きゃあ! エリヤよ」
「ほんとだ、あっち行きましょう!」
そうして反対側へと行ってしまった。
「避けられてるようにも見えるんですが……」
「恐れ多いってやつだろ。ツライわー。尊敬通り越して畏怖を与えちゃうとかつらいわー」
「いや、ぜったい違うと思うんですけど。畏怖というより警戒されてるだけなんですけど」
シルフィアは辺りの人々を見渡した。さきほどの女性たちのように逃げることはなくても心配そうにこちらを見ているのが分かる。
その隣に自分がいるのだ。正直つらい。
漢字
「んだよ、俺が兄だとまずいのか? 不服なのか?」
「不服というわけじゃありません。ただ、兄さんには問題点がありすぎます。いつでもお酒を飲もうとしたり女の人を追いかけたり、なにかあれば喧嘩をしたりと。私たちの家に押し掛ける人々は後を絶たないんですよ!?」
「色紙が欲しいのか?」
「苦情ですよ!」
「居留守でもしとけ」
「そういうわけにはいかないんです!」
シルフィアは「はあ」と息を吐いた。日頃の苦労を訴えるが本人にはなかなか伝わらない。今もシルフィアが見上げているのにどこ吹く風だ。
「兄さんが好き勝手してるから私もエノク兄さんも苦労してるんですよ? 分かってるんですか?」
「なんで俺の好き勝手でお前らが迷惑しなくちゃならないんだ? いいからほっとけ、俺のことなら俺がなんとかするよ」
「兄さんの問題は家族みんなの問題なんです! そんな無責任なこと言わないでください」
「めんどくせえなぁ」
エリヤはやれやれと頭を掻く。独り身でない以上、自分の行いは周りにも影響するものだ。エリヤがそうするつもりがなくてもこればかりは仕方がない。
「で、これはどこに向かってるんだよ」
エリヤは目的地を聞かされていない。てっきり家かと思っていたが方向が違っていた。
「それはですね、兄さんには私においしいものを奢る義務があるのです。ですのでそれを果たしに行くんですよ」
「それかよ」
さきほどの表情から一変してシルフィアは喜色満面だ。なにを食べさせてもらおうか年相応にウキウキしている。反面エリヤは吹き込んだラグエルに胸の中で文句を言う。そもそも勝ったのは自分だというのに。それでエリヤは聞いてみた。
「勝者にご褒美は?」
「ありません」
「ボウシット」
悔しさがにじみ出る。
この街で剣をぶら下げて歩く者は珍しくない。教皇宮殿を中心に構えるエルサレムは騎士の本拠地だ。数多くの騎士たちが巡回し身近な存在として街にとけ込んでいる。
しかし、エリヤほどの大剣を持つ者は別だ。これほどの大剣を背負って歩く者は彼しかいない。エリヤが街を歩けば見かけた人々から「エリヤだ」と声が上がっている。
そんな人々の反応を気にする様子もなくエリヤは平然と歩き、隣にいるシルフィアは人々の顔色を伺っていた。
「有名人ですね」
この国で聖騎士といえば知らない者はいないほどのスターだ。見かければ握手を求める者やサインをせがむ者も表れる。
「まあな。これもひとえに俺の活躍ってやつさ。人望よ人望」
エリヤは得意げに笑っている。
すると街角から二人の女性が表れた。楽しそうに談笑しているとこちらに気づく。
「きゃあ! エリヤよ」
「ほんとだ、あっち行きましょう!」
そうして反対側へと行ってしまった。
「避けられてるようにも見えるんですが……」
「恐れ多いってやつだろ。ツライわー。尊敬通り越して畏怖を与えちゃうとかつらいわー」
「いや、ぜったい違うと思うんですけど。畏怖というより警戒されてるだけなんですけど」
シルフィアは辺りの人々を見渡した。さきほどの女性たちのように逃げることはなくても心配そうにこちらを見ているのが分かる。
その隣に自分がいるのだ。正直つらい。
漢字
「んだよ、俺が兄だとまずいのか? 不服なのか?」
「不服というわけじゃありません。ただ、兄さんには問題点がありすぎます。いつでもお酒を飲もうとしたり女の人を追いかけたり、なにかあれば喧嘩をしたりと。私たちの家に押し掛ける人々は後を絶たないんですよ!?」
「色紙が欲しいのか?」
「苦情ですよ!」
「居留守でもしとけ」
「そういうわけにはいかないんです!」
シルフィアは「はあ」と息を吐いた。日頃の苦労を訴えるが本人にはなかなか伝わらない。今もシルフィアが見上げているのにどこ吹く風だ。
「兄さんが好き勝手してるから私もエノク兄さんも苦労してるんですよ? 分かってるんですか?」
「なんで俺の好き勝手でお前らが迷惑しなくちゃならないんだ? いいからほっとけ、俺のことなら俺がなんとかするよ」
「兄さんの問題は家族みんなの問題なんです! そんな無責任なこと言わないでください」
「めんどくせえなぁ」
エリヤはやれやれと頭を掻く。独り身でない以上、自分の行いは周りにも影響するものだ。エリヤがそうするつもりがなくてもこればかりは仕方がない。
「で、これはどこに向かってるんだよ」
エリヤは目的地を聞かされていない。てっきり家かと思っていたが方向が違っていた。
「それはですね、兄さんには私においしいものを奢る義務があるのです。ですのでそれを果たしに行くんですよ」
「それかよ」
さきほどの表情から一変してシルフィアは喜色満面だ。なにを食べさせてもらおうか年相応にウキウキしている。反面エリヤは吹き込んだラグエルに胸の中で文句を言う。そもそも勝ったのは自分だというのに。それでエリヤは聞いてみた。
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