天下界の無信仰者(イレギュラー)
これが私の信仰、私の慈愛連立だ!
「ヨハネ――」
茶色い髪の騎士が先生を睨むなりヨハネ先生は拳を打ち込んだ。騎士は盾で防ぐも押し合いになる。
「貴様!?」
「早く!」
先生が俺たちを急かす。ここを通るなら今しかない!
「主?」
ミルフィアの確認に、俺は全力で走った。
「いくぞぉおお!」
ヨハネ先生が開いてくれた活路を俺たちは上っていった。俺たちが動き出したことに階段の端に並んでいた騎士たちが止めに来る。俺たちは正面に群がる騎士を薙ぎ倒し、正面入り口へと駆け上がる。
「私に出来ないことを……。必ず救ってください、宮司さん」
「分かってる!」
倒し、吹き飛ばし、進んでいく。
背後から掛けられたヨハネ先生の声に、気持ちで答えた。
「恵瑠は俺が救う!」
ヨハネ先生に助けられ、俺たちは教皇宮殿の正面入り口を突破した。
*
神愛たちが教皇宮殿に侵入した。この事態に正面入り口は騒然となるが、立ち塞がるたった一人の男に足止めされていた。
ヨハネ・ブルストは正面入り口に立つ。眼下の騎士たと対峙し、背後の入口を死守せんと立ち続ける。その姿勢に後悔はない。
 さきほどまでは後悔しか感じなかったというのに、裏切った今の方が清々しいほどだ。
それほどまでに、ヨハネはまっすぐとした眼差しをしていた。
「ヨハネ、なにをしている?」
穏やかではないのはむしろ階段途中に立つヤコブの方である。ゴルゴダ共和国を守るために召集した元聖騎士、さらに身内の人間が、裏切ったのだ。
「血迷ったか、ヨハネ!?」
入口前に立つ実弟を睨み上げ、ヤコブは怒りのすべてをぶつける。
「いいえ、私は初めからこうするつもりでしたよ」
対して、返ってきた声は穏やかな回答だった。
怒りの形相を浮かべるヤコブを前にしてヨハネの顔は穏やかだ。それは裏切り者の顔ではない。むしろ逆。ようやくあるべき信仰へと戻れたような、明るい笑みだった。
「兄さん。あなたの言っていることは分かります。守るために倒すこと。それは必要なことかもしれない。ですが、そのどちらも守らなければならない存在だとしたら? 私はね」
ヨハネの姿勢はぴんとしている。背筋を伸ばし、両手を前で合わせる。それは黒板の前に立つ時と同じだ。多くの生徒の前に立ち、教える彼の姿。
「教師なんですよ。生徒を見つめ、教え、導くのが私の務めです」
そう、彼は教師だ。誰しもが認める神律学園の教師。その人望はイレギュラー宮司神愛ですら惚れ込むほどだ。彼が立派な教職員であることは言うまでもない。
それが、いや、だからこそなのか。ヨハネは大声で叫んだ。
「それが、生徒を倒すなんて何事ですか!」
目が見開かれる。気迫が突如として押し出され、溜めていた思いを全開にする。
「過ちを犯したからこそ今の私がいる。ならばこそ、私は二度と過ちを犯さないと決めたのだ」
過去の過ち。かつて大戦で味わった後悔を清算するために教師となった。その押し潰されんほどの罪悪感を一身に背負い、彼は退いたのだ。
守るために倒す。守るために殺す。目の前にある矛盾に気付いた時からヨハネはもう戦えない。
だが、
しかし、
だとしても。
自分が目指した慈愛連立の意思、人を助けようとする素晴らしさ。目の前にある守りたい存在に気付いた今は違う。
己はまだ無力ではない。ここで諦観するなどそんなものは無我無心の信仰者にでもやらせておけばいい。
彼は戦う。
「私は、もう、二度と! 生徒を手にかけるような真似はしない!」
ヨハネは、慈愛連立の信仰者なのだから。
「これが私の信仰。私の慈愛連立だ!」
大勢の仲間、騎士を前にしてヨハネは叫ぶ。それは反逆の宣言だ。
同時に、慈愛連立としての表明でもあった。
人を守ろうとする意思、憧れた最初の輝きをヨハネは間違いなく纏っていた。
「そうか」
ヨハネの敵対にヤコブは一度俯く。理解はしているのだろう、ヨハネの思いを。兄として。彼の経歴を知る者として。ヨハネはもう十分苦しんだ。報われてもいいはずだ。
ヤコブは顔を上げる。弟でありかつての仲間を見つめた。
その視線はしかし、決別の目だった。
「ならば仕方があるまい、お前はここで倒れろ」
彼にも守るものがある。ゴルゴダ共和国という数多くの人が住まうこの場所、いや、世界を守るために。退けない理由があるのだ。それが、たとえ家族でも。
慈愛連立の信仰者だからこそ、守るために、倒すのだ。
慈愛連立が誇る信仰者、その両者が対峙した。その瞳はどちらも信仰に燃えている。守るという尊大な意思に輝いている。
小さなものを守るため。
片や大きなものを守るため。
同じ信仰を持つ者は、同じだからこそ対立した。
茶色い髪の騎士が先生を睨むなりヨハネ先生は拳を打ち込んだ。騎士は盾で防ぐも押し合いになる。
「貴様!?」
「早く!」
先生が俺たちを急かす。ここを通るなら今しかない!
「主?」
ミルフィアの確認に、俺は全力で走った。
「いくぞぉおお!」
ヨハネ先生が開いてくれた活路を俺たちは上っていった。俺たちが動き出したことに階段の端に並んでいた騎士たちが止めに来る。俺たちは正面に群がる騎士を薙ぎ倒し、正面入り口へと駆け上がる。
「私に出来ないことを……。必ず救ってください、宮司さん」
「分かってる!」
倒し、吹き飛ばし、進んでいく。
背後から掛けられたヨハネ先生の声に、気持ちで答えた。
「恵瑠は俺が救う!」
ヨハネ先生に助けられ、俺たちは教皇宮殿の正面入り口を突破した。
*
神愛たちが教皇宮殿に侵入した。この事態に正面入り口は騒然となるが、立ち塞がるたった一人の男に足止めされていた。
ヨハネ・ブルストは正面入り口に立つ。眼下の騎士たと対峙し、背後の入口を死守せんと立ち続ける。その姿勢に後悔はない。
 さきほどまでは後悔しか感じなかったというのに、裏切った今の方が清々しいほどだ。
それほどまでに、ヨハネはまっすぐとした眼差しをしていた。
「ヨハネ、なにをしている?」
穏やかではないのはむしろ階段途中に立つヤコブの方である。ゴルゴダ共和国を守るために召集した元聖騎士、さらに身内の人間が、裏切ったのだ。
「血迷ったか、ヨハネ!?」
入口前に立つ実弟を睨み上げ、ヤコブは怒りのすべてをぶつける。
「いいえ、私は初めからこうするつもりでしたよ」
対して、返ってきた声は穏やかな回答だった。
怒りの形相を浮かべるヤコブを前にしてヨハネの顔は穏やかだ。それは裏切り者の顔ではない。むしろ逆。ようやくあるべき信仰へと戻れたような、明るい笑みだった。
「兄さん。あなたの言っていることは分かります。守るために倒すこと。それは必要なことかもしれない。ですが、そのどちらも守らなければならない存在だとしたら? 私はね」
ヨハネの姿勢はぴんとしている。背筋を伸ばし、両手を前で合わせる。それは黒板の前に立つ時と同じだ。多くの生徒の前に立ち、教える彼の姿。
「教師なんですよ。生徒を見つめ、教え、導くのが私の務めです」
そう、彼は教師だ。誰しもが認める神律学園の教師。その人望はイレギュラー宮司神愛ですら惚れ込むほどだ。彼が立派な教職員であることは言うまでもない。
それが、いや、だからこそなのか。ヨハネは大声で叫んだ。
「それが、生徒を倒すなんて何事ですか!」
目が見開かれる。気迫が突如として押し出され、溜めていた思いを全開にする。
「過ちを犯したからこそ今の私がいる。ならばこそ、私は二度と過ちを犯さないと決めたのだ」
過去の過ち。かつて大戦で味わった後悔を清算するために教師となった。その押し潰されんほどの罪悪感を一身に背負い、彼は退いたのだ。
守るために倒す。守るために殺す。目の前にある矛盾に気付いた時からヨハネはもう戦えない。
だが、
しかし、
だとしても。
自分が目指した慈愛連立の意思、人を助けようとする素晴らしさ。目の前にある守りたい存在に気付いた今は違う。
己はまだ無力ではない。ここで諦観するなどそんなものは無我無心の信仰者にでもやらせておけばいい。
彼は戦う。
「私は、もう、二度と! 生徒を手にかけるような真似はしない!」
ヨハネは、慈愛連立の信仰者なのだから。
「これが私の信仰。私の慈愛連立だ!」
大勢の仲間、騎士を前にしてヨハネは叫ぶ。それは反逆の宣言だ。
同時に、慈愛連立としての表明でもあった。
人を守ろうとする意思、憧れた最初の輝きをヨハネは間違いなく纏っていた。
「そうか」
ヨハネの敵対にヤコブは一度俯く。理解はしているのだろう、ヨハネの思いを。兄として。彼の経歴を知る者として。ヨハネはもう十分苦しんだ。報われてもいいはずだ。
ヤコブは顔を上げる。弟でありかつての仲間を見つめた。
その視線はしかし、決別の目だった。
「ならば仕方があるまい、お前はここで倒れろ」
彼にも守るものがある。ゴルゴダ共和国という数多くの人が住まうこの場所、いや、世界を守るために。退けない理由があるのだ。それが、たとえ家族でも。
慈愛連立の信仰者だからこそ、守るために、倒すのだ。
慈愛連立が誇る信仰者、その両者が対峙した。その瞳はどちらも信仰に燃えている。守るという尊大な意思に輝いている。
小さなものを守るため。
片や大きなものを守るため。
同じ信仰を持つ者は、同じだからこそ対立した。
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