天下界の無信仰者(イレギュラー)
守りたい世界
ずっと続くと思ってた。
こんな何気ないやり取りを繰り返し、
宿題とかテストに頭を悩ませて、
放課後にはみんなで集まって、
くだらないことを真剣にしゃべって、
そして、
みんなで笑ってる。
その輪の中で、
恵瑠。
お前は誰よりも笑ってる。無邪気な笑顔で。
『人と人が助け合い、互いに笑顔でいられる世界』
そんな世界になれたらいいと、そう言うお前の笑顔がある限り。
ずっと、続くと思っていたんだ。
だけど。
その時がやってきたんだ。
二千年前の使命と名誉の。
六十年前に守れなかった約束が。
俺たちの生活を劇的に変えるのに、そう時間はかからなかった。
学校の放課後、何事もなく一日を終え俺は昇降口で靴に履き替えていた。外はまだ明るいがすぐに夕日に変わるだろう。俺の隣には二人の女子がいて恵瑠ともう一人は、
「ねえ神愛」
「ん? なんだよ」
先に靴に履き替え俺に声をかけてきたのは加豪切柄。赤い髪を背中まで伸ばした女の子で信仰は琢磨追求だ。
 己を強くすることを目指す神理そのままのやつで、気は強いが義理堅いいいやつだ。なんていうか真っ直ぐなんだよな、性格が。
「ミルフィア日直でまだやることあるんでしょ? 手伝わなくてよかったわけ?」
「いいんだよやらせとけば。それよりも帰ってゴロゴロしたい」
「さすがあんたね……」
呆れたように俺を見てくる。うるせえ、そんな目で俺を見るな。俺はロッカーを閉じて言ってやった。
「それに、俺が手伝うとか言い出したらあいつがどう出るかなんて分かり切ってるだろ」
「それもそうね」
加豪は納得したようにふっと笑みを浮かべていた。すると隣では恵瑠がじーと加豪を見上げている。
「? どうしたの恵瑠、私の顔になにか付いてる?」
「じー」
いったいなんだろうか。こいつの考えは俺にも分からん。
それで恵瑠が加豪を見ながら口を動かした。
「加豪さんって背髙いですよね。やっぱり牛乳ですか?」
背を見てたのか。たしかに加豪は背が高い。俺と同じくらいだろうか。
「うーん、それもあるかもしれないけど。でも成長期で背を伸ばすならバランスのいい食事と適度な運動よ」
「運動!? じゃあこの校舎も運動したんですか!?」
「は?」
「げ」
嫌な予感がする。俺は二人に気付かれないように出口に向かった。
「えっと、恵瑠なに言ってるの?」
「知らないんですか加豪さん!? この校舎はですね、牛乳を飲んでこんなに大きくなったんですよ!」
「…………」
今度は加豪が恵瑠をじーと見下ろす番だった。それから加豪は額に手を当てると顔を軽く振った。
「それ、言ったの神愛ね」
「はい!」
「神愛、待ちなさい」
「ゲ」
バレた。俺は立ち止まると振り返る。加豪が鋭い視線で俺を見てきた。
「神愛、あんたテキトウなこと言わないでよね。恵瑠はなんでも信じちゃうんだから」
「んだよ俺のせいかよ?」
「あんたのせいでしょうが」
「だとしても半分の責任はこいつの頭だろ?」
「言い訳しない」
加豪は「もう」と呟いてから恵瑠に視線を変えた。
「神愛は恵瑠をからかわない。それと恵瑠もすぐに信じちゃダメよ。こいつ平気で嘘つくタイプなんだから」
「ええええええええ!?」
加豪から言われはじめて嘘だと分かったようだ。てか最初から気づけよ。
「神愛君あれ嘘だったんですか!?」
「あん? んなもん当然だろ」
「開き直ってるぅううう!」
「あんたたち息ぴったりね……」
そんなこんなで昇降口を出てた。正門までの道の両側に植えられている桜は花弁を散らし季節の移ろいを感じる。
すると思いついたように加豪が言い出した。
「そういえばミルフィアは日直だとして天和はどうしたの? 私知らないけど」
天和というのは三人目の友達のことだ。
薬師天和。信仰は無我無心。肩まで伸ばしたセミロングの緑の髪に赤い瞳が印象的な女の子だ。
 感情が薄いというか落ち着いているのだが、うさぎに対しては異常な執着を見せる不思議なやつだ。
「どうせいつもみたいに飼育小屋だろ、あいつ飼育委員だし。たしかジャックとジェニファーだっけ? うさぎの名前」
「あれ、一号二号でしょ?」
俺が聞くと加豪が違う名前を言い出してきた。あれ? 俺が聞いた時と違うぞ。
「ボクが聞いた時は漆黒を纏う者と暁に愛されし者でしたよ?」
「どーなってんだあいつのネーミングセンス!」
バラバラ過ぎるだろ。てかなに、何度も変えてるの!?
「なんで名前がぜんぜん違うんだよ!」
「そんなの私が知るわけないでしょ。私だって今知ったんだし」
「けっきょくうさぎさんの名前ってなんなんでしょうかね? てか今はなんて呼ばれてるんでしょう?」
「うーん。直接本人に聞いてみるか? 呼べば来るだろ」
「呼ぶってどうやってよ?」
「そうですよ神愛君」
加豪と恵瑠が怪訝そうに聞いてくる。
「うーん……」
それで俺は思い付いたのを言ってみた。
「あ、こんなところにうさぎがいる。めちゃくちゃ可愛いなー、ステキだなー(棒)」
「…………」
「…………」
「んだよその目は!?」
二人がジト目で見てくる。そんな目で俺を見るな!
「今分かった、あんたバカね」
「神愛君、かわいそうな人だったんですね」
「んだとぉおお!? じゃあどうすれば良かったんだよ!?」
「普通あるわけないでしょう」
「ああ!? じゃああいつの普通ってなんなんだよ!?」
パリィイイイン!
「なんだ!?」
その時だった。突如頭上からガラスの割れる音が響いたのだ。見上げると三階の窓ガラスを破って人影が飛び出していた。
人影はドン、という重い音を立てて俺たちの正面に着地した。緑の髪がさらりと流れ、振り返ると赤い瞳が俺たちを見てくる。
「うさぎさんはどこ?」
天和だった。
「…………」
「…………」
「…………」
マジかよ。てかなに言ってんだこいつ。てか飛び降りた!?
天和は俺に近づいてくるともう一度聞いてきた。
「うさぎさんはどこ?」
ごめんなさい、嘘です。嘘に決まってるだろなんで来るんだよ。誰か助けてくれ! オーディエンスだ!
俺は加豪と恵瑠を見てみる。しかし二人はブンブンと顔を横に振っていた。くそ!
俺は表情を固くして天和に振り返る。
「あー、残念だったな天和。ちょうどさっき逃げちまってさ」
「ほんと?」
「お、おう」
「そう」
よかった、通じたようだ。
「おかしいわね、うさぎさんが百メートル以内にいれば気づくんだけど」
どうなってんだこいつ!?
新たな発見に驚く。嘘かほんとか分からないが知りたくもないので話題を変えてみた。
「そういえば天和、飼育小屋のうさぎは元気なのか? 二匹いただろ、なんて名前だっけ?」
「岡田浩之と鈴木信一のこと?」
ぜんぜんちげえじゃねえか!
「お前、それでうさぎは自分のことだと分かるのか?」
「ううん、名前を呼んでも来ないの。もう二か月も世話してるのに」
「毎日ころころ名前変えられたら俺だって分からねえよ」
天和は寂しそうに言うがそりゃそうだろ。こいつの不思議っぷりは飛び抜けてるな。
それからはせっかく四人揃ったことなので一緒に帰ることになり、俺たちは正門へと歩き出した。ガラスは知らん。今必死に忘れようとしているところだ。
それで今一度俺は三人を見つめてみた。
能天気だけど元気な恵瑠。
厳しいけれど真っ直ぐな加豪。
おとなしいが不思議な天和。
そして俺。
性格も信仰もバラバラな俺たちだけど、こうして集まって楽しく話ができる。
以前の俺から比べれば信じられない状況だ。いつもいじめられてばかりで、一人きりだったのに。
それなのに、友達がいる。
口にしたことはないけれど、俺はみんなが好きだ。大切な友達で、どんなことがあってもこの時間を守りたいって、本当、心の底からそう思えるんだ。
そんなこんなで正門に向かっている俺たちだが、そこでふと気づいた。
他の下校している生徒たちがなんだが楽しそうというか浮き足だっているというか、ウキウキしているように見えるのだ。そういえば教室の連中の一部はそんな仕草をしていた気がする。
「なんかあるのかな……?」
よく見てみれば楽しそうにしているのは全員白の腕章をつけている。慈愛連立(じあいれんりつ)の信仰者ばかりだ。
こんな何気ないやり取りを繰り返し、
宿題とかテストに頭を悩ませて、
放課後にはみんなで集まって、
くだらないことを真剣にしゃべって、
そして、
みんなで笑ってる。
その輪の中で、
恵瑠。
お前は誰よりも笑ってる。無邪気な笑顔で。
『人と人が助け合い、互いに笑顔でいられる世界』
そんな世界になれたらいいと、そう言うお前の笑顔がある限り。
ずっと、続くと思っていたんだ。
だけど。
その時がやってきたんだ。
二千年前の使命と名誉の。
六十年前に守れなかった約束が。
俺たちの生活を劇的に変えるのに、そう時間はかからなかった。
学校の放課後、何事もなく一日を終え俺は昇降口で靴に履き替えていた。外はまだ明るいがすぐに夕日に変わるだろう。俺の隣には二人の女子がいて恵瑠ともう一人は、
「ねえ神愛」
「ん? なんだよ」
先に靴に履き替え俺に声をかけてきたのは加豪切柄。赤い髪を背中まで伸ばした女の子で信仰は琢磨追求だ。
 己を強くすることを目指す神理そのままのやつで、気は強いが義理堅いいいやつだ。なんていうか真っ直ぐなんだよな、性格が。
「ミルフィア日直でまだやることあるんでしょ? 手伝わなくてよかったわけ?」
「いいんだよやらせとけば。それよりも帰ってゴロゴロしたい」
「さすがあんたね……」
呆れたように俺を見てくる。うるせえ、そんな目で俺を見るな。俺はロッカーを閉じて言ってやった。
「それに、俺が手伝うとか言い出したらあいつがどう出るかなんて分かり切ってるだろ」
「それもそうね」
加豪は納得したようにふっと笑みを浮かべていた。すると隣では恵瑠がじーと加豪を見上げている。
「? どうしたの恵瑠、私の顔になにか付いてる?」
「じー」
いったいなんだろうか。こいつの考えは俺にも分からん。
それで恵瑠が加豪を見ながら口を動かした。
「加豪さんって背髙いですよね。やっぱり牛乳ですか?」
背を見てたのか。たしかに加豪は背が高い。俺と同じくらいだろうか。
「うーん、それもあるかもしれないけど。でも成長期で背を伸ばすならバランスのいい食事と適度な運動よ」
「運動!? じゃあこの校舎も運動したんですか!?」
「は?」
「げ」
嫌な予感がする。俺は二人に気付かれないように出口に向かった。
「えっと、恵瑠なに言ってるの?」
「知らないんですか加豪さん!? この校舎はですね、牛乳を飲んでこんなに大きくなったんですよ!」
「…………」
今度は加豪が恵瑠をじーと見下ろす番だった。それから加豪は額に手を当てると顔を軽く振った。
「それ、言ったの神愛ね」
「はい!」
「神愛、待ちなさい」
「ゲ」
バレた。俺は立ち止まると振り返る。加豪が鋭い視線で俺を見てきた。
「神愛、あんたテキトウなこと言わないでよね。恵瑠はなんでも信じちゃうんだから」
「んだよ俺のせいかよ?」
「あんたのせいでしょうが」
「だとしても半分の責任はこいつの頭だろ?」
「言い訳しない」
加豪は「もう」と呟いてから恵瑠に視線を変えた。
「神愛は恵瑠をからかわない。それと恵瑠もすぐに信じちゃダメよ。こいつ平気で嘘つくタイプなんだから」
「ええええええええ!?」
加豪から言われはじめて嘘だと分かったようだ。てか最初から気づけよ。
「神愛君あれ嘘だったんですか!?」
「あん? んなもん当然だろ」
「開き直ってるぅううう!」
「あんたたち息ぴったりね……」
そんなこんなで昇降口を出てた。正門までの道の両側に植えられている桜は花弁を散らし季節の移ろいを感じる。
すると思いついたように加豪が言い出した。
「そういえばミルフィアは日直だとして天和はどうしたの? 私知らないけど」
天和というのは三人目の友達のことだ。
薬師天和。信仰は無我無心。肩まで伸ばしたセミロングの緑の髪に赤い瞳が印象的な女の子だ。
 感情が薄いというか落ち着いているのだが、うさぎに対しては異常な執着を見せる不思議なやつだ。
「どうせいつもみたいに飼育小屋だろ、あいつ飼育委員だし。たしかジャックとジェニファーだっけ? うさぎの名前」
「あれ、一号二号でしょ?」
俺が聞くと加豪が違う名前を言い出してきた。あれ? 俺が聞いた時と違うぞ。
「ボクが聞いた時は漆黒を纏う者と暁に愛されし者でしたよ?」
「どーなってんだあいつのネーミングセンス!」
バラバラ過ぎるだろ。てかなに、何度も変えてるの!?
「なんで名前がぜんぜん違うんだよ!」
「そんなの私が知るわけないでしょ。私だって今知ったんだし」
「けっきょくうさぎさんの名前ってなんなんでしょうかね? てか今はなんて呼ばれてるんでしょう?」
「うーん。直接本人に聞いてみるか? 呼べば来るだろ」
「呼ぶってどうやってよ?」
「そうですよ神愛君」
加豪と恵瑠が怪訝そうに聞いてくる。
「うーん……」
それで俺は思い付いたのを言ってみた。
「あ、こんなところにうさぎがいる。めちゃくちゃ可愛いなー、ステキだなー(棒)」
「…………」
「…………」
「んだよその目は!?」
二人がジト目で見てくる。そんな目で俺を見るな!
「今分かった、あんたバカね」
「神愛君、かわいそうな人だったんですね」
「んだとぉおお!? じゃあどうすれば良かったんだよ!?」
「普通あるわけないでしょう」
「ああ!? じゃああいつの普通ってなんなんだよ!?」
パリィイイイン!
「なんだ!?」
その時だった。突如頭上からガラスの割れる音が響いたのだ。見上げると三階の窓ガラスを破って人影が飛び出していた。
人影はドン、という重い音を立てて俺たちの正面に着地した。緑の髪がさらりと流れ、振り返ると赤い瞳が俺たちを見てくる。
「うさぎさんはどこ?」
天和だった。
「…………」
「…………」
「…………」
マジかよ。てかなに言ってんだこいつ。てか飛び降りた!?
天和は俺に近づいてくるともう一度聞いてきた。
「うさぎさんはどこ?」
ごめんなさい、嘘です。嘘に決まってるだろなんで来るんだよ。誰か助けてくれ! オーディエンスだ!
俺は加豪と恵瑠を見てみる。しかし二人はブンブンと顔を横に振っていた。くそ!
俺は表情を固くして天和に振り返る。
「あー、残念だったな天和。ちょうどさっき逃げちまってさ」
「ほんと?」
「お、おう」
「そう」
よかった、通じたようだ。
「おかしいわね、うさぎさんが百メートル以内にいれば気づくんだけど」
どうなってんだこいつ!?
新たな発見に驚く。嘘かほんとか分からないが知りたくもないので話題を変えてみた。
「そういえば天和、飼育小屋のうさぎは元気なのか? 二匹いただろ、なんて名前だっけ?」
「岡田浩之と鈴木信一のこと?」
ぜんぜんちげえじゃねえか!
「お前、それでうさぎは自分のことだと分かるのか?」
「ううん、名前を呼んでも来ないの。もう二か月も世話してるのに」
「毎日ころころ名前変えられたら俺だって分からねえよ」
天和は寂しそうに言うがそりゃそうだろ。こいつの不思議っぷりは飛び抜けてるな。
それからはせっかく四人揃ったことなので一緒に帰ることになり、俺たちは正門へと歩き出した。ガラスは知らん。今必死に忘れようとしているところだ。
それで今一度俺は三人を見つめてみた。
能天気だけど元気な恵瑠。
厳しいけれど真っ直ぐな加豪。
おとなしいが不思議な天和。
そして俺。
性格も信仰もバラバラな俺たちだけど、こうして集まって楽しく話ができる。
以前の俺から比べれば信じられない状況だ。いつもいじめられてばかりで、一人きりだったのに。
それなのに、友達がいる。
口にしたことはないけれど、俺はみんなが好きだ。大切な友達で、どんなことがあってもこの時間を守りたいって、本当、心の底からそう思えるんだ。
そんなこんなで正門に向かっている俺たちだが、そこでふと気づいた。
他の下校している生徒たちがなんだが楽しそうというか浮き足だっているというか、ウキウキしているように見えるのだ。そういえば教室の連中の一部はそんな仕草をしていた気がする。
「なんかあるのかな……?」
よく見てみれば楽しそうにしているのは全員白の腕章をつけている。慈愛連立(じあいれんりつ)の信仰者ばかりだ。
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