天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

お前をそこに連れ戻す

 神愛はすぐに次の攻撃を出す。両手で繰り出すいくつもの打撃、一つ一つが嵐のような風圧を伴ってウリエルを襲撃する。

「はああ!」

 津波のように押し寄せるその猛威を、ウリエルは斬り返していた。彼女が振るう一刀が黄金を切り裂き、神愛の一打と衝突し互いの攻撃をぶつけ合う。

 すさまじい力と力の激突だ、両者の間で爆弾がいくつも破裂しているかのような轟音を響かせて神愛の拳とウリエルの剣が交わっていく。

 神愛が右ストレートを放つ。ウリエルに対する思いは神化となってすさまじい一撃だ。これだけで決着が付きかねない。

 だが、ウリエルは見切った。神愛の拳を体半分をずらして躱し、隙だらけの神愛に剣を突きつけた。当たる。百戦錬磨のウリエルが確信する一撃、これは外れない。防御も不可能だ。

「く!」

 しかし予想は裏切られる。ウリエルの剣は黄金の光に動きを鈍らされ、神愛は回避したのだ。

 忌々しい。ウリエルの表情がひどく歪む。

 神愛は止まらない。王金調律の二重属性、強化と妨害の両輪が神愛を押し上げる。相手の攻撃を気にせず前に出れるのだから攻勢一方だ。

 だが、その一歩が踏み止まった。

「ハッ!」

 ウリエルが振るう剣。その刀身に火炎が宿り神愛を襲ってきたのだ。

 神愛の鎧、妨害の光が砕かれる。ウリエルが振るう連続攻撃がみるみると神愛の光を剥いでいった。

「くそ!」

 さらには空間転移で姿を消してくる。四方からの突然の攻撃に一気に防戦に立たされる。ウリエルの攻撃を躱すか防ぐで精一杯。反撃しようにもすぐに姿が消えるのだからタイミングがない。

 神愛は集中した。ここで焦っては一気にもっていかれる。ここを凌ぎ切り、次のチャンスへ繋ぐしかない。

 空間転移による急襲、それも高速という、不意打ちの連続を凌ぎ切るのは至難の業だ。

 だからこそ、それは強化によって得た神化の形、四次元への入口。未来予知だったのかもしれない。

「なに!?」

 ウリエルが驚愕する。

 死角から攻める不規則な攻撃を、神愛はすべて拳で迎撃していた。横から迫る刀身を裏拳ではね返し、ウリエルが現れるよりも早くに振り返り拳を打ち付ける。それを十五回、止まることなく繰り返した。

 ウリエルは一旦離れ神愛の正面に現れた。距離は三メートルほど。左手には巨大な炎が渦巻き神愛へ放射する。

「フン!」

 火炎は神愛を呑み込むほどに大きい。触れたものを一瞬で灰にする攻撃。

 それを、神愛は殴りつけた。

「うおおお!」

 ウリエルの炎を神化の拳が迎え撃つ。ウリエルの強大な炎が一瞬で吹き飛び、この場で一番の爆風が起こっていた。ゴルゴダ美術館前の広場全体を白煙が覆っていく。

 神愛はその場を動かずウリエルを見つめていた。

 ウリエルは強い。さすがは伝説の四大天羽。その力は絶大だ。なまじ人間だった頃の恵瑠を知っているだけに衝撃が大きい。

 しかし、だからだろうか。

「ハッ……」

 神愛は、小さく笑った。

「そう言えば、てめえとこんな風に喧嘩することはなかったよな。てか、加豪くらいか」

「……そうだな」

 懐かしい日常を思い出す。まだ数日しか経っていないはずなのにかなり昔のように感じる。

 それはウリエルも同じなのだろう。どこか郷愁きょうしゅうを思わせる表情だった。

 しかし、少しだけ緩んだ雰囲気が引き締まる。

「お前をそこに連れ戻す」

「いいや、世界は変わる」

 二人は見つめ合った。神愛の表情も引き締まり、真剣な瞳を向け合った。

 まるで鏡のようだ。想いまでもそっくりそのままで、願いは同じなのだから。

「お前を救おうと、俺は必死だった」

 神愛は拳を丸める。ここに来るまでにあった多くの出来事、それは替え難いほど大切なもので、神愛の拳を重くする。

「いろいろ馬鹿もやったよ。周りからはスゲー怒られたけどさ」

「加豪さんか」

「へ」

 よくわかってらっしゃる。図星に苦笑いを浮かべた。

「君は、初めからめちゃくちゃな人だった」

 ウリエルは懐かしそうに、どこか緩やかな声でつぶやいた。

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