天下界の無信仰者(イレギュラー)
二日目
翌日、気乗りしないしないものの今日も学校へと向かっていた。まあ気が重いのは今に始まったことではないのでいいのだが、今日は一つ問題があった。
「なあ、ミルフィア」
「はい、主」
場所は学校の正門前。他の生徒の波の中、景気よく花弁を散らす桜の風を受けつつ、俺はミルフィアを見下ろしていた。困ったことに学校についてくると言って聞かないのだ。
「お前はここの生徒じゃない。だから基本的にはいちゃ駄目なんだ、分かるだろ?」
「しかし主。昨日の出来事を省みれば一人は危険です」
「それは、まあ」
昨日、俺は加豪と喧嘩をした。登校初日からあの大騒ぎだ。ミルフィアの気持ちは分からんでもない。
けれど駄目なんだ。それはミルフィアが生徒じゃないというのもあるが、俺には、昨夜に決めたことがあるから。それはミルフィアには知られちゃいけないことだ。
「お前の言うことも分かる。でも、それでもだ。いいか? 俺の前に現れるな、絶対だぞ?」
「……はい。主がそう言うのでしたら」
ミルフィアは寂びしそうに頷くと目の前から消えていった。悪いことしたかな? いや、でも仕方がない。これもあいつのためだ。
俺はなるべく気にしないようにして正門を通りレンガ道を歩いた。昇降口に着き靴を履きかえる。
その時だった。ふと背後から視線を感じて、俺は昇降口の入口に目を向けた。
「……気のせいか」
そこには誰もいない。靴を履き終え廊下を歩く。俺以外には誰もいないのでここは静かだ。
ササッ。
「…………」
玄関口から少し歩いて廊下を曲がる。足音が規則正しい音を奏でる。
ササッ。
「ハッ!?」
角を曲がった先、すかさず背後を振り返った。すると視線の先で金色の髪がサッと角へと隠れたのが見えた。まさかとは思うが……。
俺は正面にあった学習室の扉を開ける。けれど入ることはせず、そのまま扉を閉めた。ドン、とやや重い音がなる。
それから少しすると、角からミルフィアが現れた。
「あ」
「あ、じゃねえよ」
ミルフィアは俺と目が合うなり瞳を大きくして驚いていた。こいつなにしてんだよ。
「なんでいるんだよお前」
「申し訳ありません……」
両手を重ねミルフィアが謝罪する。表情はバレたからかしゅんとしている。
「あのなミルフィア、俺言ったよな? 俺の前に出てくるなって」
「はい、ですので……」
ミルフィアは反省の姿勢から俯いているが、上目遣いで俺を見た後、もう一度視線を落とした。
「前ではなく、後ろから見守ろうと……」
「はあー」
片手を額に当てる。
「あのなぁ、それで見つかってちゃ意味ないだろうがドジっ子め」
「主! 私はドジっ子ではありません!」
「ドジっ子は皆そう言うんだ」
こいつはまったく、真面目なのかそうでないのか。いや、ミルフィアを悪く言ったり責めたりするつもりはないけどさ。
「お前の気持ちは嬉しいよ、でも駄目だ。お前は消えてろ」
「ですが!」
「前も後ろも右も左も駄目だ。上も下もだ、いいな?」
「はい……」
それで今度こそ納得したのか、ミルフィアは再度消えていった。
「まったく」
俺は教室に行くのを再開した。ミルフィアが俺を心配する気持ちは嬉しいが、けれどいき過ぎるところが困ったものだ。それは昨日の喧嘩もそう。下手すればミルフィアは大怪我を負っていた。
 それも自分のためではなく、俺のために。
だからこそ、俺が奴隷を止めさせないと。
そのために、俺は昨夜に決断をした。
それはなにか?
それはだな。
ミルフィアの、誕生会を開くということだ!
「…………」
いや、分かるよ? 俺が誕生会? 他人どころか自分のもしたことないのに? 出来るわけないて? うるせえ!
それに一番の問題は参加者だ。
昨夜からそのことばかりを考えてはいるんだが、しかしまったく目途(めど)が立たないことにため息が出る。
まさか二人きりで誕生会をするわけにもいかないし。いや、最後の手段として俺だけでやるという選択肢がないこともないが、それではせっかくの誕生日が逆に悲しい。
問題はやはり参加者だ。誕生会である以上しっかり会にしなければ。しかしいったいどこの誰が無信仰者の開く誕生会に参加してくれる? 
そんなこんなで教室に到着し足が止まる。その後扉をじーと見つめた。
というのも、入りづらい。昨日あんなことがあったんだ、はっきり言って帰りたい。
しかしそういう訳にもいかないよな。もしかしたら俺の考え過ぎで本当はなんともないかもしれないし。勇気を出せ俺、きっと大丈夫さ。
俺は意を決め昨日同様後ろの扉を開けた。そこから一歩を踏み出す、瞬間だった。
「キャアアア、変態の神愛(かみあ)が来たわ!」
「あいつ、保健室で女の子を裸にして縄で縛ったって本当!?」
「それだけじゃなくてローソクまで使ったらしいぞ」
「みんな落ち着くんだ、まずは聖書を読もう!」
「誰か助けて、きっと私たちも襲われるわ!」
「諦めましょう。彼と同じ教室だったことで、すでに運は尽きていたのです」
「…………」
帰ろう。
扉を閉める。踵を返し、廊下をトボトボ歩く。しかし、すぐに全力で駆け出した!
「ちげえええええ!」
ちょっと待て、事故だろあれは!? それがなんで襲ったことになってんだ、そしてなんだ縄やローソクって!?
廊下の突き当たりで立ち止まり、ショックのあまりうずくまった。
「はあ~」
分かってはいたが、駄目だ。それにとてもじゃないが誕生会に参加して欲しいなんて言える状況じゃない。こんなアウェーでどうしろっていうんだ。
そもそも無信仰者の時点で詰んでるんじゃないか? そんな不安が湧(わ)いてくる。
出来ないのか? 無理なのか? 諦めるのか?
「…………」
駄目だ。こんな気持ちじゃいいアイディアも思いつきやしない。気分を変えよう。
俺は屋上に向かった。今の時間なら誰もいないだろう。
屋上に辿り着き、扉を開ければ爽やかな青空が迎えてくれた。清々(すがすが)しい風が全身を包んでくれる。
「ああ、落ち着く……ん?」
と、気づけばフェンスに一人の女の子が立っていた。
緑色の髪を肩まで伸ばし、ストレートの髪型はそよ風を受けて小さく揺れている。小柄な体で雲しかない青空を見上げていた。
そこで少女が振り向いた。半身だけを動かし赤い瞳がじっと見つめてくる。俺を見つけても無表情で、大きな目が俺を見ている。
すると、今度は小さく手招きしたのだ。
なんだ?
少女がなんで俺を呼んでいるのか分からない。
クイクイ。
また手招きしてる。理由は分からないが、しかし断るのも悪い気がしてとりあえず行ってみた。
「なあ、ミルフィア」
「はい、主」
場所は学校の正門前。他の生徒の波の中、景気よく花弁を散らす桜の風を受けつつ、俺はミルフィアを見下ろしていた。困ったことに学校についてくると言って聞かないのだ。
「お前はここの生徒じゃない。だから基本的にはいちゃ駄目なんだ、分かるだろ?」
「しかし主。昨日の出来事を省みれば一人は危険です」
「それは、まあ」
昨日、俺は加豪と喧嘩をした。登校初日からあの大騒ぎだ。ミルフィアの気持ちは分からんでもない。
けれど駄目なんだ。それはミルフィアが生徒じゃないというのもあるが、俺には、昨夜に決めたことがあるから。それはミルフィアには知られちゃいけないことだ。
「お前の言うことも分かる。でも、それでもだ。いいか? 俺の前に現れるな、絶対だぞ?」
「……はい。主がそう言うのでしたら」
ミルフィアは寂びしそうに頷くと目の前から消えていった。悪いことしたかな? いや、でも仕方がない。これもあいつのためだ。
俺はなるべく気にしないようにして正門を通りレンガ道を歩いた。昇降口に着き靴を履きかえる。
その時だった。ふと背後から視線を感じて、俺は昇降口の入口に目を向けた。
「……気のせいか」
そこには誰もいない。靴を履き終え廊下を歩く。俺以外には誰もいないのでここは静かだ。
ササッ。
「…………」
玄関口から少し歩いて廊下を曲がる。足音が規則正しい音を奏でる。
ササッ。
「ハッ!?」
角を曲がった先、すかさず背後を振り返った。すると視線の先で金色の髪がサッと角へと隠れたのが見えた。まさかとは思うが……。
俺は正面にあった学習室の扉を開ける。けれど入ることはせず、そのまま扉を閉めた。ドン、とやや重い音がなる。
それから少しすると、角からミルフィアが現れた。
「あ」
「あ、じゃねえよ」
ミルフィアは俺と目が合うなり瞳を大きくして驚いていた。こいつなにしてんだよ。
「なんでいるんだよお前」
「申し訳ありません……」
両手を重ねミルフィアが謝罪する。表情はバレたからかしゅんとしている。
「あのなミルフィア、俺言ったよな? 俺の前に出てくるなって」
「はい、ですので……」
ミルフィアは反省の姿勢から俯いているが、上目遣いで俺を見た後、もう一度視線を落とした。
「前ではなく、後ろから見守ろうと……」
「はあー」
片手を額に当てる。
「あのなぁ、それで見つかってちゃ意味ないだろうがドジっ子め」
「主! 私はドジっ子ではありません!」
「ドジっ子は皆そう言うんだ」
こいつはまったく、真面目なのかそうでないのか。いや、ミルフィアを悪く言ったり責めたりするつもりはないけどさ。
「お前の気持ちは嬉しいよ、でも駄目だ。お前は消えてろ」
「ですが!」
「前も後ろも右も左も駄目だ。上も下もだ、いいな?」
「はい……」
それで今度こそ納得したのか、ミルフィアは再度消えていった。
「まったく」
俺は教室に行くのを再開した。ミルフィアが俺を心配する気持ちは嬉しいが、けれどいき過ぎるところが困ったものだ。それは昨日の喧嘩もそう。下手すればミルフィアは大怪我を負っていた。
 それも自分のためではなく、俺のために。
だからこそ、俺が奴隷を止めさせないと。
そのために、俺は昨夜に決断をした。
それはなにか?
それはだな。
ミルフィアの、誕生会を開くということだ!
「…………」
いや、分かるよ? 俺が誕生会? 他人どころか自分のもしたことないのに? 出来るわけないて? うるせえ!
それに一番の問題は参加者だ。
昨夜からそのことばかりを考えてはいるんだが、しかしまったく目途(めど)が立たないことにため息が出る。
まさか二人きりで誕生会をするわけにもいかないし。いや、最後の手段として俺だけでやるという選択肢がないこともないが、それではせっかくの誕生日が逆に悲しい。
問題はやはり参加者だ。誕生会である以上しっかり会にしなければ。しかしいったいどこの誰が無信仰者の開く誕生会に参加してくれる? 
そんなこんなで教室に到着し足が止まる。その後扉をじーと見つめた。
というのも、入りづらい。昨日あんなことがあったんだ、はっきり言って帰りたい。
しかしそういう訳にもいかないよな。もしかしたら俺の考え過ぎで本当はなんともないかもしれないし。勇気を出せ俺、きっと大丈夫さ。
俺は意を決め昨日同様後ろの扉を開けた。そこから一歩を踏み出す、瞬間だった。
「キャアアア、変態の神愛(かみあ)が来たわ!」
「あいつ、保健室で女の子を裸にして縄で縛ったって本当!?」
「それだけじゃなくてローソクまで使ったらしいぞ」
「みんな落ち着くんだ、まずは聖書を読もう!」
「誰か助けて、きっと私たちも襲われるわ!」
「諦めましょう。彼と同じ教室だったことで、すでに運は尽きていたのです」
「…………」
帰ろう。
扉を閉める。踵を返し、廊下をトボトボ歩く。しかし、すぐに全力で駆け出した!
「ちげえええええ!」
ちょっと待て、事故だろあれは!? それがなんで襲ったことになってんだ、そしてなんだ縄やローソクって!?
廊下の突き当たりで立ち止まり、ショックのあまりうずくまった。
「はあ~」
分かってはいたが、駄目だ。それにとてもじゃないが誕生会に参加して欲しいなんて言える状況じゃない。こんなアウェーでどうしろっていうんだ。
そもそも無信仰者の時点で詰んでるんじゃないか? そんな不安が湧(わ)いてくる。
出来ないのか? 無理なのか? 諦めるのか?
「…………」
駄目だ。こんな気持ちじゃいいアイディアも思いつきやしない。気分を変えよう。
俺は屋上に向かった。今の時間なら誰もいないだろう。
屋上に辿り着き、扉を開ければ爽やかな青空が迎えてくれた。清々(すがすが)しい風が全身を包んでくれる。
「ああ、落ち着く……ん?」
と、気づけばフェンスに一人の女の子が立っていた。
緑色の髪を肩まで伸ばし、ストレートの髪型はそよ風を受けて小さく揺れている。小柄な体で雲しかない青空を見上げていた。
そこで少女が振り向いた。半身だけを動かし赤い瞳がじっと見つめてくる。俺を見つけても無表情で、大きな目が俺を見ている。
すると、今度は小さく手招きしたのだ。
なんだ?
少女がなんで俺を呼んでいるのか分からない。
クイクイ。
また手招きしてる。理由は分からないが、しかし断るのも悪い気がしてとりあえず行ってみた。
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