天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

なにが起こってるの?

 他の騎士たちにも目礼し、加豪は走り始めた。後に続き天和や騎士たちも足を動かす。建物の路地裏に入り迂回し始めた。

 建物に挟まれた薄暗い路地裏に入る。すると天羽たちと交戦が始まったのか、すぐに剣戟の音が聞こえてきた。

(急がないと)

 振り返ることなく加豪は先頭を走る。胸の焦燥に突き動かされ目的地を目指す。

 支点があるピストロ駅はすぐに見えてきた。線路が伸び駅のホームが見える。

 ゴルゴダ共和国の主要駅であるここも白の優雅さを備え、巨大な建物が駅のホームだった。

「あれね」

 加豪たちは駅の入口前に来る。駅前の広場には隅にベンチが置いてあり中央には時計台が置いてあった。

 そこが支点となっているらしく薄く光っている。時計盤に紋様が浮かんでいた。

 しかし、予想外の出来事があった。

「誰もいない……?」

 ここには誰もいなかったのだ。ここを守護しているはずの天羽すら。

 ここは本来ならサリエルが守護している支点だった。しかし加豪たちには知る由もないことだが、この時点でサリエルはウリエルと戦った後だった。

 そのため無人のまま放置されている。

「なにが起こってるの?」

 加豪は得体の知れない不気味さを感じるものの目的を達成させた。

「はああ!」

 雷切心典光の電撃で時計台を破壊し支点も消滅した。

「なんとか一つを破壊できましたね」

 騎士たちから目的達成の言葉を貰う。みな喜んでいるようだが加豪の表情は優れない。

「ええ……」

 支店の破壊は成功した。喜ぶのは当然。加豪も本心ではホッとしていたがやはり釈然としない。

 喜ぶ騎士たちに相槌を打つものの元気はなかった。それでも成功は成功と割り切り次に向かうことを決める。

「西区に行きましょう。支点の位置はヴァチカン庭園、そこにある教会ね。ここからだとまだ距離があるわ」

 頭の中に地図を描く。ここからでは建物の隙間から木々の緑がかすかに見える程度だ。

「なにが起こっているのか分からない。周囲に警戒を怠らないで。行きましょう」

 騎士たちが頷き加豪たちは走り出した。ヴァチカン庭園まで伸びる道を走っていく。

 両側には建物が並ぶが庭園に近づいてきたからか街路樹が多くなり緑が増えてきた。

「天羽だ!」

 騎士の一人が叫ぶ。右方上空から天羽たちが襲いかかってくる。

「ちぃ!」

 すぐさま雷切心典光を構える。敵も必死だ、支点守護のため二十体もの天羽たちが一斉に襲いかかる。

「これからまだ戦いが控えてるっていうのに!」

 一番初めの天羽を電撃で撃ち落とすも後続を止められず近接戦に入る。騎士たちも懸命に剣を振るい天羽たちに対抗していた。

 彼らとて日々鍛えてきたゴルゴダの騎士だ、戦いの仕方は心得ている。

 だが数の劣勢は覆しようがない。なにより心配なのは天和のことだ。

 襲ってきた天羽はどうやらすべてプリーストクラスのようで高位者スパーダの加豪なら傷つくことはないが、戦闘要員でない天和が危ない。

 気を抜けばすぐにやられてしまう危険があるのだ。

 そのため加豪は常に天和を背中に隠し戦っていた。

 襲い来る天羽たちと自分たちの立ち位置を頭の中に入れ、天和を庇えるよう戦闘を組み立てていく。

 自分の命だけを心配すればいいだけではない。背後には大事な友人がいるのだ。

 他人の命を背負う重みに、加豪はいつになく集中する。

「天和、私の傍から離れないでよ?」

 天羽を一体倒し、背中越しに背後の天和へ声をかける。一瞬でも気が抜けない。加豪の声からは焦りがありありと感じ取れた。

 そんな中、天和は加豪の背中から目的地へと視線を移した。木々の向こうに教会の頭がうっすらと見える。

 情報によればそこにいるのは四大天羽ラファエル。ヤコブすら破った強敵だ。

「…………」

 天和はその教会をじっと見つめていた。

 それを知らぬ加豪は天羽と戦いながら背後の天和に気を配る。

「こんな状況で分断されたらすぐに各個撃破で狙われるわ。だから私の傍から離れないで。いいわね? 絶対よ? 絶対だからね!?」

 前方から来る三体の天羽を放電でまとめて倒し、その後から天羽が突撃してきた。

 勢いのある剣撃をしかし加豪も雷切心典光の一閃で打ち合った。

 普通なら刀身同士で押し合いだが、電力を溜め込んでいた雷切心典光の刀身にはまだ十分な電気が帯びており、天羽は感電し悲鳴を上げた後その場に倒れていった。

 五体目の天羽を倒す。高位者スパーダの力は伊達ではない。信仰者プリ―ストクラスならばどれだけ集まろうと加豪には敵わない。

 そこでさきほどから返事がないことに気が付いた。こっちが守るために戦い心配までしているのに返事もないとは少し腹が立つ。

「ちょっと、天和聞いてるの!?」

 加豪は必死に戦いながら振り向いた。

 そこには、すでに天和はいなかった。

「えええええええ!?」

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