天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

天羽軍審判者、ウリエル

 互いに目指しているものは同じはずだがここで主張がぶつかり合う。サリエルはアザゼルを倒したい。

 ウリエルは堕天羽すべてを消したい。両者退かず、結果は必定。

 戦って決めるしかない。

「なら仕方がねえ。言っても分からねえんだ、力ずくで退場してもらうぜ」

「お前は堕天羽ではない。私に戦う気はない」

「だが逃げた天羽を追いかけて殺すんだろ?」

「それが私の使命、私の正義だ」

「だったら同じだ」

 問答に意味はない。しても仕方ない。理想に対する姿勢は違うものの、己の矜持に実直なのは同じだと既に理解している。

 サリエルに誇りが、ウリエルに正義があるように、それを手放すことだけはしたくない。

「構えな、俺の邪魔しやがって横取りクソ天羽」

 サリエルは大鎌を回した後構える。鋭利な刃が光に反射した。

「天羽軍四大天羽サリエル。来いよ、しつけてやる」

 対してウリエルは大剣を右手で二回振るうとサリエルに剣先を向けた。左手には炎が灯り青い瞳がサリエルを睨みつける。

「天羽軍審判者、ウリエル」

 これがサリエルとウリエルの出会いだった。同じ戦場で同じ天羽として出会った彼らは、しかし対立する。己の胸にある想いを賭けて。天羽として生まれた己の誇りと正義をぶつけ合う。

 この戦いが、宿命の始まりだった。

「そこ退けてめえ!」

 サリエルが斬りかかる。両手で構える大鎌をウリエルに振るった。死の刃が襲う。それをなんなくウリエルは弾き返した。

 羽を広げ宙に飛び、ドレスの裾を翻す。

 時間がない、もたもたしていれば居場所を聞くどころか邪眼の効力が切れる。

 サリエルは包帯を掴み、引き抜いた。

死の視線イービル・アイ

 赤い瞳がウリエルを直視した。急激な体力の減衰、目眩に頭痛、吐き気。それだけに留まらない同時複数発症。彼の邪眼が持つ呪いは見る者を祟る。

「くっ」

 さきほどとは違いはっきりとした直視にウリエルの端整な表情が歪んだ。明らかな体調の異変、それだけでなく見られるほどに激しくなっていく。

 このままではまずい。

 ウリエルが弱まったのを確認しサリエルは再び構えた。最近調子に乗っている天羽をしつけるにはいい機会だ、ここらで長くなった鼻をへし折っておくのもいい。

 サリエルは大鎌で殴りつけんと踏み込む――直前だった。

「はああ!」

 宙に浮かぶウリエルの周囲を炎の柱が覆ったのだ。いくつもの炎上する柱がウリエルを囲む。

 それは炎の防壁ファイア・ウォール。炎熱の猛威と熱量が敵の接近から物理攻撃を封じる。

 だが、ここでこれが齎すのは別の意味だ。天高くまで昇るいくつもの炎柱はぐるりとウリエルの全身を隠している。

 そのため邪眼での直視が不可能となったのだ。

「目隠しのつもりかよ!」

 こうなってはサリエルの邪眼も用をなさない。

 見る者を呪うという強力な能力ではあるが、仕組みが単純なだけに対処も分かり易い。

 物陰に隠れるか彼の背後に回り込む。それこそが死の視線イービル・アイの弱点だ。

 ウリエルがファイア・ウォールを解く。サリエルの邪眼の特性を把握したらしく、すぐさに空間転移で彼の背後に移る。

 見られなければいいと分かれば簡単に導かれる答えだ。

「舐めんなよぉ!」

 ウリエルが姿を消した瞬間サリエルは振り返り様に大鎌を振るいウリエルの大剣を防ぐ。

 自身の弱点は一番サリエルが知っている。相手がこういう手に出るのも百も承知。

 ウリエルはすぐに離れると二人の間に炎の柱を出して視線を遮った。さらにはサリエルの足元からも次々に炎の柱を上げていく。

「ワンパターンかてめえ!」

 サリエルは翼を広げ宙を飛んだ。襲い来るいくつもの炎を掻い潜り、ウリエルと接近していく。

 ウリエルの行うファイアウォールに視界を遮られるものの、それはあくまでなにもしなければの話。

 カーテンが邪魔なら開ければいい。

 サリエルは両手で大鎌を握り背中まで振り被る。それを思いきり振り抜き、三つの火柱を一閃したのだ。

「なに?」

「見つけたぜウリエル!」

 堕天羽たちを一瞬で燃やし尽くした炎が、それも三つ同時に切り裂かれる。これにはウリエルも内心驚いたようで見開いていた。

 サリエルは次の一撃を打ち込むために振り被る。

 しかしその隙にウリエルは姿を消しサリエルの背後に移動していた。さらに剣撃ではなく離れた場所から炎が浮かぶ左手を向け、炎撃してきた。

 極大の火炎放射がサリエルに直進する。

「ちぃ!」

 間一髪で大鎌の柄で受けるも勢いに負け地上に落とされる。サリエルは両足で着地し大鎌を回転させた。

 それにより炎を分散させていく。しかし炎が持つ熱量まではどうしようも出来ず肌が焼けていく。

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