天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

来るがいい。私のすべてを賭けて、ここから先へは行かせない!

 神愛は走る。目の前に現れる少数の天羽を薙ぎ倒しつつ進んで行く。

 建物に挟まれた通りからついにヴァルカン美術館が見えてきた。

 ヴァルカン共和国を代表する施設とあって大きい。以前も来たから知っているが相変わらずの広さだ。

 敷地を覆う壁の向こうには上部がドーム状になっている巨大な建物が見える。

 そこが最後の支点。

 その正面、正門前はまさに最後の壁だ。天羽たちも全力で阻止してくる。

 しかし、そこはすでに片付いていた。天羽たちは壊滅状態。地上で多くの天羽たちが倒れている。

 その場に立つのはただ一人。

 金髪の少女が、神愛を待っていた。

「お待ちしていました、我が主」

 ミルフィアは神愛が到着すると片膝を付き恭しく頭を下げた。右手は心臓の位置に置き、奴隷の姿勢を見せる。

 辺りに散乱する天羽たちは先に駆けつけていたミルフィアで倒したのか。

 神愛が来ることを信じ、たった一人で戦っていたのだ。

「ここは私が。あなたの邪魔は誰にもさせません。さあ、お早く」

 なんて強い女性だろう。なによりその心が。来るかも分からない相手を信じ、これだけの相手を戦い続けることが出来る者がどれだけいるだろう。

 それも全部、神愛のため。彼女は戦い、待っていてくれた。

「ありがとな、ミルフィア」

 神愛の言葉にミルフィアは顔を上げた。その表情は真剣だったが、ふっと崩すと、柔らかな表情になった。

 それは奴隷としてのミルフィアではなく、一人の友人としての、そんな表情だった。

「恵瑠のこと、お願いしますね」

 大切な共通の友達。それに決着を付けるのなら、相応しい人物は一人しかいない。

 今の今まで、最初から全力で頑張ってきた男に託すのが一番だ。

 それを神愛も分かってる。ミルフィアから託された想いに、神愛は勢いよく答える。

「おう! まかせとけよ」

 そのままミルフィアの横を通り門を潜っていった。

 正門前のこの場所から神愛がいなくなる。ミルフィアは静かに立ち上がり消えていく背中へと言葉を贈る。

「頑張ってきてください、主」

 優しい声と眼差しで、彼の背を見送った。

 ミルフィアは振り返る。その表情は引き締まり、目は鋭く戦意を向き出しにしていた。

 見上げればそこには天羽の増援がミルフィアに切っ先を向けていた。

 ミルフィアは一歩、天羽に近づいた。

「イヤスが生んだ神造体。人を総べようなどというその傲慢」

 神が己のために創った者、すなわち神造体こそ天羽だ。人ではない者たち。

 ミルフィアは知っている。イヤスの正体を。人がなんのために生き、なんのために生まれたのか。

 ミルフィアの接近に天羽が警告を発する。だが、それを無視してミルフィアはまた一歩進んだ。

「私たちは神の教えを示す者。従わない者は執行対象です」

「人はあなたたちのものではない」

 宇宙の創造。人類の誕生。それらはすべて、『あの方』がしたこと。

 断じて、奪われることなどあってはならない。

 ミルフィアは天羽に手を向ける。戦意を漲らせ、背後へと消えた彼を想い戦いへ望む。

「来るがいい。私のすべてを賭けて、ここから先へは行かせない!」

 思想統一の光線が幾条も輝いた。

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