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これでも一応生け贄です

高槻鳴海

9.昔と変わらない笑顔


お祭りから数日、珍しくアベルが出かけてるから、久しぶりにストラスと2人きりになった。こんなのアベルが来て以来初めてじゃない?アベルと2人きりはあっても、ストラスとは本当に久しぶりだ。

「リディア。昼間からソファーでグータラするな」

ストラスはこの通り変わらずお母さんみたいだ。ホント、口は悪いのに面倒見はいいよね。

「暇なんだもん。しょうがないじゃん」

「それでも元聖女か?」

「聖女なんて見かけだけ………あ!」

ふと思いついたことに、思わず大きな声を出してしまった。そうそう、ずっとストラスに聞きたいことがあったんだった。ちょうど2人きりだし、暇も持て余してたところだしね。

「突然なんだよ。どうかしたか?」

「ねぇ、ストラス。ストラスって、私と会う前から私のこと知ってたの?」

「……え」

想像もしてなかったのか、ストラスは少し顔を引きつらせた。

「アベルが言ってたから。ずっと気になってたんだよね。私、生け贄の儀式の時が初対面だと思ってたんだけど」

「………あの野郎。勝手に何言ってんだよ」

ストラスは頭を抱えてうな垂れると、チラリとこちらを見た。

「…………知ってたよ。来る前から」

「でもなんで?私は全然覚えがないんだけど」

「まぁ、会ったわけじゃなくて俺が一方的に見ただけだし」

「え?そうなの?」

「……ああ。初めて見たのは、あの儀式の数ヶ月ほど前だ」



暇を持て余した俺は、次の儀式の生け贄はどんな奴だろうかと人間界に足を向けた。小さな村のさらに外れにある小さな教会。そこに目的の人物はいた。


今回の生け贄は、聖女らしい。少し前に廃墟となった教会に1人で暮らしている少女。経緯は知らないが、村の隅に追いやられ1人聖女をしている。何にせよ、悪魔に聖女を捧げるだなんて、本当にバカだ。

そう思いながら眺めていると、こんなボロい教会に1人の少年が来た。ここら辺には他に村はないから、恐らくあの村の人間だろう。

「おはよう、リディア。元気にしてた?」

「セシル。また来たの?村の人たちにいろいろと言われるよ」

少女はあの村ではよく思われてないみたいだ。現に、俺が見た時も嫌悪の言葉を言い合っていた。

だから少女にとって、この少年だけが唯一仲のいい村の人間なんだろう。

「いいんだよ、アイツらは。それに、リディアは放っておくといつかのたれ死んじゃいそうで心配なんだよ」

そう言う少年の表情は、心配と目の前の少女に対する愛おしさを兼ね備えたものだった。ああ、そういうことかと関係なさげに思えたのも、ほんの一瞬の間だけだった。

「いつもありがとう、セシル」

少年に向けられた笑顔を見て、不覚にもドクンと心臓が高鳴った。あまりに綺麗で、儚げなその笑顔に思わず見惚れてしまった。


次の日も、その次の日も、俺の足は自然と人間界に向かっていた。

それから分かったことは、少女の生活力のなさだ。少年が来ないと、本当に何もしないのだ。まるで生に執着がないかのような、生きることがどうでもいいような。
確かにこれは、なかなかに放っておけるものではない。

少年は毎日のように少女のいる教会へと通い、身の回りの世話を手伝っていた。


ーーけれど、どう足掻こうが儀式の日は否が応でも来てしまった。

儀式を見に来た俺は、淡々と行われる行為を黙って見ていた。少女はただジッとその時を待っているだけ。少年は村人たちに止められて何もすることができない。

儀式はどんどん進み行き、少女の前に剣を持った村長が現れる。

俺の役目はただ一つ。数週間前から……いや、きっと一目見た時から決めていた。
村長の振り下ろす剣を交わすように、俺は少女を抱き上げた。



「………と、言うわけだ」

「……ほえー。まさかずっと見られてたなんて思わなかったよ」

まぁ見られて困るようなことはしてないけどさ。基本的にセシルが来るまでは寝てるだけだったし。


「そうそう。それでなんか最近機嫌いいと思ってヴィンスと問い詰めたんだよねー」

唐突に後ろから聞こえた声に振り返ると、いつの間に帰って来たのか、アベルがいた。

「お前!どこから聞いてたんだよ!」

「ストラスがリディアを初めて見たところらへん?」

「結構最初の方からいたんだね」

「まぁね。ストラスってば、リディアちゃんのために家リフォームするまで何も教えてくれなかったんだよ」

そういえば、前にそんなこと言ってたっけ。ストラスが私のために家を人間仕様にしてくれたり、服を用意してくれたり。

「あ、だからアベルとヴィンスの間で私有名だったのか」

「そうそう」

「………アベル。もうお前黙れ」

怒る気力すらないのか、ぐったりとうな垂れるストラス。


にしても、出会う前からストラスにはいろいろと大切にされてばっかだな。

「いつもありがとう、ストラス」

私が笑顔を向けると、ストラスは片手で口元を抑えて思いっきり顔をそらした。



ーーその笑顔は、昔とは違う『俺』に向けられた笑顔だった。

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