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これでも一応生け贄です

高槻鳴海

10.セシル


「ストラスのバカ!アホ!分からずやー!」


リディアはそう叫ぶと、リビングを飛び出して言った。思わずため息を零すと、俺は頭を抱えた。

「…………クソ」


「いやぁ。今のはお前が悪いな、ストラス」


その声に振り返ると、アベルがリビングに入って来るところだった。

「お前、聞いてたのかよ」

「まーね。珍しく喧嘩してるもんだから気になっちゃって」

珍しくどころか、これが初めてだ。

「余裕ないなー」

「………そのくらい分かってる」

アイツを見つけてから、余裕なんてこれっぽっちもない。油断だってできやしない。

「まぁ、今回は俺も関係ないとはいえないし、一つ教えてやる」

「……教えるって……何を?」


「リディアちゃん、リビングどころか家出てっちゃったよ?」


その言葉を理解した瞬間、一気に焦りが出てきた。

「は!?今その話してたとこだろうが!」

「まぁ、あれだ。ストラスが行かないって言うなら、俺が……」
「行ってくる!」

アベルの言葉を遮ると、俺は急いで外に出た。

頼むから、誰にも見つからないでいてくれ。


特に何も考えずに家を飛び出してしまった私は、走っていると誰かにぶつかった。
魔界であることを思い出して、私は思わず体を強張らせた。

「………リディアちゃん?」

「え?」

想像とは違う反応に顔を上げると、そこにはヴィンスがいた。
そして、その隣にいる人物を見ると、思わず目を見開いてしまった。

「…………セシル?」

私がそう言った瞬間、セシルに思いっきり抱きしめられた。

「よかった。リディアが無事で」

とりあえずそれよりも、理解が全く追いついてない。何で魔界であるここにセシルがいるの?というか、ヴィンスとはどういう関係だ?

「……あー。とりあえず、リディアちゃん。1人で何してるの?ストラスは?」

ヴィンスの言葉にセシルがようやく私を離してくれた。

「………喧嘩、した」

少しの沈黙の後、私は顔を逸らしてそう答えた。

「喧嘩!?何でそんな……」

「……えっと」



「ストラス!アベルと買い物に行ってきてもいい?」

夕食の仕込みをしているストラスの背中にそう問いかけると、ストラスは手を止めて振り返った。

「……は?」

「だから、アベルと買い物に……」

「ダメだ」

ストラスらしからぬ強い否定に、私は少しだけ驚いた。ストラスは私の表情を見ると、少し気まずそうに顔を逸らした。

「………そもそもこの前の祭りの件もあるんだ。きっと魔界中にお前のことが知れ渡ってるはずだ。危険すぎる」

「でも、アベルもいるし、魔除けの石だって持ってくよ?」

「何と言おうが、絶対に許さない。もう少し危機感を覚えろ」

危機感なんて、そんなもの私にあるわけがないのに。それに、そこまで言わなくたっていいじゃん。

「………ストラスのバカ!アホ!分からずやー!」



「………と、まぁこんな感じで……」

「うーん、そっかー。まぁ、その様子だとストラスに悪気があったわけじゃないから」

「……というかむしろ、逆じゃねぇかよ」

明らかに不機嫌そうにセシルはそう呟いた。

「けど、さすがにひどいよ。もう少し考えてくれても良かったのに。……あ、そういえばまだ私聞いてない。2人はどういう関係なの?」

突然の話題転換に、ヴィンスは少し苦笑を漏らした。

「彼が叶えたい望みがあるって言うから、契約したんだよ」

「………けい、やく?でもどっかのファンタジーだと悪魔って最終的に魂を奪っていくんでしょ?大丈夫なの?」

「ああ、それなら大丈夫だよ。今はまだ仮契約だからね。彼の望み自体大したことなかったし」

大した事ないのに悪魔に頼んだの?一体どんな問題だよ。と、思ったがすぐに本人に聞いてみた。

「…………魔界に行きたい。……そう頼んだんだよ」

「え?」

確かにそれは悪魔に頼まなきゃいけないね。そんなのおねだりしても応えてくれる人なんていないわな。

そんなことを考えていると、グイッと腕を引かれ、気付いた時にはセシルの腕の中にいた。

「言っただろ。絶対助けに行くって」

「……ああ、そっか。私のために……」


「リディア、一緒にここから逃げよう」


唐突に告げられた一言に、なぜか私は少しだけ胸にわだかまりを感じた。まるで、人間の生活に合わないこの魔界に残りたいと感じているみたいに。

「お前は悪魔に捧げられた生け贄だ。だから、もうあの村に戻ることはできない」

あの人たちは、とっくに私が殺されてると思ってるだろうしね。もしそうじゃないとしても、一度生け贄に出した人間なんて怖いだろうしね。

「……けど、俺がいるから」

「…………逃げ、る?」

考えてもいなかった、逃げるだなんて。いつからか、ここにいるのが当たり前だと思っていた。

セシルは私の肩を押して少し距離を取ると、真剣な表情で言った。


「ここを出て、人間界で一緒に暮らそう」

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