天下界の無信仰者(イレギュラー)
その者は至高の神、聖なる父にして全能の王
しかし、人類から頼まれたわけではないのだ。自分たちがそう思って行動しているだけで、独善と言われてしまえばその通りだ。押しつけの平和を跳ね返されても本来文句も言えない。
だが、それでも、叶えたい願いがある。
誰しもが笑顔で暮らし、平和に過ごす時間を永遠のものにして、人類に黄金の時代を。
笑っている顔に胸が温かくなる。その純粋な願いを果たしたい。
「勝手な、理想でしかないのか……?」
「そんなことはない!」
その時だった。ルシフェルの弱音を叩くミカエルの大声に顔を上げた。
ミカエルの表情には気迫があった。見つめられるだけで押されているかのような熱量を感じる。瞳は大きく見開かれ口は気炎を吐く。
「平和を願う想いが、間違っているはずがない!」
叫んだ、思いの限り。胸の底から叫びたがっている。悲しんでいる彼に、そんなことはないと。片手を胸に当て、ミカエルは必死な思いを伝える。
「約束したじゃないかルシフェル」
ミカエルは一歩ルシフェルに近づいた。
「ともに、人類の平和を作ろうと。私はまだ覚えてる。その時の決意も、情熱も。その想いは輝いていた、間違っているはずがない!」
「ミカエル……」
普段あまり主張しない、それこそ口を荒げることなどまずしないミカエルの姿にルシフェルも瞠目していた。素直に驚いたのだ、彼が、こうも自分の気持ちを押してくることに。
「はあ、はあ」
慣れないことをしたミカエルは肩を大きく動かし呼吸をしていた。大声を出し疲れたか、それでも止まらない思いはミカエルを突き動かし続ける。
「私は、これだけは言える」
いったん息を落ち着ける。下がっていた目線を再びルシフェルに当てた。残りの思いのすべて、最後の言葉に詰め込んだ。
これまで二人で頑張ってきた理想。
これからの未来に期待を寄せた願い。
その、すべての思いを。
次の言葉に。
「あの時の約束は、間違いなどではないと!」
人類の平和をともに実現させようと、まだ補佐官に任命されて浅い日に二人は約束した。
あの時の二人は笑っていた、明るい未来に輝いていた。困難も苦境も努力でなんとかなると思っていた。
その願いが、裏切られるとも知らずに。
その、時だった。
「ルシフェル」
男性の声に、ルシフェルは飛び上がる勢いで顔を上げた。それはミカエルも同じ。驚愕に全身が震えた。
聞こえてきた声に。
それは、声だけでこの世界を押しつぶすほどの存在感だった。あまりにも格が違い過ぎて自身と比べる気にもならない。誰が自分の背と山の高さを競り合おうとするか。これはそれよりもなお格段に違う。
なぜならば。
その者は至高の神、聖なる父にして全能の王。
その名を、
「イヤス様」
天上神、イヤス。後に三柱の神と呼ばれるうちの一人であった。
イヤスの声がこの部屋に響く。姿はない。声だけだ。にも関わらず充満する神気、それは本体の髪の毛一本ほどの片鱗すらないというのに。
それでも、ミカエルを強ばらせるには十分だった。ミカエルは急いで床に片足をつけ頭を垂れる。反対にルシフェルは立ち上がった。
(これが、イヤス様の気配!?)
言葉が出なかった。あまりの違いに圧倒され体が動かない。次元を越えて届けられた思念、声だけでこの場の空間が歪曲しそうだ。
いや、時間軸にすら影響を与えこの場の時間は止まっているのかもしれない。いわば、イヤスの声は二人にだけ伝えられていた。
そのデタラメ、次元すら薄い膜のように突破する存在にミカエルは尊敬と同時に畏怖を覚えていた。
違いすぎる、あまりにも。すべてが違っていた。
その中で、気丈さを崩さないのはさすがルシフェルだった。
「お久しぶりです、イヤス様」
瞑目しルシフェルは会釈する。ミカエルは緊張に体がしびれるほどだというのに彼は自然体だ。
姿勢を正し身構えてはいるが動揺はない。それだけで彼の特別さが伺える。この声を前にして、平常を保てるのは四大天羽、その中でも彼と一人いるかいないかだろう。
イヤスの疑似降臨にミカエルは無言のまま固まっていると、イヤスからの声が聞こえてきた。
「今回の天羽殺害の件は、胸に穴を空けるほど痛ましく、悲しい出来事だ」
声はまだ若い。おそらくルシフェルと同じくらい。三十代前半だろう。声だけでは知的さと明るさを感じさせる。
今は悲しんでいるのが分かるが、しかし、ミカエルは聞いていて奇妙な感覚に捕らわれた。
だが、それでも、叶えたい願いがある。
誰しもが笑顔で暮らし、平和に過ごす時間を永遠のものにして、人類に黄金の時代を。
笑っている顔に胸が温かくなる。その純粋な願いを果たしたい。
「勝手な、理想でしかないのか……?」
「そんなことはない!」
その時だった。ルシフェルの弱音を叩くミカエルの大声に顔を上げた。
ミカエルの表情には気迫があった。見つめられるだけで押されているかのような熱量を感じる。瞳は大きく見開かれ口は気炎を吐く。
「平和を願う想いが、間違っているはずがない!」
叫んだ、思いの限り。胸の底から叫びたがっている。悲しんでいる彼に、そんなことはないと。片手を胸に当て、ミカエルは必死な思いを伝える。
「約束したじゃないかルシフェル」
ミカエルは一歩ルシフェルに近づいた。
「ともに、人類の平和を作ろうと。私はまだ覚えてる。その時の決意も、情熱も。その想いは輝いていた、間違っているはずがない!」
「ミカエル……」
普段あまり主張しない、それこそ口を荒げることなどまずしないミカエルの姿にルシフェルも瞠目していた。素直に驚いたのだ、彼が、こうも自分の気持ちを押してくることに。
「はあ、はあ」
慣れないことをしたミカエルは肩を大きく動かし呼吸をしていた。大声を出し疲れたか、それでも止まらない思いはミカエルを突き動かし続ける。
「私は、これだけは言える」
いったん息を落ち着ける。下がっていた目線を再びルシフェルに当てた。残りの思いのすべて、最後の言葉に詰め込んだ。
これまで二人で頑張ってきた理想。
これからの未来に期待を寄せた願い。
その、すべての思いを。
次の言葉に。
「あの時の約束は、間違いなどではないと!」
人類の平和をともに実現させようと、まだ補佐官に任命されて浅い日に二人は約束した。
あの時の二人は笑っていた、明るい未来に輝いていた。困難も苦境も努力でなんとかなると思っていた。
その願いが、裏切られるとも知らずに。
その、時だった。
「ルシフェル」
男性の声に、ルシフェルは飛び上がる勢いで顔を上げた。それはミカエルも同じ。驚愕に全身が震えた。
聞こえてきた声に。
それは、声だけでこの世界を押しつぶすほどの存在感だった。あまりにも格が違い過ぎて自身と比べる気にもならない。誰が自分の背と山の高さを競り合おうとするか。これはそれよりもなお格段に違う。
なぜならば。
その者は至高の神、聖なる父にして全能の王。
その名を、
「イヤス様」
天上神、イヤス。後に三柱の神と呼ばれるうちの一人であった。
イヤスの声がこの部屋に響く。姿はない。声だけだ。にも関わらず充満する神気、それは本体の髪の毛一本ほどの片鱗すらないというのに。
それでも、ミカエルを強ばらせるには十分だった。ミカエルは急いで床に片足をつけ頭を垂れる。反対にルシフェルは立ち上がった。
(これが、イヤス様の気配!?)
言葉が出なかった。あまりの違いに圧倒され体が動かない。次元を越えて届けられた思念、声だけでこの場の空間が歪曲しそうだ。
いや、時間軸にすら影響を与えこの場の時間は止まっているのかもしれない。いわば、イヤスの声は二人にだけ伝えられていた。
そのデタラメ、次元すら薄い膜のように突破する存在にミカエルは尊敬と同時に畏怖を覚えていた。
違いすぎる、あまりにも。すべてが違っていた。
その中で、気丈さを崩さないのはさすがルシフェルだった。
「お久しぶりです、イヤス様」
瞑目しルシフェルは会釈する。ミカエルは緊張に体がしびれるほどだというのに彼は自然体だ。
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