天下界の無信仰者(イレギュラー)
この目で見たんです
そも次元とは、縦、横、奥行きの空間三次元、そこに時間を加えた四次元、さらに宇宙が無限に分岐した平行世界で五次元、それらを内包した六次元、六次元を内包した七次元、七次元を内包した八次元、これらを無限に繰り返した無限次元がある。
さらに無限次元が無限に存在し、その無限次元を内包し頂点にあるのが天上界だ。
三柱の神の霊的質量はそれらと同等。宇宙一個を破壊するブラックホールとでは話にならない。これは宇宙を無限個集めたよりもなお巨大。
そんなものが天下界に現れたらどうなるか。妊婦が一度に千人を身ごもるようなものだ。内側のものの大きさが母体を越えている。結果、妊婦は破裂し消滅するだろう。赤子の意図とは関係なく。
もしイヤスが全力でこの宇宙に出現していれば、天下界はゼロ秒で爆発、結果消滅していた。目の前にいるイヤスは自分の細胞一つを無限に分けた分身よりもさらに薄い影だ。そうでもしなければ三柱の神は天下界に現れない。登場することが出来ないのだ。
でかい。でかすぎる。彼らにしてみれば天下界とはシャボン玉の中にいるようなもの。身動きどころか、呼吸をしただけで弾けてしまいそうな脆弱な世界。
それが三柱の神。この世界を支配する三つの最高神だった。
「ミルフィア」
イヤスは喋っているだけだ。だが、そこにいるというだけで神愛の全身にはとてつもない引力、プレッシャーというものが物理的に感じ取れるレベルで襲いかかっていた。
神愛はイヤスを警視しながら彼女に声をかけ、ミルフィアも余裕のない声で応じた。
『主。あなたは至高の存在です。原初の神としてこの世界を創った。あなたを超えるものはなく、あなたより優れたものもまた存在しません。ですが、そんなあなたにもし失敗があったのだとすれば』
ミルフィアは言い掛けて、途中で視線を下げた。視界に神愛を入れないように斜めに向けて。その目は憂いを表した。言おうとしていることは少なからず創造主を非難してしまうから。けれど言わなければならない。ミルフィアは顔を上げ、イヤスに向けて叫んだ。
『それは、目の前のこの男を作ったことです! 彼は明らかなバグです。人間ではない。少なくとも、あなたが想定して作ったものではない』
「人間ではない?」
神愛は振り向いた。ミルフィアを見上げる。彼女の言葉の意図が分からなかった。なぜなら三柱の神とは人間だ。人間として生まれ、人間として生きた。その時の、人間だった頃の記述が現に地上には残っている。
神愛の疑問は尤もだ。それにミルフィアは答えた。
『単刀直入に言います。三柱の神に、ロクな人間などいません。というよりも、人間とは神ではない。人が鳥ではないのと同じように。にも関わらず神になったということは、それは彼らが人として破綻していたからなんです。それはこの男、イヤスも同じ』
人間とは神ではない。それは一つの真理だろう。どう足掻いても人は空を飛べず、水中では生きてはいけない。そして、宇宙を操ることなど不可能だ。
その真理を歪め神になったというならば、それは初めから人ではなかったということだ。
『彼が神になる前、人であった頃。その時を私は知っています。この目で見たんです』
神愛と同様に、彼女も幾度と転生を繰り返している。その中の一つにあったのだ。イヤスが生きていた頃の人生が。
『彼が生前に行っていたもの。それは語られているものとは別の性質なんです』
その時代の当事者が、伝承に隠された真実を明かす。
『彼は、確かに争いを収めたりしました。怪我人を治したこともありました。それは彼が人間を愛していたからですが、それは同類を助けたいという愛情ではなく、愛玩なんです』
「どういうことだよ」
説明が分かりづらい。愛情と愛玩。似ているように思えるが、なにがどう違うのか。
「彼にとって、人間とは楽しい玩具か、かわいらしい小動物と同じなんです。だから助けたり治したりしていたんです。でもそれは、相手が格下だという認識があるからなんです。もし相手を自分と対等な存在だと思っていたらすべてを愛するなんてことは不可能です。どこかで不満が出ます』
どれだけ愛し合っている恋人でも、愛情で結ばれた家族でも言い争いや喧嘩はある。それは愛情とは無償ではないからだ。相手の要求が愛情を越えればバランスを崩し争いになる。
ではもし相手が人間ではなく、ペットならどうだろう。相手は自分になにもしてくれない。相談にも乗ってくれないし、感謝もしてくれない。住居と食事を要求するだけだ。
でも、成立する。
それはペットという存在自体が価値を持つからだ。『そういう存在』というだけで愛せる。許せる。なぜなら初めから愛の対価を要求していない。
これにはなにも出来ないという、認識が根底にあるからだ。
さらに無限次元が無限に存在し、その無限次元を内包し頂点にあるのが天上界だ。
三柱の神の霊的質量はそれらと同等。宇宙一個を破壊するブラックホールとでは話にならない。これは宇宙を無限個集めたよりもなお巨大。
そんなものが天下界に現れたらどうなるか。妊婦が一度に千人を身ごもるようなものだ。内側のものの大きさが母体を越えている。結果、妊婦は破裂し消滅するだろう。赤子の意図とは関係なく。
もしイヤスが全力でこの宇宙に出現していれば、天下界はゼロ秒で爆発、結果消滅していた。目の前にいるイヤスは自分の細胞一つを無限に分けた分身よりもさらに薄い影だ。そうでもしなければ三柱の神は天下界に現れない。登場することが出来ないのだ。
でかい。でかすぎる。彼らにしてみれば天下界とはシャボン玉の中にいるようなもの。身動きどころか、呼吸をしただけで弾けてしまいそうな脆弱な世界。
それが三柱の神。この世界を支配する三つの最高神だった。
「ミルフィア」
イヤスは喋っているだけだ。だが、そこにいるというだけで神愛の全身にはとてつもない引力、プレッシャーというものが物理的に感じ取れるレベルで襲いかかっていた。
神愛はイヤスを警視しながら彼女に声をかけ、ミルフィアも余裕のない声で応じた。
『主。あなたは至高の存在です。原初の神としてこの世界を創った。あなたを超えるものはなく、あなたより優れたものもまた存在しません。ですが、そんなあなたにもし失敗があったのだとすれば』
ミルフィアは言い掛けて、途中で視線を下げた。視界に神愛を入れないように斜めに向けて。その目は憂いを表した。言おうとしていることは少なからず創造主を非難してしまうから。けれど言わなければならない。ミルフィアは顔を上げ、イヤスに向けて叫んだ。
『それは、目の前のこの男を作ったことです! 彼は明らかなバグです。人間ではない。少なくとも、あなたが想定して作ったものではない』
「人間ではない?」
神愛は振り向いた。ミルフィアを見上げる。彼女の言葉の意図が分からなかった。なぜなら三柱の神とは人間だ。人間として生まれ、人間として生きた。その時の、人間だった頃の記述が現に地上には残っている。
神愛の疑問は尤もだ。それにミルフィアは答えた。
『単刀直入に言います。三柱の神に、ロクな人間などいません。というよりも、人間とは神ではない。人が鳥ではないのと同じように。にも関わらず神になったということは、それは彼らが人として破綻していたからなんです。それはこの男、イヤスも同じ』
人間とは神ではない。それは一つの真理だろう。どう足掻いても人は空を飛べず、水中では生きてはいけない。そして、宇宙を操ることなど不可能だ。
その真理を歪め神になったというならば、それは初めから人ではなかったということだ。
『彼が神になる前、人であった頃。その時を私は知っています。この目で見たんです』
神愛と同様に、彼女も幾度と転生を繰り返している。その中の一つにあったのだ。イヤスが生きていた頃の人生が。
『彼が生前に行っていたもの。それは語られているものとは別の性質なんです』
その時代の当事者が、伝承に隠された真実を明かす。
『彼は、確かに争いを収めたりしました。怪我人を治したこともありました。それは彼が人間を愛していたからですが、それは同類を助けたいという愛情ではなく、愛玩なんです』
「どういうことだよ」
説明が分かりづらい。愛情と愛玩。似ているように思えるが、なにがどう違うのか。
「彼にとって、人間とは楽しい玩具か、かわいらしい小動物と同じなんです。だから助けたり治したりしていたんです。でもそれは、相手が格下だという認識があるからなんです。もし相手を自分と対等な存在だと思っていたらすべてを愛するなんてことは不可能です。どこかで不満が出ます』
どれだけ愛し合っている恋人でも、愛情で結ばれた家族でも言い争いや喧嘩はある。それは愛情とは無償ではないからだ。相手の要求が愛情を越えればバランスを崩し争いになる。
ではもし相手が人間ではなく、ペットならどうだろう。相手は自分になにもしてくれない。相談にも乗ってくれないし、感謝もしてくれない。住居と食事を要求するだけだ。
でも、成立する。
それはペットという存在自体が価値を持つからだ。『そういう存在』というだけで愛せる。許せる。なぜなら初めから愛の対価を要求していない。
これにはなにも出来ないという、認識が根底にあるからだ。
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