天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

これで一件落着か

「礼なんていらないわよ。当然でしょ」

「大げさ」

「うん……!」

 恵瑠は笑顔のまま泣いていた。そんな彼女を二人が励ましている。三人は今だって友達として変わらず接していた。

「よかったですね」

「ああ」

 神愛とミルフィアはそんなやりとりを遠目に見つめていた。大丈夫だとは思っていたが三人がまた友達として再会できてよかった。守り通した未来がここにある。三人が仲良く話している姿に神愛は自然と微笑んでいた。

「これで一件落着か。いろいろあったけど、終わりよければすべてよし、か」

 これまでに起こった出来事を振り返ると苦笑した。本当にいろいろなことがあった。そのほとんどが苦しいことばかりだが、今一度見る三人の姿にわき上がるのはよかったなという思いだけだ。

「恵瑠!」

 突然ミルフィアが叫んだ。何事かと見る。

 彼女の背後。そこに空間の歪みが発生していた。そこから剣が飛来したのだ。

「はっ!」

 それにいち早く気づいたミルフィアが恵瑠に駆けつけ片手で剣をはじき返した。

「きゃあ!」

 恵瑠から小さな悲鳴が上がる。

「恵瑠、大丈夫か!?」

 すぐに駆けつける。恵瑠は倒れそうになったところを加豪に支えられていた。もしミルフィアが気づいてなければ背中から串刺しになっていた。

 ミルフィアは歪んだ空間を警戒している。神愛もその場所を見た。

「てめえ……」

 さきほどまであった穏やかな気持ちは灼熱の怒りに燃え尽きた。

 このやり方には覚えがある。間違いない。神愛は怒りを爆発させた。

「エノクぅううう!」

 そこには、教皇エノクが立っていた。

「四大天羽の生き残り。君は、いてはいい存在ではない」

 教皇の帽子はなく、体はやや前屈み。気丈にしているが表情は辛そうだった。

 メタトロン同様、完治はしていないようだ。エノクは立て続けに二回も神託物を破壊されている。それは二回心臓を潰されたに等しい。レジェンドでもそれは変わらない。こうして立っているのもそうとう無理をしているはずだ。

 しかしその負担を壮大な戦意と気合いで補っている。

「君は、この場で倒す」

 老人のものとは思えない、凄まじい戦意がこの場にいる全員にぶつけられる。

「そいつは無理だ、エノク」

 その中で前に出る者がいた。

 神愛はエノクの前に立ち、真っ向から立ち向かった。その全身からは激しい闘志が渦を巻いて噴き出している。エノクは一度恵瑠を殺害した。そして今も殺そうとしたのだ。連戦になるが関係ない。この敵は一度殴らないと気が済まない。

 神愛とエノクは対峙した。

 二人の、戦いが始まった。

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