天下界の無信仰者(イレギュラー)
お前はすでに、諦めたのだ! 十五年前にな!
「必ずや成し遂げるのです。自分で、自分が誇れる戦いを!」
ヨハネは銃をガンホルダーにしまった。
「うをおおお!」
ヤコブに向かい突撃する。カマエルも盾を捨て大剣を両手で持ち突進した。
迎え撃つヤコブは盾を構える。
そして二人の戦いは再開した。
ヨハネの拳がヤコブを叩く。その拳はうねりを上げ地面の瓦礫を舞い上げるほどだ。それを連続で叩き込む。
ヤコブは全ての拳を盾で防ぐも顔色は悪い。盾の効力はヨハネの拳を無力化しているが風圧までは無効に出来ない。ヨハネが放つ拳の余波がヤコブを追い込む。
ヤコブの足が止まったところへヨハネは盾を掴んだ。強引に引き剥がし投げ捨てる。
「はああ!」
無防備になったヤコブへ必殺の一撃を叩き込んだ。
だがヤコブは転移してしまい盾を拾い上げる。さらに転移は止まらない。オラクルの恩恵を惜しみなく使いヨハネをかく乱する。如何に力が向上したといっても次元の優位性には逆らえない。
ヤコブの連続して発動する空間転移にヨハネは標的を見失ってしまう。
「無駄だヨハネ、お前がどれだけ望もうともう遅い!」
声が聞こえる。だが振り返っても姿は見えない。周囲を転移し続けるため四方から声がかけられる。
攻撃しようにも的が定まらないヨハネはその場に立ち顔を動かすだけだ。反対にヤコブの動きは止まらない。捕らえることの出来ない三次元操作が圧倒的な有利を作り出す。
「成し遂げる? 諦めない? 笑わせるな」
転移する中、ヤコブは中心にいるヨハネに辛辣に言い放つ。
生徒を守るために戦う教師であろうとも、この男は過去に背を向け逃げているだけだ。自分の功績を罪だと感じ、その罪から目を背けているだけ。そんな男がどれだけ頑張ろうとも無駄なこと。
「お前はすでに、諦めたのだ! 十五年前にな!」
その台詞を皮切りにヤコブの猛攻が始まった。縦横無尽、相手の死角と隙を突く攻撃にヨハネは成す術がない。まるで集団に袋叩きされているかのように全身をヤコブに打ちのめされる。
「があ!」
腹が、顔が、背中が足が。全身を隅々まで殴打され、身体がふらつくもさらに叩かれる。
「諦めたのならば、再び諦めろヨハネ!」
体勢が崩れたところへ正面からヤコブの回し蹴りを受けてしまう。ヨハネは吹き飛び地面に倒れた。ただでさえ峻厳の代償により激痛が走る体にヤコブの連打を受け体が動かない。
「終わりだ、ヨハネ」
仰向けに倒れるヨハネにヤコブが立つ。盾を装備した腕で胸倉を掴み、もう片方を振り被る。
「お前の戦いわな、すでに終わっているんだ。お前の言う信仰などただの夢に過ぎん」
振り被った拳に力が入る。ヨハネは額から流れる血に片目を濡らし、ぼうとした表情でヤコブを見上げる。
「お前を誘った俺が間違っていた。お前はもう、戦うべきではなかった」
それは厳罰か、それとも慈悲だったのか。激情家のヤコブが声を抑えてささやく様は厳しくも穏やかですらあった。
「終わりだ」
二人の激闘に幕が下りる。
ヤコブが拳を下ろした。緑色のオーラを纏った拳は偶然を許さない。ここで運よく回避など出来るはずもなく、運よく別の力が目覚めることもない。
よって結果は必然。ヤコブ渾身の一撃はヨハネの鳩尾へと叩き込まれた。ヨハネの体がくの字に折り曲がり地面にはヒビが入った。
「がは!」
宣言通り、終わりだ。ヨハネは激痛の中、敗北へと落ちていく。
「ん!?」
の、はずだった。
「ようやく」
ヨハネが声を出す。掠れた声は弱々しくも、その表情は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
「捕まえ、た」
ヤコブは打ち付けた拳を見れば、ヨハネの片手ががっしりと握られていた。
しまったと思ってももう遅い。掴まえられてしまえば空間転移といえど逃げられない。
ヨハネは残りの手で銃を抜く。かかげる銃口をヤコブの胸に当てた。
「勝利を引き付ける力でも、この距離からなら避けられないでしょう?」
「ヨハネぇえ!」
「私の、勝ちだ」
激痛に耐え凌ぎ、その先で得た絶好の機会。どんなに辛くても諦めないという己を律する厳しさがあったからこそ状況は生まれた。
辛く困難な先にある答え、それを得るのは諦めなかったからだ。
ヨハネは勝利となる引き金を引き絞る。
「があああ!」
赤いオーラを纏い強化された光弾がヤコブに直撃する。ヨハネは手を放し衝撃にヤコブは吹き飛んでいく。建物に衝突し壁を壊して中へと入っていった。意識を失ったのだろう、神託物であるハニエルが消えていった。
「……ああ、終わったか」
ヨハネは持ち上げていた銃を持つ手をバタンと地面に落とした。神託物も『苦境を律する第五の力』も消してある。
 しかし戦いの痛みは残ったままだ。勝利したものの負った傷はヤコブよりも大きいだろう。全身から警告を発する痛みが頭に届くが動くことも出来ない。
ヨハネはそのまま顔を上に向け空を見つめていた。
今もなお、友人を助けるために教皇宮殿を駆け上がっている神愛を思う。残念だが自分はここまでだ、自分の生徒にしてあげられることはした。あとは彼に任せるしかない。
「あとは、あなた次第です。宮司さん……」
そう呟くと、青い空を見上げヨハネは静かに意識を失っていった。
ヨハネは銃をガンホルダーにしまった。
「うをおおお!」
ヤコブに向かい突撃する。カマエルも盾を捨て大剣を両手で持ち突進した。
迎え撃つヤコブは盾を構える。
そして二人の戦いは再開した。
ヨハネの拳がヤコブを叩く。その拳はうねりを上げ地面の瓦礫を舞い上げるほどだ。それを連続で叩き込む。
ヤコブは全ての拳を盾で防ぐも顔色は悪い。盾の効力はヨハネの拳を無力化しているが風圧までは無効に出来ない。ヨハネが放つ拳の余波がヤコブを追い込む。
ヤコブの足が止まったところへヨハネは盾を掴んだ。強引に引き剥がし投げ捨てる。
「はああ!」
無防備になったヤコブへ必殺の一撃を叩き込んだ。
だがヤコブは転移してしまい盾を拾い上げる。さらに転移は止まらない。オラクルの恩恵を惜しみなく使いヨハネをかく乱する。如何に力が向上したといっても次元の優位性には逆らえない。
ヤコブの連続して発動する空間転移にヨハネは標的を見失ってしまう。
「無駄だヨハネ、お前がどれだけ望もうともう遅い!」
声が聞こえる。だが振り返っても姿は見えない。周囲を転移し続けるため四方から声がかけられる。
攻撃しようにも的が定まらないヨハネはその場に立ち顔を動かすだけだ。反対にヤコブの動きは止まらない。捕らえることの出来ない三次元操作が圧倒的な有利を作り出す。
「成し遂げる? 諦めない? 笑わせるな」
転移する中、ヤコブは中心にいるヨハネに辛辣に言い放つ。
生徒を守るために戦う教師であろうとも、この男は過去に背を向け逃げているだけだ。自分の功績を罪だと感じ、その罪から目を背けているだけ。そんな男がどれだけ頑張ろうとも無駄なこと。
「お前はすでに、諦めたのだ! 十五年前にな!」
その台詞を皮切りにヤコブの猛攻が始まった。縦横無尽、相手の死角と隙を突く攻撃にヨハネは成す術がない。まるで集団に袋叩きされているかのように全身をヤコブに打ちのめされる。
「があ!」
腹が、顔が、背中が足が。全身を隅々まで殴打され、身体がふらつくもさらに叩かれる。
「諦めたのならば、再び諦めろヨハネ!」
体勢が崩れたところへ正面からヤコブの回し蹴りを受けてしまう。ヨハネは吹き飛び地面に倒れた。ただでさえ峻厳の代償により激痛が走る体にヤコブの連打を受け体が動かない。
「終わりだ、ヨハネ」
仰向けに倒れるヨハネにヤコブが立つ。盾を装備した腕で胸倉を掴み、もう片方を振り被る。
「お前の戦いわな、すでに終わっているんだ。お前の言う信仰などただの夢に過ぎん」
振り被った拳に力が入る。ヨハネは額から流れる血に片目を濡らし、ぼうとした表情でヤコブを見上げる。
「お前を誘った俺が間違っていた。お前はもう、戦うべきではなかった」
それは厳罰か、それとも慈悲だったのか。激情家のヤコブが声を抑えてささやく様は厳しくも穏やかですらあった。
「終わりだ」
二人の激闘に幕が下りる。
ヤコブが拳を下ろした。緑色のオーラを纏った拳は偶然を許さない。ここで運よく回避など出来るはずもなく、運よく別の力が目覚めることもない。
よって結果は必然。ヤコブ渾身の一撃はヨハネの鳩尾へと叩き込まれた。ヨハネの体がくの字に折り曲がり地面にはヒビが入った。
「がは!」
宣言通り、終わりだ。ヨハネは激痛の中、敗北へと落ちていく。
「ん!?」
の、はずだった。
「ようやく」
ヨハネが声を出す。掠れた声は弱々しくも、その表情は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
「捕まえ、た」
ヤコブは打ち付けた拳を見れば、ヨハネの片手ががっしりと握られていた。
しまったと思ってももう遅い。掴まえられてしまえば空間転移といえど逃げられない。
ヨハネは残りの手で銃を抜く。かかげる銃口をヤコブの胸に当てた。
「勝利を引き付ける力でも、この距離からなら避けられないでしょう?」
「ヨハネぇえ!」
「私の、勝ちだ」
激痛に耐え凌ぎ、その先で得た絶好の機会。どんなに辛くても諦めないという己を律する厳しさがあったからこそ状況は生まれた。
辛く困難な先にある答え、それを得るのは諦めなかったからだ。
ヨハネは勝利となる引き金を引き絞る。
「があああ!」
赤いオーラを纏い強化された光弾がヤコブに直撃する。ヨハネは手を放し衝撃にヤコブは吹き飛んでいく。建物に衝突し壁を壊して中へと入っていった。意識を失ったのだろう、神託物であるハニエルが消えていった。
「……ああ、終わったか」
ヨハネは持ち上げていた銃を持つ手をバタンと地面に落とした。神託物も『苦境を律する第五の力』も消してある。
 しかし戦いの痛みは残ったままだ。勝利したものの負った傷はヤコブよりも大きいだろう。全身から警告を発する痛みが頭に届くが動くことも出来ない。
ヨハネはそのまま顔を上に向け空を見つめていた。
今もなお、友人を助けるために教皇宮殿を駆け上がっている神愛を思う。残念だが自分はここまでだ、自分の生徒にしてあげられることはした。あとは彼に任せるしかない。
「あとは、あなた次第です。宮司さん……」
そう呟くと、青い空を見上げヨハネは静かに意識を失っていった。
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