天下界の無信仰者(イレギュラー)
最強の存在
その男が、己の信仰の具現、奇跡を口にした。
「出でよ、神託物」
それは、生涯を信仰に捧げ貫いた男の神託物。
最大の祈りは最強の力に変わる。
「人が祈りと希望を合わせ救済を望む時、人類の守護者は現れん。人の願いを守るため、天上の知と力もて敵を打ち払え」
エノクが喋る最中、はるか上空に円形の陣が浮かび上がっていた。
「あれは!?」
まるでこの場一帯を覆うほどの白い魔法陣が空に描かれ、輝きが増していく。
そして、それは現れた。
「来い――メタトロン」
エノクが片手を横に切る。
直後、魔法陣から一体の神託物が降りてきた。
瞬間この場を地震が襲う。そう思うほどの揺れだった。着地の振動は大地を揺らし世界に君臨する。
「うそだろ……!」
それに、驚愕した。
そこにいたのは白い巨人だった。
全長百メートルはあるだろうか。建物なんか比較にならない。周辺の一番高い建物でも大人と子供くらい違う。
全員が白の神託物だった。服は着ておらず肌は人間の質感ではなく石の彫刻のようだ。盛り上がった筋肉は芸術的なまでに均等が取れており、背中には巨大な光輪が浮かんでいる。
これがゴルゴダ共和国最大にして最強の神託物。
メタトロン。
「まじかよ」
神託物の強さや形はその信仰者の信仰心に比例して大きくなるというが、でもこんなのはめちゃくちゃだ。町全域を見渡すほどの巨体。その迫力と圧迫感は山に等しい。
まさかこんなにデカいなんて。
「受け切れるか?」
「まずい!」
エノクの言葉に合わせてメタトロンが片手を持ち上げた。それだけでなんて迫力だ。しかもあれだけでかい体だからか動くだけですさまじい風が巻き起こっている。
メタトロンにとって、ただ歩くという行為が地震と竜巻みたいなものだ。
メタタトロンの動きはゆっくりに見える。
「な!?」
だがそれは目の錯覚で、打ち出された拳は猛スピードで向かってきた!
「主!」
メタトロンの一撃が俺に当たる直前、ミルフィアが前に現れた。
「ミルフィア!」
迫る拳をミルフィアが両手で受け止める。その衝撃で地面が大きく陥没(かんぼつ)し、衝撃による爆音が響き渡る!
「ぐっ! ぬ、うう!」
ミルフィアの足場であるアスファルトにみるみると地割れが走る。
「はあああ!」
ミルフィアは叫ぶとメタトロンの拳を押し返した。メタトロンの体も引いていく。拳が離れると素直に拳を引っ込め直立の姿勢に戻った。
「大丈夫かミルフィア!?」
メタトロンの一撃を伏せいだものの直撃を受け止めたミルフィアはその場に片膝をついてしまった。
「はあ! はあ!」
俺は駆け寄り心配するがなんとかミルフィアは立ち上がってくれた。
「すみません主、大丈夫です」
ミルフィアが俺を見つめる。その顔にはまだ疲れの色が残っていたが、それでもミルフィアは笑ってくれた。
「無理すんな」
「ですが、これが私の望みです」
ミルフィアは笑みを浮かべてそう言った後、表情を険しくさせ正面を見る。
「教皇エノク。歴代の教皇の中でも最も優れた信仰者と言われている彼は間違いなく慈愛連立で最強の存在です。私でも勝てる見込みはありません」
俺は再びメタトロンを見上げた。神託物を出せるだけでもすごいことなのに、それをここまで巨大化させている。最強に相応しい力と大きさだ。
だが、ミルフィアは歩いて俺の前に立つと、エノクに話しかけた。
「ですがエノク。私は退く気はありません。あなたの信仰が崇高なるものであろうとも、私は主のために使命を果たします」
「ミルフィア?」
俺の前にはミルフィアの後ろ姿がある。漲る戦意を感じさせる小さな背中。だが、その張り詰めた戦意に違和感を覚えた。
ミルフィアは、背中越しに言ってきた。
「主。メタトロンは私が引き付けます。その隙に主はエノクを」
「ちょっと待て! お前、まさかあいつと一人で戦うつもりか?」
俺は聞くがミルフィアは振り返らなかった。
「ですが、これが最も合理的です」
ミルフィアは一人で戦う気だ。
ミルフィアの言う通り、メタトロンを二人がかりで倒すよりも本体であるエノクを倒した方が勝率は高いかもしれない。
でも、だからといってあんな神託物とミルフィアを一対一で戦わせるなんて!
俺は心配から反論しようとしたが、その前にミルフィアが言ってきた。
「大丈夫です、主」
今からあれと戦うというのに、その声は優しかった。
ミルフィアが振り向く。
彼女の顔は、明るかった。
「私、けっこう強いですから」
ニコっと笑い、ミルフィアは正面に向き直る。その後気を引き締めた声が聞こえた。
「メタトロン。教皇エノクの神託物」
目の前には最大の敵。ミルフィアとメタトロンの大きさは人と蟻ほどだ。
「その巨体と力は強大な信仰心の表れ。そこまでに至ったことには敬服します。ですが」
しかし、ミルフィアは諦めていない。負ける気などない。
信じているんだ。
自分ならやれると。
その彼女が、威厳と覚悟を込めて告げる。
「我が主を害するというのなら、あなたを『弾圧』します」
瞬間だった。
ミルフィアを中心にして大気が震え出した。
そして。
ミルフィアは、詠唱を口にした。
「おお、古き王よ。我らが主は舞い降りた。古の約束を果たすため」
直後、大気のうねりが一層激しさを増していく。
「我らは仰ぎ天を指す。己が全て、委ね救済をここに願おう」
それは約束の歌。 彼女だけが知っている、原初の神を称える祈祷だった。
「天が輝き地が歌う。黄金の時は来たれり」
ここに彼女の信仰が現れる。世界の始まりから続く彼女の祈り。
「おお、我が主。あなたがそれを望むなら!」
ここに、ミルフィアは己の信仰を示す!
「真理――思想統一!」
全身全霊の祈りがこの場に現れた。
ミルフィアは右手をメタトロンに向ける。
次の瞬間、手の平から黄色の光線が放たれた!
「出でよ、神託物」
それは、生涯を信仰に捧げ貫いた男の神託物。
最大の祈りは最強の力に変わる。
「人が祈りと希望を合わせ救済を望む時、人類の守護者は現れん。人の願いを守るため、天上の知と力もて敵を打ち払え」
エノクが喋る最中、はるか上空に円形の陣が浮かび上がっていた。
「あれは!?」
まるでこの場一帯を覆うほどの白い魔法陣が空に描かれ、輝きが増していく。
そして、それは現れた。
「来い――メタトロン」
エノクが片手を横に切る。
直後、魔法陣から一体の神託物が降りてきた。
瞬間この場を地震が襲う。そう思うほどの揺れだった。着地の振動は大地を揺らし世界に君臨する。
「うそだろ……!」
それに、驚愕した。
そこにいたのは白い巨人だった。
全長百メートルはあるだろうか。建物なんか比較にならない。周辺の一番高い建物でも大人と子供くらい違う。
全員が白の神託物だった。服は着ておらず肌は人間の質感ではなく石の彫刻のようだ。盛り上がった筋肉は芸術的なまでに均等が取れており、背中には巨大な光輪が浮かんでいる。
これがゴルゴダ共和国最大にして最強の神託物。
メタトロン。
「まじかよ」
神託物の強さや形はその信仰者の信仰心に比例して大きくなるというが、でもこんなのはめちゃくちゃだ。町全域を見渡すほどの巨体。その迫力と圧迫感は山に等しい。
まさかこんなにデカいなんて。
「受け切れるか?」
「まずい!」
エノクの言葉に合わせてメタトロンが片手を持ち上げた。それだけでなんて迫力だ。しかもあれだけでかい体だからか動くだけですさまじい風が巻き起こっている。
メタトロンにとって、ただ歩くという行為が地震と竜巻みたいなものだ。
メタタトロンの動きはゆっくりに見える。
「な!?」
だがそれは目の錯覚で、打ち出された拳は猛スピードで向かってきた!
「主!」
メタトロンの一撃が俺に当たる直前、ミルフィアが前に現れた。
「ミルフィア!」
迫る拳をミルフィアが両手で受け止める。その衝撃で地面が大きく陥没(かんぼつ)し、衝撃による爆音が響き渡る!
「ぐっ! ぬ、うう!」
ミルフィアの足場であるアスファルトにみるみると地割れが走る。
「はあああ!」
ミルフィアは叫ぶとメタトロンの拳を押し返した。メタトロンの体も引いていく。拳が離れると素直に拳を引っ込め直立の姿勢に戻った。
「大丈夫かミルフィア!?」
メタトロンの一撃を伏せいだものの直撃を受け止めたミルフィアはその場に片膝をついてしまった。
「はあ! はあ!」
俺は駆け寄り心配するがなんとかミルフィアは立ち上がってくれた。
「すみません主、大丈夫です」
ミルフィアが俺を見つめる。その顔にはまだ疲れの色が残っていたが、それでもミルフィアは笑ってくれた。
「無理すんな」
「ですが、これが私の望みです」
ミルフィアは笑みを浮かべてそう言った後、表情を険しくさせ正面を見る。
「教皇エノク。歴代の教皇の中でも最も優れた信仰者と言われている彼は間違いなく慈愛連立で最強の存在です。私でも勝てる見込みはありません」
俺は再びメタトロンを見上げた。神託物を出せるだけでもすごいことなのに、それをここまで巨大化させている。最強に相応しい力と大きさだ。
だが、ミルフィアは歩いて俺の前に立つと、エノクに話しかけた。
「ですがエノク。私は退く気はありません。あなたの信仰が崇高なるものであろうとも、私は主のために使命を果たします」
「ミルフィア?」
俺の前にはミルフィアの後ろ姿がある。漲る戦意を感じさせる小さな背中。だが、その張り詰めた戦意に違和感を覚えた。
ミルフィアは、背中越しに言ってきた。
「主。メタトロンは私が引き付けます。その隙に主はエノクを」
「ちょっと待て! お前、まさかあいつと一人で戦うつもりか?」
俺は聞くがミルフィアは振り返らなかった。
「ですが、これが最も合理的です」
ミルフィアは一人で戦う気だ。
ミルフィアの言う通り、メタトロンを二人がかりで倒すよりも本体であるエノクを倒した方が勝率は高いかもしれない。
でも、だからといってあんな神託物とミルフィアを一対一で戦わせるなんて!
俺は心配から反論しようとしたが、その前にミルフィアが言ってきた。
「大丈夫です、主」
今からあれと戦うというのに、その声は優しかった。
ミルフィアが振り向く。
彼女の顔は、明るかった。
「私、けっこう強いですから」
ニコっと笑い、ミルフィアは正面に向き直る。その後気を引き締めた声が聞こえた。
「メタトロン。教皇エノクの神託物」
目の前には最大の敵。ミルフィアとメタトロンの大きさは人と蟻ほどだ。
「その巨体と力は強大な信仰心の表れ。そこまでに至ったことには敬服します。ですが」
しかし、ミルフィアは諦めていない。負ける気などない。
信じているんだ。
自分ならやれると。
その彼女が、威厳と覚悟を込めて告げる。
「我が主を害するというのなら、あなたを『弾圧』します」
瞬間だった。
ミルフィアを中心にして大気が震え出した。
そして。
ミルフィアは、詠唱を口にした。
「おお、古き王よ。我らが主は舞い降りた。古の約束を果たすため」
直後、大気のうねりが一層激しさを増していく。
「我らは仰ぎ天を指す。己が全て、委ね救済をここに願おう」
それは約束の歌。 彼女だけが知っている、原初の神を称える祈祷だった。
「天が輝き地が歌う。黄金の時は来たれり」
ここに彼女の信仰が現れる。世界の始まりから続く彼女の祈り。
「おお、我が主。あなたがそれを望むなら!」
ここに、ミルフィアは己の信仰を示す!
「真理――思想統一!」
全身全霊の祈りがこの場に現れた。
ミルフィアは右手をメタトロンに向ける。
次の瞬間、手の平から黄色の光線が放たれた!
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