天下界の無信仰者(イレギュラー)
エリヤは強い
自分の方が、騎士に相応しいのだから。
「エリヤは強い」
「ですが」
ラグエルの言葉にすぐ否定の反応が出るが彼は構わず続けた。
「彼の粗暴に頭を悩ませるのは私も同じだが、彼の強さは認めるほかあるまい」
「それは」
そこは納得するしかない。彼は強い。それは紛うことなき事実だった。
なにより、彼はメタトロンの攻撃を逸らしたのだから。
「エリヤは、メタトロンの攻撃すら力でねじ曲げました。それを信じたくないって思う気持ちもあるのですが、私はその場面をこの目で見てしまった。それでも認識を誤魔化せるほど、私は器用ではありません」
「騎士としてその潔さはむしろ美徳だと私は感じ入るがね」
「弱いだけですよ」
ラグエルのフォローにエノクは苦笑する。それは苦しい言い訳というものだ。勝ちたかった。その願いの前に潔さがなんの役に立つのか。
「信仰者が神託物よりも強くなることは稀にある。そも神化とは成長だ。本人の信仰心に比例して強くなる信仰者は無限の可能性があると言っていい。彼の神化は神託物のそれを凌駕した。それだけのことだ」
信仰者。それは神から力を得た神の卵だ。その力は世界の理を越えいずれ神にまで成るだろう。信仰者の黄金期と呼ばれる現代では実際にそうした者たちが何人もいる。
信仰者には無限の可能性がある。神とはすなわち全能なのだ。
「けれど、やはり納得はできません。神託物もまた信仰心の強度によって強くなっていきます。私の神託物がエリヤに防がれたのなら、それは私の信仰心が彼に及ばなかったからです」
ただ、エノクはまだその時ではない。彼がレジェンドと呼ばれる最高位の信仰者になるのはまだ先の話だ。
「なぜ」
今はまだ聖騎士とはいえ一介の騎士に過ぎない。ゆえに、悩み、苦しみことは多い。
「なぜ、兄さんは、そんなにも強いのでしょうか」
特に自分の兄については。
なぜエリヤは強いのだろう。あのいい加減な騎士が自分より強い道理とはなんなのだろうか。その答えを探している。
「分からないかね?」
「え?」
エノクの顔が持ち上がる。見ればラグエルは変わらない表情でエノクを見つめていた。
「ラグエル委員長は分かるのですか? どうして兄さんがあそこまで強いのか? 教えてください! なぜ兄さんは強いのですか? どうすれば私もあんなにも強くなれるんですか?」
岩のような顔にエノクは聞いていた。気づけば口調は早口になっていて焦っているのが分かる。
それでも止められなかった。この疑問が晴れるのならすぐにでも知りたかった。
兄エリヤが強い理由。その前にエノクは必死だった。
「なるほど」
真剣なエノクを見てどう思ったか。ラグエルは一言置くと意外なことを言った。
「確かに、エリヤの言うことにも一理あるようだ」
「どういうことですか?」
兄の言うことにも一理あるというのはどういうことだろうか。エノクの表情がわずかに唖然となりラグエルは話し始めた。
「聖騎士エノク。君は騎士として最も完璧に近い者だと私は評価している。その剣は侵略ではなく守護のために取り、その心は己ではなく他者を思いやっている。君の騎士道は清く、立派なものだと神官長殿にも進言できる」
「では、なぜ」
なぜ。さきほどから聞いている質問にラグエルは未だ答えていない。話を逸らされているのか、もったいぶった言い回した。
ラグエルは問いには答えない。
それは、自分で見つけなければならない類の疑問だからだ。
「エリヤは強い」
「ですが」
ラグエルの言葉にすぐ否定の反応が出るが彼は構わず続けた。
「彼の粗暴に頭を悩ませるのは私も同じだが、彼の強さは認めるほかあるまい」
「それは」
そこは納得するしかない。彼は強い。それは紛うことなき事実だった。
なにより、彼はメタトロンの攻撃を逸らしたのだから。
「エリヤは、メタトロンの攻撃すら力でねじ曲げました。それを信じたくないって思う気持ちもあるのですが、私はその場面をこの目で見てしまった。それでも認識を誤魔化せるほど、私は器用ではありません」
「騎士としてその潔さはむしろ美徳だと私は感じ入るがね」
「弱いだけですよ」
ラグエルのフォローにエノクは苦笑する。それは苦しい言い訳というものだ。勝ちたかった。その願いの前に潔さがなんの役に立つのか。
「信仰者が神託物よりも強くなることは稀にある。そも神化とは成長だ。本人の信仰心に比例して強くなる信仰者は無限の可能性があると言っていい。彼の神化は神託物のそれを凌駕した。それだけのことだ」
信仰者。それは神から力を得た神の卵だ。その力は世界の理を越えいずれ神にまで成るだろう。信仰者の黄金期と呼ばれる現代では実際にそうした者たちが何人もいる。
信仰者には無限の可能性がある。神とはすなわち全能なのだ。
「けれど、やはり納得はできません。神託物もまた信仰心の強度によって強くなっていきます。私の神託物がエリヤに防がれたのなら、それは私の信仰心が彼に及ばなかったからです」
ただ、エノクはまだその時ではない。彼がレジェンドと呼ばれる最高位の信仰者になるのはまだ先の話だ。
「なぜ」
今はまだ聖騎士とはいえ一介の騎士に過ぎない。ゆえに、悩み、苦しみことは多い。
「なぜ、兄さんは、そんなにも強いのでしょうか」
特に自分の兄については。
なぜエリヤは強いのだろう。あのいい加減な騎士が自分より強い道理とはなんなのだろうか。その答えを探している。
「分からないかね?」
「え?」
エノクの顔が持ち上がる。見ればラグエルは変わらない表情でエノクを見つめていた。
「ラグエル委員長は分かるのですか? どうして兄さんがあそこまで強いのか? 教えてください! なぜ兄さんは強いのですか? どうすれば私もあんなにも強くなれるんですか?」
岩のような顔にエノクは聞いていた。気づけば口調は早口になっていて焦っているのが分かる。
それでも止められなかった。この疑問が晴れるのならすぐにでも知りたかった。
兄エリヤが強い理由。その前にエノクは必死だった。
「なるほど」
真剣なエノクを見てどう思ったか。ラグエルは一言置くと意外なことを言った。
「確かに、エリヤの言うことにも一理あるようだ」
「どういうことですか?」
兄の言うことにも一理あるというのはどういうことだろうか。エノクの表情がわずかに唖然となりラグエルは話し始めた。
「聖騎士エノク。君は騎士として最も完璧に近い者だと私は評価している。その剣は侵略ではなく守護のために取り、その心は己ではなく他者を思いやっている。君の騎士道は清く、立派なものだと神官長殿にも進言できる」
「では、なぜ」
なぜ。さきほどから聞いている質問にラグエルは未だ答えていない。話を逸らされているのか、もったいぶった言い回した。
ラグエルは問いには答えない。
それは、自分で見つけなければならない類の疑問だからだ。
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