天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

舐めるなよッ

「させん!」

 しかし、それが空間転移によって呼び出されたものならば、空間転移によって消し去るのみ。

 メタトロンに直撃する前、エノクは隕石すべてを宇宙空間へと空間転移させた。姿を一瞬で消し隕石爆撃は不発に終わる。

 エノクの援護を受けるつつメタトロンも攻めた。五指を握り締め、肩まで持ち上げた拳を打ち付ける。

「当たるものか」

 メタトロンの拳は強烈だ、単純だからこそ強い。

 しかし如何に強くても当たらなければ意味はない。ミカエルは即座に空間転移による回避を選ぶ。

「ぬ!?」

 だが念じた瞬間に違和感に気付いた。念じても出来ないのだ、まるで鉄の箱に閉じ込められたような窮屈感は、

(空間の固定化!? エノクかッ)

 上位の天羽には支配耐性が備わっているので全能で消されることはないが、周囲の空間は別だ。エノクはミカエルの周辺の空間を固定化し空間転移を封じる。

 そこへ、メタトロンの巨腕が襲いかかった。

 ミカエルは盾を突き出しガードする。

 メタトロンの拳がミカエルを捉えた。両者の力と力が衝突し、空気は暴力的な勢いで弾ける。

「うおおお!」

 メタトロンの攻撃にミカエルも珍しく本気を出していた。そうでなければ拮抗など出来やしない。羽を全開まで広げメタトロンの力に抗う。

 むしろ耐えているだけでもすごい。この拳に比べれば、さきほどの隕石も小石の投擲にしかならないだろう。

 圧倒的な力を誇るメタトロンの一撃。それにミカエルは辛うじて耐えるが長くは続かない。拮抗はすぐに崩れミカエルは吹き飛ばされた。

 ビルの壁面を突き破りさらにいくつもの壁を貫通していく。

 ようやく勢いが止まった頃には瓦礫の上に倒れており、電気が壊れたか暗い部屋にいた。顔をなんとか上げれば自分が通ってきた穴の開いた壁がいくつも見える。

「ぬぅ」

 全身にしびれが残る。それを無視してミカエルは立ち上がった。

「舐めるなよッ」

 翼を羽ばたかせミカエルは猛スピードでビルの外へと飛び出した。自分が入ってきた道は使わず壁を壊して外へと出る。

 そこを狙ってメタトロンの拳が振り下ろされた。膨大な質量移動が生み出す風圧がミカエルの羽を震わせた。ミカエルの全身よりもなお大きい拳はまさに恐怖だ。

 だがミカエルは臆さずに拳に直進するとぎりぎりのところを躱していった。

 卓越した飛行能力となにより胆力だ、失敗すればただでは済まない曲芸紛いの回避を難なくこなす。

 ミカエルはメタトロンの腕すれすれのところを飛行し接近していく。そこでひび割れた個所を見つけ立ち止まると、そこを目掛け剣を一閃した。

「ハッ!」

 その一刀による余波は腕を貫通し光線となって空間を走っていった。

 メタトロンの片腕が斬り落とされる。二の腕が轟音を立てて落下していった。

「残念だったねえ。やはり万全でない君たちでは私には勝てないようだ」

 メタトロン自慢の耐久性も急造の体では半減している。繋ぎ目を攻撃されればひとたまりもない。

 なにより相手は天羽長ミカエルだ。その強さは天羽の中でもトップクラス。ただでさえ強敵な上に連戦となれば困難どころの話ではない。

「メタトロン!?」

 斬り落とされた腕を庇うように片腕を抱きかかえるメタトロン。神託物の負傷にエノクも駆けつける。

 神託物とは道具ではない、自分の信仰心の具現というのはもちろんだが、そうでなくとも一心同体の相棒なのだ。

「下がっててもらおうか!」

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