天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

あああ、もう! どっかでこうなるって思ってたわよ!

 いない? いない。え、いない!? いない!

 辺りを見渡しても天和の姿はどこにもいなかった。

「ちょ、どういうこと!? なんでいないの!?」

 意味が分からん。どこに行ったのあの電波女と思い探してみるも見当たらない。

「あああ、もう! どっかでこうなるって思ってたわよ!」 

 困惑するが戦闘は続行中だ。天和の姿を追いかけている間も天羽たちは襲いかかってくる。加豪は応戦するがすでに辺りを囲まれてしまった。

「くっ!」

(まずい!)

 すぐにでも天和を探しに行きたいが、そのためにはこの包囲網を突破しなければならない。

「天和、無事でいなさいよ……!」

 焦りと祈りを持ち合わせ、加豪はいきおいよく雷切心典光の刃を天羽たちに振り下ろすのだった。



 その頃。

 天和は一人ヴァチカン庭園の敷地内を歩いていた。

 庭園というだけありアスファルトで固められた広めの道の両側には木々が整然と並び、木自体も枝を切り揃えられている。

 曇りなのが残念ではあるが、晴れの日では散歩をするのに絶好の場所だろう。

 落ち着きと緑溢れる庭園。しかしここは敵地である。どれだけ優雅でも油断ならぬのであれば意味はない。

 そんな場所を天和はなんの感慨もなしに歩いていた。

 支点、ヴァチカン庭園の教会に向かって。

「待って下さい天和さん」

 天和が通ってきた道から声がかけられる。振り返れば護衛の騎士たちが慌てた様子で駆け寄ってきていた。

 彼らはどうやら天羽たちの包囲網を突破できたらしい。

「天和さん。単独行動は危険です。すぐに合流してください」

 ここに来ている中で一番の戦力は加豪だ。その彼女から離れるのは危険が大き過ぎる。

 足止めを受けてはいるがもしかしたらヤコブたちも追いついてくれるかもしれない。

 しかし天和はいつもの表情で気にしていないようだった。というよりも彼女がなにを考えているかは誰にも読めない。

「私は一人でいいわ。あなたちは加豪さんを手伝ってあげて」

「そう言われても……」

 一番の戦力外がそう言われても困る。

 騎士たちは困ってしまうが天和は歩き始めた。

「待って下さい!」

 騎士たちの制止も聞かず、そのまま進んでいってしまった。

 騎士たちもなんとか説得させようとするがその前にたどり着いてしまった。

 ヴァチカン庭園にある教会。木々に覆われた教会の前は広い駐車スペースがありコンクリートで平らにされている。

 サン・ジアイ大聖堂と比べれば小さいものの穏やかな雰囲気に立つ、離れの教会といったところだろう。

 支点の紋様は入口前の地面に描かれていた。

「あれが支点か?」

 騎士たちが騒ぎ出す。すぐに破壊しようと走り出そうとした。

「待って」

 天和がそれを止める。直後だった。

 暗雲から一つのまばゆい光が教会に落ちてきたのだ。光は突き出した一階部分の屋上に降り、光の量を減らしていく。

 そこにいたのは黒い長髪を風に流し、白の制服に身を包んだラファエルだった。

 スカートの裾も小さく靡いている。背中にはすでに八枚の羽を露わにし右手には自身の身長ほどもある弓を持っている。

 なにより、その目はするどく天和たちを見下ろしていた。

 そこに、普段の優しい彼女はいない。

 決戦に赴く、四大の天羽として彼女は降臨していた。

「天羽!?」

 ラファエルの出現に騎士たちが剣を構える。だが、直後彼らは糸が切れたようにその場に倒れてしまった。

 そのまま横になり一人も起き上がらない。
 昏睡か。気絶か。

 いいや、死んでいるのだ。天和以外、ラファエルに敵意を向けた騎士全員が一瞬で絶命していた。

 戦いにすらならない。それほどまでにラファエルと騎士たちでは力の差があった。

 天和は倒れた彼らに動揺することなくラファエルを見上げる。 

 そんな彼女に、ラファエルは話し出した。

「悲しいわね……」

 厳しかった表情を、わずかに悲哀に染めて。

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