天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

無事か?

 ペテロはその場に立ち続け銃弾を一身に受けていた。しかしオラクルの物理耐性によって弾丸の方が弾かれていき無傷だ。

 しかし他の隊長たちはそうもいかず即座にうつ伏せになり攻撃を回避していた。

 機銃の動作音が鼓膜を叩くほど響き渡る。排莢されるいくつもの弾丸が地上に降り注ぎ、窓ガラスの欠片が散っていく。

 会議室の壁には無数の弾痕が刻まれる。発射が行なわれて一瞬でここは破壊が巻き起こる戦場だった。

「させるか!」

 ヤコブは左腕に装備した盾を突き出しながらヘリの前に立った。盾は開かれ、そこから淡い光りがベールのように広がり会議室を守った。ベールが銃弾を弾く。

「ふん!」

 ヤコブの動きと同時、ペテロは剣を抜くとヘリに向け投擲した。剣は見事プロペラの根元を直撃しコントロール不能となったヘリは墜落していった。

 ペテロは片手を伸ばすと空間転移によって投げた剣が現れ手に取った。

「無事か?」


 ペテロはすぐに他の皆に振り向くとどうやら全員無事だった。ここにいる皆も伊達に聖騎士隊の隊長を務めているわけではない。

「おい、今のはなんだ!?」

 ヤコブが盾を閉じながら聞く。いきなりの襲撃に気が動転している。だが動揺しているのにはもう一つ理由があった。

「今のヘリ、ゴルゴダ共和国正規軍のものだぞ? まさか」

 自分で口にしていて気づいたか、ヤコブは驚愕に表情を歪めた。ペテロも苦く表情を歪めている。

 次の瞬間だった。会議室の扉がいきおいよく開けられ人が駆け込んできた。

「大変です! 軍が宮殿を包囲、攻撃しています!」

「なにぃ!? どういうことだ連中!」

「理由は?」

 二人からの質問に息を切らして彼は答えた。

「栗見恵瑠という少女を不法に指名手配したこと、また独断による処刑。これは教皇の越権行為であり、腐敗した教会庁への粛清だそうです」

「そうきたか……」

「ふざけるな! それだけの理由で直接攻撃などそれこそ越権行為ではないのか!」

 ヤコブは苛立ちを露わに悪態を吐き、ペテロも落ち着きながらも悔しそうに言葉を吐いた。

 入室してきた彼の言う通り、確かに教皇派が取った行動は強引なものが多かった。だが、時間がなかったのだ。

 もしヘブンズ・ゲートが開けば。その危機感ゆえの行動であり責められるものではない。もしもたついている間に天羽てんは再臨となればこれ以上の被害になるのだ。

「さらに政府高官たちの目撃証言もあります」

「なに!?」

「ついに直接出て来たか」

 政府高官、天羽てんはたちが攻めてきた。軍の包囲攻撃に続いてこの出来事に隊長たちにも緊張がより一層強まる。

 高官たちの直接攻撃。

 それは教皇派と神官長派による全面対決。

 決戦の時がきたのだ。

「神官長派のやつら、いいように踊らされおって! 少しは不審に思わんのか!?」

「愚痴は後だ、こちらも動くぞ。みなも配置につき防衛線を張れ!」

「はい!」

 ペテロの指示に起き上がっていた隊長たちが返事する。それからの行動は早く一斉に部屋から出て行く。

「俺たちも行くぞ」

「おうよ!」

 ペテロに続きヤコブも頷いて部屋を出ていった。

「ぐああ!」

 部屋から出るなり巨大な揺れが宮殿を襲った。ヤコブが大声を出しながら壁に手を当てる。

「なんだ今のは!?」

「おい」

 ペテロは近くにいる騎士に呼びかける。

「お前たちはフロア三十八に行きそこで収容されているヨハネに通達を。減刑を条件に戦闘に加わるように伝えてくれ」

「いいのかペテロ?」

 ヤコブがペテロを胡乱な目で見る。

「やつは裏切り者だぞ、そのせいで侵入を許したんだろうが。やつのあれさえなければイレギュラーの侵入なぞこの俺が」

 神愛に侵入を許した時を思い出しヤコブの眉間にしわが寄っている。

「なにを言っている、あいつは確かに裏切った。しかしそれはあいつの信念からの行動だ、悪人に落ちたわけではない。お前の弟だろ? 信じてやれ」

「……ふん! 今回だけ目を瞑ってやる」

 ヤコブは不承不承といった具合で顔を背けた。

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