天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

そんじゃ、そろそろ終わらせないとな

 そして、本当の決着はまだ終わっていない。

「そんじゃ、そろそろ終わらせないとな」

 神愛は振り向き上空を見上げた。先の一撃で青色を描く上空、そこに浮かぶ巨大な扉を。わずかに開かれた隙間からは今も天羽の部隊が流出している。

「あれを止めないとこの戦いは終わらない。なにも解決しない」

 神愛は右手を丸め胸の位置まで持ち上げる。

「この戦いにはいろんなやつの思いが詰まってる。俺の、みんなの。大事な思いが。だけど、相手は無限の天羽だ。このまま戦っててもキリがねえ」

 このまま長引けば地上はいずれ天羽に覆い尽くされてしまう。人々は破れいつしか天羽の支配の下生きることになる。戦争も飢餓もない、同時に夢も希望も持てないそんな世界へと。

「俺は嫌なんだ。俺はもっとあいつらと一緒にいたい。馬鹿なことしたり遊んだりしたいんだ。当然ミルフィアともな」

「はい、私も同じです。主」

 視線を動かせば彼女もまた力強い眼差しで応えてくれる。

 戦争を無くすこと。平和な世界にすること。

 それは素晴らしいことだし大切なことだ。でも、それで生まれる犠牲に耐えられない。一緒にいること、自由に遊ぶこと、笑い合うこと。

 彼女たちと過ごす未来を奪われたくないから。

「ミルフィア、手を貸してくれ。あれを破壊するには俺だけじゃ無理だ。お前の力がいる」

 神愛はミルフィアへと手を伸ばした。二人の目的を、ここで戦っているみんなの思いを叶えるために。強大な天羽の軍勢を打倒するため。

 この戦いに、決着をつける。

「主」

 神愛の真剣な眼差しと共に差し出される手。その手に彼女は優しく手を乗せた。彼の意思に賛同して。彼の気持ちに応じて。ミルフィアは小さく笑い、己の全身全霊を誓う。

「はい、あなたがそれを望むなら。私は、ずっと主のそばにいます」

 彼のそばにいること。彼のためになること。彼と共に目的に向かえる幸福に包まれる。

 これから先の未来で自分がどのように関わっていくのか。それは分からない。ただ彼のためにありたいと願ってる。それを阻むものがあるのなら容赦はしない。

 彼のそばにいることが彼女の望みであり幸せ。

 彼と一緒にいる未来を奪うことを、ミルフィアは認めない。

 だからこそ。

 進むのだ。

 未来永劫、彼のそばで仕えるために!

「戦いましょう、二人で」

「おう」

 二人は手を取り合った。天羽の管理による平和? そんなの願い下げだ。

 自分の未来は自分で決める。それを邪魔するものは踏み潰す! 神が創った世界を土足で荒す者たちを成敗するために。

 神が目覚める時だ。

「「憑依形態デュエット・モード!」」

 二人の声が天高くに届く。彼女が黄金の粒子となって姿を再構築していく。服装は純白のコートにミニのタイトスカート。コートには五つの黄色のボタンが二列に並び胸元には赤いリボンが咲いている。

 膝上まである白のブーツに足を通し、ミルフィアは新生していた。姿は半透明ではあるがその神聖は比べるもののない、正真正銘の神の傑作だ。

 そして神愛も姿を変える。学園の制服は白のロングコートと長ズボンに変わった。前はコートを折り重ねボタンで留めてある。

 ミルフィアは浮遊し神愛の背後に立つ。後ろから見ればミルフィアの姿が透けて神愛の背中が見える。

 ここにいるのは神と神造体。神気一体となり至高の存在が地上に降り立つ。規格外の神格に大気は爆発しオーラはこの街全域へと伝播していった。ここで争う者たちは知る。今、とてつもない何かが生まれたのだと。

 それは当然、サン・ジアイ大聖堂にいるミカエルにも伝わっていた。座っていた椅子から立ち上がる。

 なによりこの場所を覆う五次元結界が消えていく様を信じられない目で窓越しから見つめていた。

「馬鹿な……」

 地上から空まで伸びる光のベールが消えていく。それは自分を除く四大天羽の敗北を意味していた。

「負けたのか?」

 ミカエルの胸を驚愕が打ち抜く。サリエルとウリエルはともかくとして、ラファエルやガブリエルは万全の状態だったはず。

 実際にガブリエルは破れたわけではないが、それにしても、五次元結界の崩壊はまったく予想だにしていないことだった。

 彼らが負けるなど、信じられない。

 表情からは余裕が消えていた。勝利を確信した戦い、天界の門ヘブンズ・ゲートが開いた時点で決着済み、しょせんは消化試合だと思っていた争いがここにきて急展開を迎える。

 さらに今しがた伝わってきた濃密な神気。全宇宙すら覆い尽くして余りあるオーラを一点に収束したかのような、膨大という言葉でも言い足りない圧倒的な存在感。

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