天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ならばもう一度殺してみるんだな

 エノクの言葉を聞いても反応はない。誰にも彼女の胸の内は分からない。ウリエルは鋭い目つきのまま、重い口を開いた。

「ならばもう一度殺してみるんだな」

 ウリエルの言葉にエノクが動いた。言われるまでもない。敵ならば打ち倒すまで。エノクは駆け構えた剣を振るった。

 それにウリエルも動く。振るわれるエノクの聖剣。それを己の長剣で払い、すぐさに一閃。エノクを切り裂いたのだ。

「ぐ!」

 エノクに胴体を斬られた痛みとそれを上回る驚愕が走る。

(強い……!)

 ウリエルの剣。それは天羽長であるミカエルをすら上回っていた。

「さすがだねえ」

 その力にミカエルも賛辞を贈る。

 力を象徴する剣。その大きさ、速さ、強さ。すべてにおいてミカエル以上だ。エノクは自身の傷をすぐさまなかったことにし傷を治す。

「どうしたエノク、殺すのではなかったのか?」

「……!」

 エノクは気を引き締め直し再び攻める。ウリエルも飛行し両者の剣が激突した。

 剣の間合いは刀身が長いウリエルの方が広い。ウリエルの剣撃をエノクは防ぐ。その一閃一閃どれもが強力だ。

 隙のない軌跡がいくつも宙を描く。背後に空間転移しようにも天羽の羽が死角を殺している。

 接近戦では、ウリエルが強い。

 エノクは一端距離を取ると腕をウリエルに翳した。そしてそれは起こる。

「?」

 ウリエルの周囲を覆うようにして、いくつもの光球が浮いていたのだ。逃げ場はない。その隙間すらない。

 どれだけ剣技に優れていようとも、エノクのように神徒(レジェンド)ではないウリエルでは剣で防ぐことは出来ない。

「ウリエル!?」

 初めて訪れる彼女の境地に弓を構えたままのラファエルが慌てて叫んだ。空間は固定されておりこのままでは当たる。

 エノクは腕を振った。それを合図に光が強まりウリエルに光線となって襲いかかろうとする。
 だが、腕を振ったのはウリエルも同じだった。

「ファイアウォール」

 直後、滝のような炎が下から上に迸った。

 全方位から放たれる光線、それを防いだのは炎の壁だった。筒状に伸びる炎がウリエルを囲いすべての光線を弾いていく。

 その爆発的な熱とエネルギー、すさまじい力だ。彼女一人で街ひとつを燃やすというのも頷ける。

 剣と炎。それがウリエルの武器にしてシンボルだ。

 力と正義。二つを翳しウリエルは宙に立つ。

 ウリエルはエノクの攻撃をすべて防ぎ切り炎の壁を消した。距離が離れているエノクにお返しとばかりに左手を向ける。

 それは必滅の審判。あらゆるものを消滅させる最強の攻撃。

無価値なる炎ファイア・オブ・ノーライフ

 ウリエルが放つ無価値なる炎ファイア・オブ・ノーライフ。それを周囲に展開した。まるで津波のように周りを蹂躙していく。

「おやおや」

「ふん」

「ちょっとー!」

「ふざけんじゃねえぞウリエルてめえ!」

 ウリエルの攻撃に仲間たちからも非難の声が投げられる。これは敵味方関係なく触れたら消滅する攻撃だ。

 周りにいる天羽もお構いなしに破滅の概念は広がっていく。

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