天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

うさぎ界よ

『うさぎ~、うさぎ~う~さぎの、楽~園~、うさぎ~、うさぎ~う~さぎの、楽~園~』

「なんだこれ?」

 俺たちは遊園地の中に立っている。メリーゴーランドにジェットコースター、観覧車などお決まりの遊具たち。

 しかしここが普通の遊園地と違うのはアトラクションの全部がうさぎをモチーフにしていることだ。

 メリーゴーランドもうさぎだし、ジェットコースターの正面にもうさぎの顔がついている。

 そしてなにより、行き交う人々がうさぎたちってことだ。ぴょんぴょん跳ねては乗り物に乗っている。

「ようこそ、うさぎの楽園、うさぎ界へ」

「ネーミングストレート過ぎだろ」

 見た瞬間だいたい分かったわ。

 それにしてもどんどん話がわけ分からんことに進んでいるぞ。どうなるんだこれ?

「そもそもなんだここ?」

「ここはうさぎの楽園、うさぎ界よ」

「聞いたわ」

「ここではうさぎさんたちは人と同じように暮らしているの。ここでの主役は人ではなくうさぎさん。ここは癒しと喜びで溢れるうさぎ界なのよ」

 天和は無表情ながら自信を感じさせる口調で断言してきた。

「ここにいる住民はみんな可愛いうさぎさんたちばかりなのよ」

「可愛いって言ってもお前……」

 こいつの言う通りうさぎ自体は可愛いと思うよ。でもこんなの異様だろ。

「ん?」

 そこで俺はある場所が目に付いた。

「なんだあれ!?」

 そこにはベンチに座る二羽のうさぎがいたのだ。しかしその服装がやばい。

 一人はなぜか茶髪のリーゼントで、もう一匹が黒のパンチパーマだ。こいつらだけ改造した学ランを着ておりベンチを占領している。

「おいおいおい、天和天和。あいつらどう見ても可愛くはないだろ。あれ見ろあれ、あれはありなのか?」

 俺は二羽を指さす。すると向こうもこちらに気付いたようで足元に近づいてきた。

 立ち止まると後ろ足で立ち俺を見上げてくる。

「おお? なに見てんだてめえ、やるウサか? やんのかウサか?」

「喋るんかい!」

 チンピラじゃねえか。これのどこが可愛いのか教えてくれ!

「ていうかウサってなんだよ。ワンとかニャーとかそういう感じかよ」

「仕方がないんだウサ、俺たちだってウサギがどんな鳴き声するか分からないんだウサ。だから個性を付けるために語尾にウサって付けてるウサ」

「ちなみにラビと迷ったウサ」

「どうでもいいんだよそんな事情。それにウサギがどんな鳴き声するかなんて俺がお前の腹一発殴れば分かるだろ」

「こわ」

 おい、素で引いてるんじゃねえよ。

「お前怖すぎだろウサ。それにそれ鳴き声じゃなくてうめき声だろウサ。なんで語尾にいちいちうめき声つけなきゃいけんだ。……ウサ!」

「お前今忘れてたよね?」

 そんなことを考えていると二羽はさらに距離を詰め俺を睨みつけてきた。

「やるウサか? やるウサか?」

「舐めてんじゃねえぞウサ。ジロジロ見やがって。誠意見せろウサ誠意。これはニンジン三本くらい包んでもらわないと話まとまらないウサ」

「安ッ」


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