天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

やれると信じているんだ。お前にだって勝てるってな!

 数が多い。ミルフィアは必死に撃ち続けるが、ついには撃ち漏らしが生じてしまった。迎撃行動の網を抜けいくつもの星が迫り来る。

「ふん」

 だがそれで終わりではない。まだ本命がいる。

 神愛は腕を振るった。その衝撃波だけで迫りくる惑星が爆発、巨大な花火となって消え去った。

『主、すみません!』

「気にせず続けろ」

『はい!』

 星々の氾濫はまだ終わっていない。それどころか破滅の流星群はその勢いを増していく。

 ミルフィアの魔法陣が次々と放火を上げていく。歯向かうものを弾圧し、殲滅していく。破壊の衝撃は銀河を超える光の渦となり回転していった。しかしその光の中から星々が突き抜ける。後続が止まらない。

「うおおおおお!」

 神愛は拳を打ち続けた。打撃を空間転移で飛ばし星にぶつける。迫りくる星々を相手に一歩も退かず、己の力を振るっていった。

 連続する超爆発。一体どれだけの質量とエネルギーがこの場に密集しているのか。宇宙全域から見てもここは異常事態だ。

 二人は懸命に迎撃していくが、しかしそれでも間に合わない。ミカエルが送り出す星の数は圧倒的だ。追い詰められていく趨勢すうせいに表情が歪む。

 数で負けている。速度が足りない。

 時間が邪魔だ。

 なら停止させればいい。

 神愛は時間を止めた。それにより迫りくる星々も動きを止める。

「なに?」

 その隙にミルフィアと神愛は猛攻した。黄金の光と神の拳が流星群を襲う。止まった軍勢など案山子も同然。すべて殲滅される。形勢は逆転し神愛たちは攻防を制していた。

 ミカエルは五次元の超越者オラクルだ。走れるのなら歩けるという理屈通り、時間という下位次元も当たり前のように超越している。時間が停止したこの世界でも問題なく活動でき、神愛たちの前に現れた。

「しぶとい」

 彼の声には苛立ちが含まれている。表情も侮蔑を露わにし、未だ倒しきれないイレギュラーを心底嫌そうに見つめていた。

「なぜ抗う? 私の力は知ったはずだ。不可能なんだよ、誰であれ。私を倒すことはね。そんな可能性は存在しないんだ」

 完成美は傷つかない。無敵の力だ。敗北はなく残された勝利を手に入れるだけ。

 だからこそ分からない。神愛がなぜ戦っているのか。勝てないと言っている。証明もした。ならなにを求めて戦っているのか。なにを信じているのか。

 分からないのだ。

 なぜ、諦めないのか。

「なのになぜだ。お前はなにを信じて戦っている? 勝利か? 奇跡か? それとも自棄になっているだけか?」

 ミカエルは尋ねる。戦う意義を。そこになにがあるというのか。あるのは敗北だと知ってなお戦う気概はどこから出てくる。

 嫌悪と疑問の眼差しが神愛に向けられる。

 それに対し、神愛は揺るぎない決意を見せた。

「聞こえなかったか? お前はなにも分かっていない」

「私が?」

 神愛は思っていない。考えてもいない。あるのは初めから変わっていない燃え滾る想いだけ。

 無敵。敗北。どれほどの言葉が並ぼうと神愛の気持ちを変えることはできない。

 強いのだ。それほどに。

 神愛は言う。不安も迷いもない、折れない意志を輝かせながら。

「ミカエル。俺が信じているのは可能性なんかじゃない。俺と、仲間そのものだ! 俺たちならやれるって信じてる。たとえ誰にゼロパーセントだと言われても。やれると信じているんだ。お前にだって勝てるってな!」

「なにを」

「俺は信じるぜ! 俺たちが進むこの道を! そこに絶望したりしない!」

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