天下界の無信仰者(イレギュラー)
拙者も知られてはならぬ身なので
「私が始末しておきますか」
「しないくていいわ」
それを天和が止める。まさか止められると思っていなかった五十鈴(いすず)がおどけた調子に戻る。
「およよ? いいのでござるか? 天和殿のことバレてしまうでござるよ?」
「記憶はすでに消してあるし大丈夫よ」
「しかし危険でござるよ。消すなら今が一番でござる。殺さぬのは何故でござるか?」
情報漏えいを防ぐならばここで息の根を止めておいた方が確実だ。死人に口なし。
忍者である五十鈴としてはそれしか思い浮かばない。
天羽というだけで危険であるのに、いったいどんな理由で止めたのか。
天和は答えた。
「なんとなく」
「なんとなくでござるか……」
そんな理由で止めたのかと五十鈴はまたも呆れ顔になってしまう。その後やれやれと頭を掻いた。
「はあ~、天和殿のなんとなくは頑固でござるからなぁ」
「じゃあいいでしょ」
「はいはいでござる~」
そんなこんなでしぶしぶだったが五十鈴は納得したようだった。
するとまたもやなにか感じ取ったのかここに来る道を見つめた。
「ん。何者か近づいているでござるな」
こちらに来る気配に五十鈴は姿勢を正す。
「消えるの?」
「拙者も知られてはならぬ身なので」
どうやら普段は隠れていなければならないらしく五十鈴は両手を合わせ印を結んでいた。そのまま頭を小さく下げ瞳を閉じる。
「それでは拙者は消えていますが、くれぐれも気を付けてくださいよ」
お調子者らしい明るい声で言う。上忍くノ一というには性格はそんな感じではない。
五十鈴は片目を開いて天和を見る。
だが消える前、真剣な声で、自制を求めるように、彼女のもう一つの名を呼んだ。
「『薬師如来殿?』」
そう言い、五十鈴は現れた時と同じように空間へと消えていった。
天和は黙って五十鈴の言葉を聞いていた。早い動きで流れていく黒い雲を見上げている。
反応はない。ただいつものように、平然と、平静に、表情はみじんも動くことなく立ち尽くしている。
彼女はなにを考えているのか、それは誰にも分からない。
けれど。
彼女がほんの少しだけ、寂しく見えるのは一人だけだからだろうか。
「天和ー!」
天和が一人佇んでいるとここへ来た道から声がかけられた。
見れば、そこにいたのは加豪だった。息を切らし必死な表情で走ってくる。
「あ、来た」
走り寄ってくる加豪が天和の前で立ち止まる。肩を大きく動かしていることからよほど一生懸命走り回ったのだろう。
別れてからたいした時間は経っていないものの、仲間とはぐれた時間はそれよりも長く感じたはずだ。
それがこうして無事に再会できたのだ。
その第一声。それは鼓膜が破れるほどの大声だった。
「こぉんの、バカ! どこ行ってたのよ! めちゃくちゃ心配したんだからね!」
加豪の大声が顔に吹きかかる。めちゃくちゃご立腹だ、眉間のしわがやばい。
「ごめんなさい。ちょっと気になることがあ――」
言葉の途中、突然加豪が抱き寄せてきた。天和の背中に腕を回し彼女の大きめの胸が顔に押し付けてくる。
「無事でよかった……!」
「…………ん」
だが、文句は出てこない。
加豪は心底安堵している。本当に心配していたようだ。無事な天和を見てホッとしている。
最初に怒鳴ったのもそれだけ辛かったんだろう。
「しないくていいわ」
それを天和が止める。まさか止められると思っていなかった五十鈴(いすず)がおどけた調子に戻る。
「およよ? いいのでござるか? 天和殿のことバレてしまうでござるよ?」
「記憶はすでに消してあるし大丈夫よ」
「しかし危険でござるよ。消すなら今が一番でござる。殺さぬのは何故でござるか?」
情報漏えいを防ぐならばここで息の根を止めておいた方が確実だ。死人に口なし。
忍者である五十鈴としてはそれしか思い浮かばない。
天羽というだけで危険であるのに、いったいどんな理由で止めたのか。
天和は答えた。
「なんとなく」
「なんとなくでござるか……」
そんな理由で止めたのかと五十鈴はまたも呆れ顔になってしまう。その後やれやれと頭を掻いた。
「はあ~、天和殿のなんとなくは頑固でござるからなぁ」
「じゃあいいでしょ」
「はいはいでござる~」
そんなこんなでしぶしぶだったが五十鈴は納得したようだった。
するとまたもやなにか感じ取ったのかここに来る道を見つめた。
「ん。何者か近づいているでござるな」
こちらに来る気配に五十鈴は姿勢を正す。
「消えるの?」
「拙者も知られてはならぬ身なので」
どうやら普段は隠れていなければならないらしく五十鈴は両手を合わせ印を結んでいた。そのまま頭を小さく下げ瞳を閉じる。
「それでは拙者は消えていますが、くれぐれも気を付けてくださいよ」
お調子者らしい明るい声で言う。上忍くノ一というには性格はそんな感じではない。
五十鈴は片目を開いて天和を見る。
だが消える前、真剣な声で、自制を求めるように、彼女のもう一つの名を呼んだ。
「『薬師如来殿?』」
そう言い、五十鈴は現れた時と同じように空間へと消えていった。
天和は黙って五十鈴の言葉を聞いていた。早い動きで流れていく黒い雲を見上げている。
反応はない。ただいつものように、平然と、平静に、表情はみじんも動くことなく立ち尽くしている。
彼女はなにを考えているのか、それは誰にも分からない。
けれど。
彼女がほんの少しだけ、寂しく見えるのは一人だけだからだろうか。
「天和ー!」
天和が一人佇んでいるとここへ来た道から声がかけられた。
見れば、そこにいたのは加豪だった。息を切らし必死な表情で走ってくる。
「あ、来た」
走り寄ってくる加豪が天和の前で立ち止まる。肩を大きく動かしていることからよほど一生懸命走り回ったのだろう。
別れてからたいした時間は経っていないものの、仲間とはぐれた時間はそれよりも長く感じたはずだ。
それがこうして無事に再会できたのだ。
その第一声。それは鼓膜が破れるほどの大声だった。
「こぉんの、バカ! どこ行ってたのよ! めちゃくちゃ心配したんだからね!」
加豪の大声が顔に吹きかかる。めちゃくちゃご立腹だ、眉間のしわがやばい。
「ごめんなさい。ちょっと気になることがあ――」
言葉の途中、突然加豪が抱き寄せてきた。天和の背中に腕を回し彼女の大きめの胸が顔に押し付けてくる。
「無事でよかった……!」
「…………ん」
だが、文句は出てこない。
加豪は心底安堵している。本当に心配していたようだ。無事な天和を見てホッとしている。
最初に怒鳴ったのもそれだけ辛かったんだろう。
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