天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ガキが一丁前に言うじゃねえか

「そんな心配をする余裕があるならすぐに構えろ。もしくはこの場で破れる無様さを心配しておくんだな」

「ガキが一丁前に言うじゃねえか」

「私はもう子供じゃない! むしろ子供なのは兄さんの方だろう。この戦いをなんだと思ってる。これは私たちだけの戦いではない。月例会合での立ち会いだ。この戦いには伝統と歴史がある。その場に立ち戦えることは騎士としての名誉だ。それを汚すのは我々だけでなく、これまで積み重ねてきた歴史と騎士たち対する侮辱だ。それを――」

「わーったよ! 分かったから続きは手紙で送ってくれ」

「聞け!」

 エノクからの説法にもなおエリヤには悪びれた様子がない。渋面じゅうめんを浮かべてはいるがそれは自分の非を認めているからではなかった。

「ったく、なに言ってんだよ。お前はなんのために戦ってんだ? 名誉のためか? さっきから伝統だ誇りだ言ってるけどよ、それでいい気になっててどうするよ。どうせならもっと楽しめ。せっかくの晴れ舞台だぜ?」

「真面目にやれ!」

 エリヤは陽気に誘ってみるがエノクは即断で否定しエリヤの顔がしょんぼりと萎む。その後これみよがしにため息を吐いた。

「まったく。なんでもかんでも理詰めでよぉ。もっと自由な発想ってのができないのかよ」

「兄さんは自由過ぎる」

「ま、それは否定しねえけどさ。自由はいいぞ。自分のやりたいことができる」

「その結果周りからどう思われているか知っているのか」

「それを本人に聞くかフツー」

 嫌そうな顔をしながらエリヤは頭を掻いた。自覚はあるらしい。それでも直さないのだからむしろ悪質なのかもしれないが。

 そんなエリヤにエノクは冷たく言い放つ。

「自業自得だ」

「お前最近シルフィアに似てきたぞ」

「反省するんだな」

「最悪だぜ」

 思い描く悪夢にグチがこぼれる。天敵が二人に増えるなど考えただけで背筋が冷える思いだ。

「まあいい。お前にとっては大事な戦いでも俺にとっちゃノらない試合だ。さっさと終わらせるか」

「降参するのか?」

「馬鹿言え。速攻で勝つんだよ」

「やってみろ!」

 エノクとエリヤは同時に踏み込んだ。真剣な眼差しの向こうには笑みを浮かべるエリヤがいる。
 エノクは柄を両手で握り込み、エリヤは片手で振り下ろした。互いに突進し剣をぶつけ合う。激しい火花が散る中両者は相手を睨みつけた。

「はああ!」

「おらあ!」

 衝突にエノクは後退するが勢いまでは落ちていない。エリヤが振るう猛烈な攻撃を払いのけ今度はエノクが切り込んでいく。力で及ばないのなら手数でそれをフォローする。エノクの技にエリヤは「ちぃ!」と苦そうに言いながら後ずさった。

 一瞬にしてすさまじい攻防。今の切り結びだけで決着がついていてもおかしくはなかった。
 エリヤもここにきて倒すのに時間がかかるくらいにはエノクを認めたか、次の瞬間、己の奇跡を口にした。

「仕方がねえ。ちょいと遊んでやろうか。こい! 神託物、サンダルフォン!」

 サン・ジアイ大聖堂の外。天空に光の輪が現れる。そこから足が現れ光の巨人が降りてきた。地上には立たず空中で浮遊する。

 白い布を巻いた巨大な男性だった。両腕は露出しており鍛えられた肉体美を披露する。クセのある黒い長髪を空に靡かせ、サンダルフォンは地上ではなく空中に浮いていた。

 彼の姿が教皇マルタの背後から見える。この場に集まった騎士たちは息を呑んだ。その巨大さゆえの偉容。自分たちよりも数十倍も大きなその神託物に誰しもが圧倒されていた。

 だが、衝撃はこれで終わらない。エリヤが神託物を出すのなら、彼にも神から頂いた偉大なる力がある。

「天下界の無信仰者(イレギュラー)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く