天下界の無信仰者(イレギュラー)
そんなんじゃないわ
天和の言葉に頭を殴られる。
そうか、天和の言う通りだ。
そりゃそうだ。普通、大事な鍵ほど大切にするもんだ。それこそ肌身離さず持ち歩くはず。しかしミカエルたちは恵瑠をそのままにしていた。
天和の指摘にはペテロもハッとしていた。ここにいる全員が天和が言うまでその盲点に気付いていなかった。
「宮司君を護衛として付けていたとはいえ、彼らからしてみれば部外者だし。いつ逃げ出すか分からない。にも関わらず自分たちからは一人も護衛を付けずに泳がせておくなんて、殺してくださいって言っているようなものよ」
襲撃者の仲間というだけだった天和の発言力、存在感が確実に増している。淡々と話す天和の言うことにみなが耳を傾けていた。
「疑問なのは、堕天羽が天羽に復権する方法だけど」
それはラグエルの手紙にも書かれていなかったため分からない。ただ、鍵が失われた今どうでもいい気もするが。
だが、次の言葉はまたしても盲点をつくものだった。
「それって、『死ぬ必要があるんじゃないの?』」
死ぬ必要だって?
予想外の言葉にさっきから驚きっぱなしだ。まさか天和にこんなにも感心する日が来るなんて。驚くことはしょっちゅうだが。
「なにを言っているんだこの小娘は。死んだら元も子もないだろうが」
天和に髭の騎士が反論する。このおっさんが言っていることも正しい。復権するためとはいえ死ぬ必要があるなんて、それこそ本末転倒だ。
「いや」
だが、そこへ口を挟んだのはペテロだった。顎に手を添えなにかを考えている。
「やつらに、蘇生が出来る者がいれば別だ」
蘇生。死んでからまた蘇らせるってことか?
それでも納得できない髭の騎士、ていうか誰なんだこいつ。
「彼はヤコブ。聖騎士の第二位です、主」
俺が変な目で見ていたからからミルフィアが教えてくれた。そのヤコブが話し出す。
「まさか。だとしてもだ、仮に死ぬ必要があるとしてどうしてこんなに回りくどいことをする? 強引だが自分たちでも出来るだろう。かつての仲間かもしれんが、天界紛争では堕天羽相手に殺し合いの戦いをしているんだろう?」
「自分たちで殺しても意味がない、としたら?」
男の疑問に天和が答える。それでヤコブが振り向いた。
「どういうことだ? というか、さっきからお前はなんだ? 名前は?」
「天和。無我無心」
天和が名乗ったことでペテロが納得したような仕草を見せる。
「なるほど、冷静なはずだ。君もスパーダか?」
「そんなんじゃないわ」
あっけらかんに天和は否定した。
「話を戻すけど、堕天羽を天羽として復権させる方法。それに死ぬことが必要だとしたら、それは『人間によって殺される必要がある』ってことじゃない?」
「人間によって……。それなら辻褄は合うが……」
「あくまで推測だろう? あてにならんわ」
天和の案にペテロは考え込みヤコブは頭ごなしに否定している。
「ねえ、栗見さんの遺体だけど、今どこにあるの?」
天和の質問。それにペテロは真剣な顔でヤコブを見た。
「どこだ?」
「おい、冗談よせよ。お前だろう?」
「ッ」
その表情が歪んだ。ヤコブも慌てた様子でペテロを見つめていた。
「回収されたわね」
恵瑠の遺体。それは確かに装置の一番上に置いておいたはずだ。だが、帰ったあとそこにはなかった。俺もこいつらの誰かがどこへ運んだと思っていたが。
運んだのはこいつらじゃない、神官長派のやつらだったか。
「彼女の遺体を回収したということは、利用価値がまだあるということよ」
これで天和の仮説に信憑性が増してきた。もしかしたらかつての仲間からくる思いで持ち帰ったのかもしれないが、恵瑠の遺体を使ってヘブンズ・ゲートを開けるつもりかもしれない。
「不覚……」
ペテロが弱気な声でつぶやく。
「ハッ、お前そればっかりだな」
「口を慎め小僧! 卑劣なイレギュラーが!」
ヤコブに大声で叱られた。
俺は天和に近づいた。どうしても聞きたいことがあったんだ。
「なあ、もしそれが本当だったら、恵瑠は生き返るってことか……?」
恵瑠が生き返る。俺の目の前で亡くなったあいつが。守れなかったあいつを、救えるかもしれない。
それは残された希望だ。期待してしまう。
「そうね」
天和は無表情で頷いた。
「なら――」
「変なことを考えるなよイレギュラー」
そうか、天和の言う通りだ。
そりゃそうだ。普通、大事な鍵ほど大切にするもんだ。それこそ肌身離さず持ち歩くはず。しかしミカエルたちは恵瑠をそのままにしていた。
天和の指摘にはペテロもハッとしていた。ここにいる全員が天和が言うまでその盲点に気付いていなかった。
「宮司君を護衛として付けていたとはいえ、彼らからしてみれば部外者だし。いつ逃げ出すか分からない。にも関わらず自分たちからは一人も護衛を付けずに泳がせておくなんて、殺してくださいって言っているようなものよ」
襲撃者の仲間というだけだった天和の発言力、存在感が確実に増している。淡々と話す天和の言うことにみなが耳を傾けていた。
「疑問なのは、堕天羽が天羽に復権する方法だけど」
それはラグエルの手紙にも書かれていなかったため分からない。ただ、鍵が失われた今どうでもいい気もするが。
だが、次の言葉はまたしても盲点をつくものだった。
「それって、『死ぬ必要があるんじゃないの?』」
死ぬ必要だって?
予想外の言葉にさっきから驚きっぱなしだ。まさか天和にこんなにも感心する日が来るなんて。驚くことはしょっちゅうだが。
「なにを言っているんだこの小娘は。死んだら元も子もないだろうが」
天和に髭の騎士が反論する。このおっさんが言っていることも正しい。復権するためとはいえ死ぬ必要があるなんて、それこそ本末転倒だ。
「いや」
だが、そこへ口を挟んだのはペテロだった。顎に手を添えなにかを考えている。
「やつらに、蘇生が出来る者がいれば別だ」
蘇生。死んでからまた蘇らせるってことか?
それでも納得できない髭の騎士、ていうか誰なんだこいつ。
「彼はヤコブ。聖騎士の第二位です、主」
俺が変な目で見ていたからからミルフィアが教えてくれた。そのヤコブが話し出す。
「まさか。だとしてもだ、仮に死ぬ必要があるとしてどうしてこんなに回りくどいことをする? 強引だが自分たちでも出来るだろう。かつての仲間かもしれんが、天界紛争では堕天羽相手に殺し合いの戦いをしているんだろう?」
「自分たちで殺しても意味がない、としたら?」
男の疑問に天和が答える。それでヤコブが振り向いた。
「どういうことだ? というか、さっきからお前はなんだ? 名前は?」
「天和。無我無心」
天和が名乗ったことでペテロが納得したような仕草を見せる。
「なるほど、冷静なはずだ。君もスパーダか?」
「そんなんじゃないわ」
あっけらかんに天和は否定した。
「話を戻すけど、堕天羽を天羽として復権させる方法。それに死ぬことが必要だとしたら、それは『人間によって殺される必要がある』ってことじゃない?」
「人間によって……。それなら辻褄は合うが……」
「あくまで推測だろう? あてにならんわ」
天和の案にペテロは考え込みヤコブは頭ごなしに否定している。
「ねえ、栗見さんの遺体だけど、今どこにあるの?」
天和の質問。それにペテロは真剣な顔でヤコブを見た。
「どこだ?」
「おい、冗談よせよ。お前だろう?」
「ッ」
その表情が歪んだ。ヤコブも慌てた様子でペテロを見つめていた。
「回収されたわね」
恵瑠の遺体。それは確かに装置の一番上に置いておいたはずだ。だが、帰ったあとそこにはなかった。俺もこいつらの誰かがどこへ運んだと思っていたが。
運んだのはこいつらじゃない、神官長派のやつらだったか。
「彼女の遺体を回収したということは、利用価値がまだあるということよ」
これで天和の仮説に信憑性が増してきた。もしかしたらかつての仲間からくる思いで持ち帰ったのかもしれないが、恵瑠の遺体を使ってヘブンズ・ゲートを開けるつもりかもしれない。
「不覚……」
ペテロが弱気な声でつぶやく。
「ハッ、お前そればっかりだな」
「口を慎め小僧! 卑劣なイレギュラーが!」
ヤコブに大声で叱られた。
俺は天和に近づいた。どうしても聞きたいことがあったんだ。
「なあ、もしそれが本当だったら、恵瑠は生き返るってことか……?」
恵瑠が生き返る。俺の目の前で亡くなったあいつが。守れなかったあいつを、救えるかもしれない。
それは残された希望だ。期待してしまう。
「そうね」
天和は無表情で頷いた。
「なら――」
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