天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

足掻け! 退くな! 抵抗しろ! だが無駄だ!

「いや~、残念だったねイレギュラー君。いろいろ頑張ってはいるけれど、残念残念。まるで意味がないんだよね。せっかくだから教えてあげよう。それでどうにかなるものではないからさ。私の持つ完成された美へと至る第六の力シックス・セフィラー・ティファレト。これは、傷つく、終わるという可能性をなくす能力なんだ。よって、私は傷つかない。死なない。終わらない。頑丈とか干渉できないとか、そうした次元ではないんだよ。過去現在未来において不変の存在。よって、君がなにをしても無駄なのさ」

 ミカエルは自信を覗かせながら自らの能力を明かす。その行為は慢心ではあるが本人の言葉通り知ったところでどうしようもないことだ。

 傷つく可能性がないということ。これは力や技量の問題ではない。そうした概念なのだ。

 無敵という、絵に描いた英雄がそこにいる。

「すべては徒労とろう。決まっている敗北に進んでいるだけ。それでも諦めないと言うのなら」

 ミカエルは飛んだ。空間を。遥か彼方の場所で宇宙を包み込むように両手を広げた。

 二千年前から抱いてきた夢がある。そこに突き進み、永遠の平和が生み出す新世界を謳歌するために。

 胸が高鳴る。理想の実現まであと少し!

「足掻け! 退くな! 抵抗しろ! だが無駄だ! 私は無敵だ、天主の秩序の前に消えろイレギュラー!」

 そのために、イレギュラーを排除する。神を信仰しない不届き者、無信仰者は抹殺するべき。

 ミカエルは引き寄せた。五次元を操り別宇宙にある星々を。それを放った。次々と召喚しては神愛目掛け放出していく。惑星の流星群だ。その数も膨大。数千にもなる星光の群団は天の川が迫りくるようだ。美しい。しかしそれ以上に危険だ、この星々の洪水は。

 異常な光景だった。宇宙を覆いつくすほどの輝きが近き、光点がだんだんと大きくなっていく。こんなものをぶつけられれば銀河でもひとたまりもない。

 それを前にして、神愛はつぶやいた。

「ミカエル、お前はなにも分かってない」

 これほど分かりやすい破滅を前にして。眼前に広がる星々の強襲にありながら、神愛は臆することなく真顔で言いのけた。

「ミルフィア」

『はい!』

 呼び声に応じミルフィアの威勢ある声が返ってくる。こうしている今も流星の暴威は接近している。

 だが、それを上回る『弾圧』があった。

「我が理に反する愚者を、弾圧せよ!」

『我が主の命ずるままに!』

 神愛からの命をミルフィアは行使する。創造神からの直接命令だ、至高の神造体が全力で応える。

 ミルフィアの後方、そこに黄金の魔法陣が浮かび上がった。それはメタトロンに照射したものより巨大であり、それをタメなしで作り出したのだ。だが、これがミルフィアの実力の片鱗すら見せていないと誰が知ろう。

 直後、黄金に輝く砲門が次々に出現した。一つだけで星ひとつ破壊できるものが数万以上。空間を魔法陣が埋め尽くしていき、並ぶ様は金色の幾学的模様のようだ。

 流星群に対する神装攻撃。魔法陣は中心に光を吸い込み力を収束させていく。

 ミルフィアは迫りくる脅威へ、弾圧の猛威を振るう。

『王の輝きに、平伏しなさい!』

 魔法陣から黄金光が迸る。それは単なる光ではない。物理法則を超越した神理の光だ。宿る神威かむいはこの世界にあるあらゆるものを破壊していく。

 神愛とミカエルの間で行われる黄金光と流星群の衝突。ミルフィアの光は一撃のもとに星を破壊していった。ミルフィアが行う惑星や恒星に行う対空砲火ならぬ対星放火により数百単位で連続する超爆発はまさに神話そのものだ。

 だが、ミカエルの五次元転移は続く。平行世界とは無限にあるもの。そこから一つの宇宙を選び星たちを放出してくるのだ。仮に星が尽きてもまた別の平行世界から持って来ればいい話。ミルフィアが片っ端から壊していく傍ら、ミカエルも終わらない流星攻撃を仕掛けてくる。

『く!』

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