天下界の無信仰者(イレギュラー)
食事
俺はラファエルに案内された部屋で四人と一緒にいた。さすがは大聖堂を名乗るだけあってこの一室もかなり凝っている。
 全体的に白の内装にお洒落な家具が並んでいる。俺は中央にある大きなテーブル、そこにある椅子にに腰かけていた。時計を見れば夜の十時だ。
「しっかしまあ、忙しい一日だったなぁ」
俺は背もたれにぐったり背中を反らした。学校から帰る途中襲われ、その次には慈愛連立のお偉いさんと話をし、恵瑠の護衛が決まったわけだ。
それもこれも発端は――
「うわぁ~」
壁に飾ってある大きな絵をアホつら全開で見上げているこのアホのせいだ。
「なあミルフィア」
「はい主」
俺は恵瑠を見ながら隣に座るミルフィアに聞いてみる。
「お前にはあいつがどう見える」
「どう、とは」
「だってあれだろ、普通はどう考えてもあんな連中と知り合いなんておかしいだろう。あいつの親繋がりか?」
「いえ、実はここに来るまでにそれを聞いてみたのですが違うそうです。面識のある理由は最後まで話してくれませんでしたね」
見てみるとミルフィアは少しだけ残念そうな顔をしていた。
「実際恵瑠は慈愛連立の信者として素晴らしいと思います。誰にも明るく気さくに接することが出来ています。彼女の素質です」
「能天気なだけだろ」
「ふふ、かもしれませんね」
ミルフィアは口元に手を当て小さく笑う。
「それでも恵瑠のことは好きですよ。彼女を見ていると不思議と心が和むんです」
ミルフィアは視線を俺から恵瑠へと動かした。そこには椅子に腰かけた女性の自画像を見上げている恵瑠と天和でなにやら話をしていた。
「天和さん、この絵はなんですか?」
「うさぎね」
「服着てますよ?」
「服を着たうさぎね」
「女性の顔してますよ?」
「変装したうさぎね」
「人の形してますよ?」
「肩車して人の真似をしているうさぎね」
「すげえええ!」
ツッコミがいないって怖いな。
それでミルフィアに視線を戻してみると、そんな二人を見て表情は嬉しそうだった。なんだか、楽しそうですらあったのだ。
「ミルフィア、少し変わったよな」
「え?」
「前より明るくなったっていうかさ、柔らかくなった気がするよ」
前までのミルフィアはいつも俺のことばかりで周りの人のことを話すなんてことはなかった。それも当然でミルフィアには友達はいなかった。
だけど今はいる。恵瑠に加豪、天和という友達ができて、ミルフィアには前よりも笑顔が増えた。
そんなこいつを見て俺も嬉しく思う。
「すみません、その」
「なんでそこで謝るんだよ。お前はそれでいい。前よりもよくなってるよ」
ミルフィアが慌てて頭を下げようとする。それを止めさせるがミルフィアはなんだか申し訳なさそうだった。
「本当にいいのでしょうか」
「なにがだよ?」
「私が笑っていて」
ミルフィアの視線が若干下がっている。奴隷の自分が幸せになることに負い目を感じるのは相変わらずか。
「なんでお前がそこまで奴隷にこだわるのか知らねえけどさ、お前はもっと笑っていい。ミルフィア、俺はお前に感謝してる。だからお前には幸せになって欲しいんだ。少なくとも俺はそう願ってるよ」
そう言うとミルフィアは顔を起こした。その目が躊躇いがちに俺を見てくる。俺は「ん?」と言うと、ミルフィアの陰が入っていた表情が小さく笑った。
「はい。ありがとうございます」
「うん」
ミルフィアの返事に俺も頷いた。
こうしてミルフィアは変わってくれた。笑顔が増えてくれた。それを嬉しく思う。
これもミルフィアに友達ができたおかげだ。
加豪や天和、恵瑠にも感謝だな。
そこへ今しがた部屋から帰ってきた加豪が近寄ってきた。
「神愛、今係りの人が来て伝えてくれたんだけど、もう遅いからよければここに泊まっていってもいいってさ。あんたはどうする?」
「なに!?」
お泊りだと? マジか!? おいおいちょっと待て。
それはミルフィアだけでなく恵瑠や加豪、天和と一つ同じ屋根のした一夜を共にするということか? そんなことになればお前……、
たまたま着替えを見ちゃったり? あんなことやこんなことがあったり? 不可抗力という名のもとに奇跡が起こっちゃうんじゃないのではないでしょうか!?
と俺がいろいろ妄想していると、そこで意外な人物からホイッスルが鳴った。
「それはなりませんッ」
「どうしたミルフィア」
「あ、いえ、その」
ミルフィアは慌てて姿勢を整えると目を瞑りツンとしていた。頬が少しだけ赤くなっている。
「あ、主は男性です。そういうのはやはりしっかりしておかないと」
「でもお前とは寮の部屋同じじゃねえか」
「私はいいんです!」
なんでだよ。
ムキになってミルフィアが俺を見上げてくる。
「あ、部屋は当然別々よ?」
「え?」
そうなの? くそ、夢破れたり~。
「ならいいですけど」
「ちっ」
「ん?」
するとミルフィアが俺を責めるような目で見つめてきた。
「主いま、舌打ちしましたか?」
「いや、してねえよ」
「じー」
「んだよ、してねえって言ってるだろうが!」
「そうならいいのですが」
そうは言いつつもミルフィアは横目で俺のことを怪しそうに見つめていた。んだよ、俺は信用されてるのかされてないのかどっちなんだよ。
「とりあえず、今日はみんなここで泊まるってことでいいのか?」
「そうですね。ではお言葉に甘えて泊まらせていただきましょうか」
「やったー! みんなでお泊りだー。お泊りお泊り~」
「私はどっちでもいいけど」
「分かった。なら全員泊まるって伝えてくるわよ」
それで今日はここで泊まることになった。窓の外を見れば真っ暗だ。
係りの人には加豪(かごう)から泊まる旨を伝えてもらい、部屋の用意が出来るまではここにいて欲しいということだった。
 それからしばらくするとさきに食事を持ってきてくれた。テーブルに料理が並べられていく。
「おお!」
すげえ、つい口に出てしまう。
人数分の白い皿に乗せられた豪華な料理。スープにサラダの前菜、メインディッシュにローストビーフ。テーブル中央に置かれたバスケットには焼き立てか、まだ温かいパンがいくつも入っていた。
「すげえ、さすがだな」
「すごいですね」
並ぶ料理に俺とミルフィアは並んで感嘆(かんたん)する。俺の人生で一番豪勢な食事じゃないか? この料理の数々に加豪も「へえ~」と声を漏らしていた。
俺たちは全員テーブルに座った。
「それじゃさっそくいただこうか」
「待って下さい!」
俺は目の前の料理を食べようとするのだが、そこで恵瑠に止められてしまった。
「なんだ恵瑠、まだお前の分食ってないだろうが」
「まだって神愛、あんたするつもりだったの?」
「神愛君ひどいです」
加豪が憮然とした顔で俺を見つめてくる。恵瑠もしょんぼりした顔で言ってくるが、本当に言いたいことは別のようだ。
「って、そうじゃなくて。いいですか神愛君? 慈愛連立には食事の前にお祈りをするという習慣があるんですよ。古い習慣ですけど」
「お祈り?」
「はい! 食事をするというのは他の命をいただくということです。そのことに感謝するんですよ」
見ると恵瑠はえっへんと何故か偉そうに腕を組んでいた。
「そういえば、私の方にはそういうのないけれど、たしか無我無心にも似たようなのあるんじゃなかった?」
「ええ。祈りってほどではないけど、食べる前にいただきますと言ってから食べるわね。食べ終わった後にはごちそうさまでしたと言って終えるわ」
「めんどくせー、いいから食おうぜ。そんなことしてたらカビが生えるぜ」
「まあ主、そう言わずしてみてはどうですか? サン・ジアイ大聖堂での食事なんて慈愛連立の信仰者から見れば夢のようなことでしょう。ここは慈愛連立のしきたりに従ってみれば」
「ま、たまにはいいか」
ミルフィアにそう言われては仕方がない。ここは全員慈愛連立の習慣に則りお祈りをすることにしてみた。
みんな両手を合わせて握るとそこへ額を当てる。そして目を瞑り料理の食材となったすべての命に感謝をほにゃららら。
「はい、それでは食べましょう!」
恵瑠から声をかけられお祈りタイム終了。ようやくか。
俺はナイフとフォークを取りさっそく料理を口へと運んでいく。うん、美味い!
「主、おいしいですか?」
「おう! 焦らされたからか知らんがめちゃくちゃ美味い」
「ふふ。そうですね」
「ミルフィアはうまいか?」
「はい。おいしいです」
ミルフィアも笑顔で料理を食べていた。他にも加豪は珍しい慈愛連立の食事に感心しながら食べており、天和は無我無心だからか感想を言うこともなく黙々と食べている。
 その中で恵瑠が一番はしゃぎながら食べていた。
「お前は慈愛連立だろうが、なんでそんなハイテンションなんだよ」
「なに言ってるんですか神愛君! 慈愛連立だからって毎日こんな豪華な食事してると思ったら大間違いですよ!?」
それもそうか。
それで食事は終わり食器も職員の人が片付けてくれた。至れり尽くせりだ、苦しゅうない。
俺は部屋に置いてあった一人用のソファに腰掛ける。全身が沈んでいくような柔らかさに表情が緩んでしまう。
「宮司君気持ちよさそうね」
すると天和(てんほ)が近づいてきた。こいつは音もなく現れるな。
「お~、満腹感にこの心地、最高だぜ~」
「でも勘違いしないことね」
「え?」
「うさぎさんの抱き心地の方が、もっと気持ちがいいということを」
「え…………?」
そう言い残し、天和は俺から去って行った。
「なんだあいつ」
あいつの不思議ぷりは未だに把握できん。
 全体的に白の内装にお洒落な家具が並んでいる。俺は中央にある大きなテーブル、そこにある椅子にに腰かけていた。時計を見れば夜の十時だ。
「しっかしまあ、忙しい一日だったなぁ」
俺は背もたれにぐったり背中を反らした。学校から帰る途中襲われ、その次には慈愛連立のお偉いさんと話をし、恵瑠の護衛が決まったわけだ。
それもこれも発端は――
「うわぁ~」
壁に飾ってある大きな絵をアホつら全開で見上げているこのアホのせいだ。
「なあミルフィア」
「はい主」
俺は恵瑠を見ながら隣に座るミルフィアに聞いてみる。
「お前にはあいつがどう見える」
「どう、とは」
「だってあれだろ、普通はどう考えてもあんな連中と知り合いなんておかしいだろう。あいつの親繋がりか?」
「いえ、実はここに来るまでにそれを聞いてみたのですが違うそうです。面識のある理由は最後まで話してくれませんでしたね」
見てみるとミルフィアは少しだけ残念そうな顔をしていた。
「実際恵瑠は慈愛連立の信者として素晴らしいと思います。誰にも明るく気さくに接することが出来ています。彼女の素質です」
「能天気なだけだろ」
「ふふ、かもしれませんね」
ミルフィアは口元に手を当て小さく笑う。
「それでも恵瑠のことは好きですよ。彼女を見ていると不思議と心が和むんです」
ミルフィアは視線を俺から恵瑠へと動かした。そこには椅子に腰かけた女性の自画像を見上げている恵瑠と天和でなにやら話をしていた。
「天和さん、この絵はなんですか?」
「うさぎね」
「服着てますよ?」
「服を着たうさぎね」
「女性の顔してますよ?」
「変装したうさぎね」
「人の形してますよ?」
「肩車して人の真似をしているうさぎね」
「すげえええ!」
ツッコミがいないって怖いな。
それでミルフィアに視線を戻してみると、そんな二人を見て表情は嬉しそうだった。なんだか、楽しそうですらあったのだ。
「ミルフィア、少し変わったよな」
「え?」
「前より明るくなったっていうかさ、柔らかくなった気がするよ」
前までのミルフィアはいつも俺のことばかりで周りの人のことを話すなんてことはなかった。それも当然でミルフィアには友達はいなかった。
だけど今はいる。恵瑠に加豪、天和という友達ができて、ミルフィアには前よりも笑顔が増えた。
そんなこいつを見て俺も嬉しく思う。
「すみません、その」
「なんでそこで謝るんだよ。お前はそれでいい。前よりもよくなってるよ」
ミルフィアが慌てて頭を下げようとする。それを止めさせるがミルフィアはなんだか申し訳なさそうだった。
「本当にいいのでしょうか」
「なにがだよ?」
「私が笑っていて」
ミルフィアの視線が若干下がっている。奴隷の自分が幸せになることに負い目を感じるのは相変わらずか。
「なんでお前がそこまで奴隷にこだわるのか知らねえけどさ、お前はもっと笑っていい。ミルフィア、俺はお前に感謝してる。だからお前には幸せになって欲しいんだ。少なくとも俺はそう願ってるよ」
そう言うとミルフィアは顔を起こした。その目が躊躇いがちに俺を見てくる。俺は「ん?」と言うと、ミルフィアの陰が入っていた表情が小さく笑った。
「はい。ありがとうございます」
「うん」
ミルフィアの返事に俺も頷いた。
こうしてミルフィアは変わってくれた。笑顔が増えてくれた。それを嬉しく思う。
これもミルフィアに友達ができたおかげだ。
加豪や天和、恵瑠にも感謝だな。
そこへ今しがた部屋から帰ってきた加豪が近寄ってきた。
「神愛、今係りの人が来て伝えてくれたんだけど、もう遅いからよければここに泊まっていってもいいってさ。あんたはどうする?」
「なに!?」
お泊りだと? マジか!? おいおいちょっと待て。
それはミルフィアだけでなく恵瑠や加豪、天和と一つ同じ屋根のした一夜を共にするということか? そんなことになればお前……、
たまたま着替えを見ちゃったり? あんなことやこんなことがあったり? 不可抗力という名のもとに奇跡が起こっちゃうんじゃないのではないでしょうか!?
と俺がいろいろ妄想していると、そこで意外な人物からホイッスルが鳴った。
「それはなりませんッ」
「どうしたミルフィア」
「あ、いえ、その」
ミルフィアは慌てて姿勢を整えると目を瞑りツンとしていた。頬が少しだけ赤くなっている。
「あ、主は男性です。そういうのはやはりしっかりしておかないと」
「でもお前とは寮の部屋同じじゃねえか」
「私はいいんです!」
なんでだよ。
ムキになってミルフィアが俺を見上げてくる。
「あ、部屋は当然別々よ?」
「え?」
そうなの? くそ、夢破れたり~。
「ならいいですけど」
「ちっ」
「ん?」
するとミルフィアが俺を責めるような目で見つめてきた。
「主いま、舌打ちしましたか?」
「いや、してねえよ」
「じー」
「んだよ、してねえって言ってるだろうが!」
「そうならいいのですが」
そうは言いつつもミルフィアは横目で俺のことを怪しそうに見つめていた。んだよ、俺は信用されてるのかされてないのかどっちなんだよ。
「とりあえず、今日はみんなここで泊まるってことでいいのか?」
「そうですね。ではお言葉に甘えて泊まらせていただきましょうか」
「やったー! みんなでお泊りだー。お泊りお泊り~」
「私はどっちでもいいけど」
「分かった。なら全員泊まるって伝えてくるわよ」
それで今日はここで泊まることになった。窓の外を見れば真っ暗だ。
係りの人には加豪(かごう)から泊まる旨を伝えてもらい、部屋の用意が出来るまではここにいて欲しいということだった。
 それからしばらくするとさきに食事を持ってきてくれた。テーブルに料理が並べられていく。
「おお!」
すげえ、つい口に出てしまう。
人数分の白い皿に乗せられた豪華な料理。スープにサラダの前菜、メインディッシュにローストビーフ。テーブル中央に置かれたバスケットには焼き立てか、まだ温かいパンがいくつも入っていた。
「すげえ、さすがだな」
「すごいですね」
並ぶ料理に俺とミルフィアは並んで感嘆(かんたん)する。俺の人生で一番豪勢な食事じゃないか? この料理の数々に加豪も「へえ~」と声を漏らしていた。
俺たちは全員テーブルに座った。
「それじゃさっそくいただこうか」
「待って下さい!」
俺は目の前の料理を食べようとするのだが、そこで恵瑠に止められてしまった。
「なんだ恵瑠、まだお前の分食ってないだろうが」
「まだって神愛、あんたするつもりだったの?」
「神愛君ひどいです」
加豪が憮然とした顔で俺を見つめてくる。恵瑠もしょんぼりした顔で言ってくるが、本当に言いたいことは別のようだ。
「って、そうじゃなくて。いいですか神愛君? 慈愛連立には食事の前にお祈りをするという習慣があるんですよ。古い習慣ですけど」
「お祈り?」
「はい! 食事をするというのは他の命をいただくということです。そのことに感謝するんですよ」
見ると恵瑠はえっへんと何故か偉そうに腕を組んでいた。
「そういえば、私の方にはそういうのないけれど、たしか無我無心にも似たようなのあるんじゃなかった?」
「ええ。祈りってほどではないけど、食べる前にいただきますと言ってから食べるわね。食べ終わった後にはごちそうさまでしたと言って終えるわ」
「めんどくせー、いいから食おうぜ。そんなことしてたらカビが生えるぜ」
「まあ主、そう言わずしてみてはどうですか? サン・ジアイ大聖堂での食事なんて慈愛連立の信仰者から見れば夢のようなことでしょう。ここは慈愛連立のしきたりに従ってみれば」
「ま、たまにはいいか」
ミルフィアにそう言われては仕方がない。ここは全員慈愛連立の習慣に則りお祈りをすることにしてみた。
みんな両手を合わせて握るとそこへ額を当てる。そして目を瞑り料理の食材となったすべての命に感謝をほにゃららら。
「はい、それでは食べましょう!」
恵瑠から声をかけられお祈りタイム終了。ようやくか。
俺はナイフとフォークを取りさっそく料理を口へと運んでいく。うん、美味い!
「主、おいしいですか?」
「おう! 焦らされたからか知らんがめちゃくちゃ美味い」
「ふふ。そうですね」
「ミルフィアはうまいか?」
「はい。おいしいです」
ミルフィアも笑顔で料理を食べていた。他にも加豪は珍しい慈愛連立の食事に感心しながら食べており、天和は無我無心だからか感想を言うこともなく黙々と食べている。
 その中で恵瑠が一番はしゃぎながら食べていた。
「お前は慈愛連立だろうが、なんでそんなハイテンションなんだよ」
「なに言ってるんですか神愛君! 慈愛連立だからって毎日こんな豪華な食事してると思ったら大間違いですよ!?」
それもそうか。
それで食事は終わり食器も職員の人が片付けてくれた。至れり尽くせりだ、苦しゅうない。
俺は部屋に置いてあった一人用のソファに腰掛ける。全身が沈んでいくような柔らかさに表情が緩んでしまう。
「宮司君気持ちよさそうね」
すると天和(てんほ)が近づいてきた。こいつは音もなく現れるな。
「お~、満腹感にこの心地、最高だぜ~」
「でも勘違いしないことね」
「え?」
「うさぎさんの抱き心地の方が、もっと気持ちがいいということを」
「え…………?」
そう言い残し、天和は俺から去って行った。
「なんだあいつ」
あいつの不思議ぷりは未だに把握できん。
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