天下界の無信仰者(イレギュラー)
作戦
翌日。
俺はヴァルカンの街を恵瑠と一緒に歩いていた。全体的に白い建物が並ぶ大通りで、建物もデザインが凝っている。
 通りには露店が並び昼前のこの時間は人々の活気で溢れていた。それこそちょっとしたお祭りみたいであちらこちらから声が飛び交っている。
「それにしてもすげえ熱気というか元気だよな、ここはいつもこうなのか?」
「教皇誕生祭が明日だからですよ。この時期になると多くの人が集まりますからね」
「ああ、それで建物に垂れ幕もあんのか」
建物の二階や三階には垂れ幕があり、両側の建物を繋いでいた。
「前にも思ったけどよ、知らないやつの誕生日を祝うかね普通。それも前日からこれって、絶対騒ぎたいだけだって」
「そんなことないですよ! みんなお祝いの気持ちでやってるんですよ!」
すると露店の店員から声が聞こえてきた。
「安いよ安いよー、今なら期間限定の20%オフ、買わなきゃ損だよー」
「…………」
「…………」
「お祝いの気持ちですよ!」
「教皇誕生祭記念缶バッチはどうですか~。教皇誕生祭記念切手もありますよ~」
「…………」
「…………」
「本当ですよ!」
「はいはい」
「本当なんですよぉおお!」
そんなこんなで俺は恵瑠と一緒にお祭り騒ぎの大通りを歩いていた。
なぜ俺たちがこんなことをしているかというとただ遊んでいるわけじゃない。これはちゃんとした作戦なのだ。
こうして人通りの多い場所を歩いていれば犯人は必ず恵瑠を見つける。そして機を見て襲ってくるだろう。
 その襲撃犯を後ろで見張っているミルフィアたちが捕まえるという作戦だ。いわば囮作戦。俺たちをエサにして敵を釣ろうということだ。
 恵瑠の傍に俺がいるのはさすがに一人きりじゃ危険だからな、せめて俺が付いているというわけだ。
そういうことで俺たちは二人で歩いている。そっと振り向いてみれば、そこには建物の角から俺たちを見ている三人の姿があった。
ただ、その、なんというかだな……。
約一人、必要以上にガン見してる奴がいるんだが。
三人が俺たちを見張ってくれているわけだが、その内の一人、ミルフィアに加豪がなにやら言っている。
「ねえミルフィア、見過ぎじゃない?」
「いえ、二人から一時も目を放さないようにするためですので」
「ミルフィアさん必死ね」
そう、ミルフィアが俺たちをめちゃ見てる。てか睨んでる!
「ねえミルフィア、あまり見過ぎても逆効果だと思うんだけど」
異様な雰囲気を放つミルフィアに加豪も呆れ気味だ。それで聞いてみるのだがミルフィアの意識はそれどころじゃないという感じ。
「それよりも主と恵瑠の距離が近いと思いませんか? あそこまで接近する必要があるんですか? いえ、私はべつに構わないのですが。ただ不自然じゃないですか? 警護のためとはいえもう少し距離を空けるべきだと思うのですが。いえ、私は構わないのですが」
「ミルフィア、目が怖いわよ」
「ミルフィアさん必死ね」
ミルフィアが見てる。
めちゃ見てる。
あの獲物を狙うかのようなネコ科の目はなんなんだ。
「ねえ神愛君、ミルフィアさんがこっちを凝視してるんですけど。やりづらいんですけど」
「無視しろ無視。まったくあのドジっ子、あれじゃ意味ねえだろ」
尾行してるのバレバレじゃねえか。横切る一般人にすら気づかれてるぞあのドジっ子。通り過ぎる人がなにごとかと見てるじゃねえか!
俺は頭を掻きむしる。まったくもぉう。
「もっと普通にやれんのかあいつは」
「ミルフィアさん神愛君のこととなると見境ないですからね」
ミルフィアはいいやつなんだがそこが玉に瑕なんだよな~。
俺は不満を持ちつつも歩いていく。それで改めてこの喧騒に目を向けてみた。
「だけどまあ、昨日は神官長派とか教皇派なんて話聞かされて意外にギスギスしてんのな、って思ったけど。こうして見てみる分にはそんなの全然ないよな」
教皇誕生祭ってイベントで神官長派の人は面白くないかもとか思ったけど。この賑わいからそうしたのは感じられない。
「はい。慈愛連立という同じ神理を信仰している人たちですから。基本的に仲はいいんですよ」
「基本的?」
恵瑠の言い方が気になり振り向いてみる。
「じゃあ仲が悪い時がもあるのか?」
「うーん、仲が悪いということはないんですが」
そう聞くと恵瑠は少しだけ残念そうな顔を浮かべていた。
「教皇派と神官長派では慈愛連立の教義に少し違いがあって、簡単に言うと教皇派は他信仰の人も救いましょう。そして神官長派の人は慈愛連立の人だけを助ければいいっていう考え方なんですよ」
「へえ~」
「それでたびたび論争っていうか、どちらがいいかみたいな話し合いになるんですね」
「そんなこともあるのか」
知らなかった。慈愛連立は誰でも助けるものだと思っていたけど単純じゃないんだな。
「でも、さっきも言った通り基本的にはみんな仲良しですから」
「そうか」
恵瑠は笑ってそう言う。ならそれでいいだろう。俺としてはどうでもいい話だ。それよりもこいつが笑っているならそれでいい。
「にしてもあれだな、こうも人が多いんじゃ歩きづらくて仕方がないな」
イモ洗いっていうのか? 両側に並んだ露店の間を大勢の人が歩いているものだから、気を付けていても肩が当たっちまう。
「じゃあ場所を変えますか? ここの近くにちょうど静かな場所がありますよ!」
「おう、案内してくれ」
恵瑠が提案してくれたので俺たちは方向を変える。
それでしばらく歩いていくと、たどり着いたのは美術館だった。
それも巨大な美術館だ。ちょっとした大学くらいか? 色はやや黄土色で横に長い建物だ。建物の中央の上部はドーム状になっている。中庭はきれいに整備され多くの観光客で賑わっていた。
「ここがサン・ジアイ大聖堂に次いで人気のゴルゴダ美術館ですよ」
その活気に負けないくらいに恵瑠は元気に紹介してくれた。
なんだが。
「美術館、ねえ~……」
「なんですかその反応!? もっと喜んでくださいよ!」
「喜んでくださいよって言われてもな~」
俺は美術館を見上げる。たいそう立派なのは伝わってくるが、如何せん俺はそういうのに関心が低いというか。
「いいから行きましょうよ! ね?」
そう言うと恵瑠は俺の手を握ってきた。そして笑顔で俺を引っ張って来る。
俺はヴァルカンの街を恵瑠と一緒に歩いていた。全体的に白い建物が並ぶ大通りで、建物もデザインが凝っている。
 通りには露店が並び昼前のこの時間は人々の活気で溢れていた。それこそちょっとしたお祭りみたいであちらこちらから声が飛び交っている。
「それにしてもすげえ熱気というか元気だよな、ここはいつもこうなのか?」
「教皇誕生祭が明日だからですよ。この時期になると多くの人が集まりますからね」
「ああ、それで建物に垂れ幕もあんのか」
建物の二階や三階には垂れ幕があり、両側の建物を繋いでいた。
「前にも思ったけどよ、知らないやつの誕生日を祝うかね普通。それも前日からこれって、絶対騒ぎたいだけだって」
「そんなことないですよ! みんなお祝いの気持ちでやってるんですよ!」
すると露店の店員から声が聞こえてきた。
「安いよ安いよー、今なら期間限定の20%オフ、買わなきゃ損だよー」
「…………」
「…………」
「お祝いの気持ちですよ!」
「教皇誕生祭記念缶バッチはどうですか~。教皇誕生祭記念切手もありますよ~」
「…………」
「…………」
「本当ですよ!」
「はいはい」
「本当なんですよぉおお!」
そんなこんなで俺は恵瑠と一緒にお祭り騒ぎの大通りを歩いていた。
なぜ俺たちがこんなことをしているかというとただ遊んでいるわけじゃない。これはちゃんとした作戦なのだ。
こうして人通りの多い場所を歩いていれば犯人は必ず恵瑠を見つける。そして機を見て襲ってくるだろう。
 その襲撃犯を後ろで見張っているミルフィアたちが捕まえるという作戦だ。いわば囮作戦。俺たちをエサにして敵を釣ろうということだ。
 恵瑠の傍に俺がいるのはさすがに一人きりじゃ危険だからな、せめて俺が付いているというわけだ。
そういうことで俺たちは二人で歩いている。そっと振り向いてみれば、そこには建物の角から俺たちを見ている三人の姿があった。
ただ、その、なんというかだな……。
約一人、必要以上にガン見してる奴がいるんだが。
三人が俺たちを見張ってくれているわけだが、その内の一人、ミルフィアに加豪がなにやら言っている。
「ねえミルフィア、見過ぎじゃない?」
「いえ、二人から一時も目を放さないようにするためですので」
「ミルフィアさん必死ね」
そう、ミルフィアが俺たちをめちゃ見てる。てか睨んでる!
「ねえミルフィア、あまり見過ぎても逆効果だと思うんだけど」
異様な雰囲気を放つミルフィアに加豪も呆れ気味だ。それで聞いてみるのだがミルフィアの意識はそれどころじゃないという感じ。
「それよりも主と恵瑠の距離が近いと思いませんか? あそこまで接近する必要があるんですか? いえ、私はべつに構わないのですが。ただ不自然じゃないですか? 警護のためとはいえもう少し距離を空けるべきだと思うのですが。いえ、私は構わないのですが」
「ミルフィア、目が怖いわよ」
「ミルフィアさん必死ね」
ミルフィアが見てる。
めちゃ見てる。
あの獲物を狙うかのようなネコ科の目はなんなんだ。
「ねえ神愛君、ミルフィアさんがこっちを凝視してるんですけど。やりづらいんですけど」
「無視しろ無視。まったくあのドジっ子、あれじゃ意味ねえだろ」
尾行してるのバレバレじゃねえか。横切る一般人にすら気づかれてるぞあのドジっ子。通り過ぎる人がなにごとかと見てるじゃねえか!
俺は頭を掻きむしる。まったくもぉう。
「もっと普通にやれんのかあいつは」
「ミルフィアさん神愛君のこととなると見境ないですからね」
ミルフィアはいいやつなんだがそこが玉に瑕なんだよな~。
俺は不満を持ちつつも歩いていく。それで改めてこの喧騒に目を向けてみた。
「だけどまあ、昨日は神官長派とか教皇派なんて話聞かされて意外にギスギスしてんのな、って思ったけど。こうして見てみる分にはそんなの全然ないよな」
教皇誕生祭ってイベントで神官長派の人は面白くないかもとか思ったけど。この賑わいからそうしたのは感じられない。
「はい。慈愛連立という同じ神理を信仰している人たちですから。基本的に仲はいいんですよ」
「基本的?」
恵瑠の言い方が気になり振り向いてみる。
「じゃあ仲が悪い時がもあるのか?」
「うーん、仲が悪いということはないんですが」
そう聞くと恵瑠は少しだけ残念そうな顔を浮かべていた。
「教皇派と神官長派では慈愛連立の教義に少し違いがあって、簡単に言うと教皇派は他信仰の人も救いましょう。そして神官長派の人は慈愛連立の人だけを助ければいいっていう考え方なんですよ」
「へえ~」
「それでたびたび論争っていうか、どちらがいいかみたいな話し合いになるんですね」
「そんなこともあるのか」
知らなかった。慈愛連立は誰でも助けるものだと思っていたけど単純じゃないんだな。
「でも、さっきも言った通り基本的にはみんな仲良しですから」
「そうか」
恵瑠は笑ってそう言う。ならそれでいいだろう。俺としてはどうでもいい話だ。それよりもこいつが笑っているならそれでいい。
「にしてもあれだな、こうも人が多いんじゃ歩きづらくて仕方がないな」
イモ洗いっていうのか? 両側に並んだ露店の間を大勢の人が歩いているものだから、気を付けていても肩が当たっちまう。
「じゃあ場所を変えますか? ここの近くにちょうど静かな場所がありますよ!」
「おう、案内してくれ」
恵瑠が提案してくれたので俺たちは方向を変える。
それでしばらく歩いていくと、たどり着いたのは美術館だった。
それも巨大な美術館だ。ちょっとした大学くらいか? 色はやや黄土色で横に長い建物だ。建物の中央の上部はドーム状になっている。中庭はきれいに整備され多くの観光客で賑わっていた。
「ここがサン・ジアイ大聖堂に次いで人気のゴルゴダ美術館ですよ」
その活気に負けないくらいに恵瑠は元気に紹介してくれた。
なんだが。
「美術館、ねえ~……」
「なんですかその反応!? もっと喜んでくださいよ!」
「喜んでくださいよって言われてもな~」
俺は美術館を見上げる。たいそう立派なのは伝わってくるが、如何せん俺はそういうのに関心が低いというか。
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