天下界の無信仰者(イレギュラー)
行け! 成就しろ! 友を助けたいというお前の矜持、最後まで貫いてみろ!
神愛の驚愕をよそにヨハネはマイペースを崩さす、別の意味で申し訳なさそうに頭を掻いている。
「いはやは、教師である身で遅刻してしまうとは。このことは秘密にしておいてくださいね、宮司さん?」
この状況でいつもと同じ調子で話しかけてくるのだからすごい。神愛もどう答えればいいか分からず苦笑いである。
「ヨハネ! 貴様なにしに来た?」
そこへヤコブが怒鳴り込んでくる。裏切りをしただけでなく重傷であるはずの弟が戦場に出てきたのだ。
注意もあれば心配もあるだろう声は荒れている。
それで動じないのはさすがヨハネであり、彼は堂々と答えた。
「それは当然」
微笑を浮かべた顔を神愛に向けて。
「頑張っている生徒を応援するために」
「先生……」
「ふん、好きにしろ」
それでヤコブは折れた。そんな顔をされたら何も言えなくなる。
ヤコブはヨハネから顔を背けるとそのまま背中を向ける。神愛から見て左を向いた。
それに合わせてヨハネはヤコブと背中合わせになるように右を向く。
二人の背中には神愛が通れるスペースができていた。
ヨハネとヤコブ。二人の兄弟が道を作ってくれた。
「宮司さん。ここは私たちが。さきを急いでください」
「さっさと行けイレギュラー。こんなザコ共、俺だけで十分だ。『俺だけでな』」
「嫌ですね~、まったくこの人は。後ろから撃たれても知りませんよ?」
「おいヨハネ、それはどういう意味だ!?」
「分かった分かった、兄弟コントの続きはあとで見させてもらうわ」
二人は相変わらずだ。仲が良いのか悪いのか。
でも、きっといいのだろう。素直ではないだけで。
神愛は小さく笑った。その後二人を見つめる。
「ありがと、二人とも」
「いえいえ」
「フン!」
神愛は二人の背中を通って行った。背後ではすでに戦闘が始まりヨハネの銃声とヤコブの剣戟が聞こえてきた。
進めている。天羽の妨害に遭いながらも少しずつ。みなの力を借りながら。
神愛はさらに進む。そこにも天羽が待ち受けていた。
さらに今度はさっきの倍はあろうかという数だ。地上に立って剣を構える者、浮遊しながら弓を構える者。
すべてが神愛を倒さんと戦意を放つ。
「次から次へと!」
神愛は構えた。ここを突破するために。
天羽たちから矢が放たれる。一斉に放たれるそれは雨滴のように降り注ぐ。
「ここまでだ」
それが、すべて切り裂かれていた。
「ペトロ!」
「ここは私が受け持とう」
急いで背後に振り返る。そこにいたのは聖騎士第一位、ペトロだった。
赤いマントを翻し、そこには剣を振るった姿勢のペトロが立っている。
剣撃を空間転移で飛ばすという絶技を以て、天羽たちの矢をその場に居ながら斬り落としていた。
「お前、広場は大丈夫なのかよ」
ペトロは東広場の主戦力だ。彼がいたからこそ広場の戦況は保たれていたというのに、天羽の増援と相まって彼が離れればゴルゴダ軍にとって大きな負担だ。
しかし、ペトロは言い切った。
「優秀な部下たちが持ち堪えると、私にそう言った。お前が気をもむことではない」
「でも」
「みな、お前に期待している」
ペトロは歩き前に出る。神愛の横を通り過ぎ天羽たちと対峙した。神愛にはペトロの背中が見える。
この国を守ると決意した騎士の背中が。
大きい。同じ人間なのに、その後ろ姿は大きく見えた。
神愛は、今までこんな人物と戦ってきたのか。初めは敵だった彼と何度も戦って。
それでも、今ではこんなにも頼もしい。
「思えば、お前とは不思議な縁だったな。誰よりも多く戦っていたはずなのに、今ではこうして共闘している。そして、さらに不思議なのは、お前をいつしか受け入れている私がいたことだ」
そう、戦った。誰よりも。敵として出会った。それがいつの間にか仲間として一緒に戦っている。
絆は広がる、味方敵区別なく。
「お前は敵だった。しかし、大切な者を助けんとするお前の気持ちは分かっていた」
ペトロが背中越しに神愛に話しかけている時、三体の天羽がペトロに斬りかかってきた。
同時に突撃し剣を振るう。それに対しペトロも剣を動かす。
一瞬の攻防。目にも止まらぬ速度でそれは行われた。
突撃してきた三体の天羽はみなペトロの横を通り過ぎていく。そして、地面に倒れ伏した。
ペトロは立っている。その後神愛に顔だけで振り向いた。
「行け! 成就しろ! 友を助けたいというお前の矜持、最後まで貫いてみろ!」
ペトロからの激励。熱のこもったその言葉に、神愛も同じく熱い言葉で返す。
「……おう!」
走った。目の前にいる大勢の天羽なんて気にしない。
神愛を阻まんと天羽たちも動く。だが、その直後には体は切り裂かれていた。
ペトロが剣を幾度も一閃する。その場から離れた相手を斬る、三次元の超越者でも高度な技術だ。
神愛の邪魔はさせんと、追おうとする者から斬り伏せた。
ペトロの援護もあり神愛はここから離れていく。みるみると遠ざかっていく後ろ姿をペトロは感慨深い目で見つめていた。
「イレギュラー……。まさか、お前が最後の希望になるとはな」
誰しもが蔑み避けていた無信仰者が、世界を救うために走っていく。
「いはやは、教師である身で遅刻してしまうとは。このことは秘密にしておいてくださいね、宮司さん?」
この状況でいつもと同じ調子で話しかけてくるのだからすごい。神愛もどう答えればいいか分からず苦笑いである。
「ヨハネ! 貴様なにしに来た?」
そこへヤコブが怒鳴り込んでくる。裏切りをしただけでなく重傷であるはずの弟が戦場に出てきたのだ。
注意もあれば心配もあるだろう声は荒れている。
それで動じないのはさすがヨハネであり、彼は堂々と答えた。
「それは当然」
微笑を浮かべた顔を神愛に向けて。
「頑張っている生徒を応援するために」
「先生……」
「ふん、好きにしろ」
それでヤコブは折れた。そんな顔をされたら何も言えなくなる。
ヤコブはヨハネから顔を背けるとそのまま背中を向ける。神愛から見て左を向いた。
それに合わせてヨハネはヤコブと背中合わせになるように右を向く。
二人の背中には神愛が通れるスペースができていた。
ヨハネとヤコブ。二人の兄弟が道を作ってくれた。
「宮司さん。ここは私たちが。さきを急いでください」
「さっさと行けイレギュラー。こんなザコ共、俺だけで十分だ。『俺だけでな』」
「嫌ですね~、まったくこの人は。後ろから撃たれても知りませんよ?」
「おいヨハネ、それはどういう意味だ!?」
「分かった分かった、兄弟コントの続きはあとで見させてもらうわ」
二人は相変わらずだ。仲が良いのか悪いのか。
でも、きっといいのだろう。素直ではないだけで。
神愛は小さく笑った。その後二人を見つめる。
「ありがと、二人とも」
「いえいえ」
「フン!」
神愛は二人の背中を通って行った。背後ではすでに戦闘が始まりヨハネの銃声とヤコブの剣戟が聞こえてきた。
進めている。天羽の妨害に遭いながらも少しずつ。みなの力を借りながら。
神愛はさらに進む。そこにも天羽が待ち受けていた。
さらに今度はさっきの倍はあろうかという数だ。地上に立って剣を構える者、浮遊しながら弓を構える者。
すべてが神愛を倒さんと戦意を放つ。
「次から次へと!」
神愛は構えた。ここを突破するために。
天羽たちから矢が放たれる。一斉に放たれるそれは雨滴のように降り注ぐ。
「ここまでだ」
それが、すべて切り裂かれていた。
「ペトロ!」
「ここは私が受け持とう」
急いで背後に振り返る。そこにいたのは聖騎士第一位、ペトロだった。
赤いマントを翻し、そこには剣を振るった姿勢のペトロが立っている。
剣撃を空間転移で飛ばすという絶技を以て、天羽たちの矢をその場に居ながら斬り落としていた。
「お前、広場は大丈夫なのかよ」
ペトロは東広場の主戦力だ。彼がいたからこそ広場の戦況は保たれていたというのに、天羽の増援と相まって彼が離れればゴルゴダ軍にとって大きな負担だ。
しかし、ペトロは言い切った。
「優秀な部下たちが持ち堪えると、私にそう言った。お前が気をもむことではない」
「でも」
「みな、お前に期待している」
ペトロは歩き前に出る。神愛の横を通り過ぎ天羽たちと対峙した。神愛にはペトロの背中が見える。
この国を守ると決意した騎士の背中が。
大きい。同じ人間なのに、その後ろ姿は大きく見えた。
神愛は、今までこんな人物と戦ってきたのか。初めは敵だった彼と何度も戦って。
それでも、今ではこんなにも頼もしい。
「思えば、お前とは不思議な縁だったな。誰よりも多く戦っていたはずなのに、今ではこうして共闘している。そして、さらに不思議なのは、お前をいつしか受け入れている私がいたことだ」
そう、戦った。誰よりも。敵として出会った。それがいつの間にか仲間として一緒に戦っている。
絆は広がる、味方敵区別なく。
「お前は敵だった。しかし、大切な者を助けんとするお前の気持ちは分かっていた」
ペトロが背中越しに神愛に話しかけている時、三体の天羽がペトロに斬りかかってきた。
同時に突撃し剣を振るう。それに対しペトロも剣を動かす。
一瞬の攻防。目にも止まらぬ速度でそれは行われた。
突撃してきた三体の天羽はみなペトロの横を通り過ぎていく。そして、地面に倒れ伏した。
ペトロは立っている。その後神愛に顔だけで振り向いた。
「行け! 成就しろ! 友を助けたいというお前の矜持、最後まで貫いてみろ!」
ペトロからの激励。熱のこもったその言葉に、神愛も同じく熱い言葉で返す。
「……おう!」
走った。目の前にいる大勢の天羽なんて気にしない。
神愛を阻まんと天羽たちも動く。だが、その直後には体は切り裂かれていた。
ペトロが剣を幾度も一閃する。その場から離れた相手を斬る、三次元の超越者でも高度な技術だ。
神愛の邪魔はさせんと、追おうとする者から斬り伏せた。
ペトロの援護もあり神愛はここから離れていく。みるみると遠ざかっていく後ろ姿をペトロは感慨深い目で見つめていた。
「イレギュラー……。まさか、お前が最後の希望になるとはな」
誰しもが蔑み避けていた無信仰者が、世界を救うために走っていく。
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