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アップスタートデイズ

深谷シロ

第1話 異世界なんて最悪だっ!

僕は覚醒した。別に深い意味は無い。ただ起きただけだ。文字通り起きただけなのだ。特筆すべき事といえば……記憶が増えた事だろうか。


どうやら前世の記憶が僕にはあるようだ。年齢は5歳。中途半端な記憶は僕の脳内を混乱させた。兎に角まずは落ち着こう。


……僕の前世は違う世界に住んでいたようだ。……地球?という惑星に住んでいたのか。そう言われるとそんな気がする。あくまでも記憶だから実感が湧かないのが残念だな。


若くして死んだようだ。年齢は22歳。大学生だった。そろそろ卒業だと友人と話している記憶が最後だ。という事はそこで何か起こったのだろう。不思議と死んだ記憶が無い。何か摩訶不思議な現象でも起こったのだろうか。もう少し意識を保っていたかった。


だけど。異世界に転生した僕は運が良いとは思うけど。そんな事はこの世界の人に言えるわけが無い。『異世界転生』なんて用語が通じないし、僕は馬鹿扱いされるだけだ。何が良いんだ、異世界転生。


もしかすると僕には素晴らしいチートスキルがあるのかもしれない。それの確認が必要だな。


起床より20分。僕は行動を起こした。まず魔法を使う。これ重要。魔法を使う。大切な事は数回言う。


何をして良いかも分からないので、取り敢えず手を前に翳す。何も起こらない。なら詠唱だ。僕の記憶にある、ありとあらゆる詠唱を口に出す。何も起こらない。体に力を込める。何も起こらない。


────どうやら魔法は簡単には使えないらしい。


もしかすると魔法の使い方を間違っているだけかもしれないが、優れた才能は無いのだろう。残念だ。万が一でも魔法が無いなどと言った衝撃な発言は聞きたくない。


次にステータス。これも異世界には大切な要素だろう。僕はステータスと頭で念じる。何も起こらない。口に出す。何も起こらない。……これもあるかないかすら分からない。


最後にスキル。まずまず使い方か分からない。……魔法と一緒か。


どうやら僕は残念な異世界に転生したらしい。だけど異世界で最高の生活をおくる手段はまだある。まずは地球にあるものをこちらでも作るという事だ。これなら僕にも出来そうだ。


それも大事だけど……まずは家を探索しよう。


僕は自分の部屋を出た。時刻は朝のようだ。気温は低い。家の中も冷えている。


部屋を出るとそこは小さなリビングだった。木のテーブルと椅子がある。椅子は4つ。4人家族だろうか。何故か僕には昨日までの自分の暮らしを大分忘れているらしい。覚えているのは人の名前と少しばかりの知識。5歳としては十分なのだろうか。


リビングには誰もいない。リビングには金属が無い。文化が発展していないのか……あるいは貧乏か。文明が発展していないだけであってくれ。貧乏であればどうしようもない。


他の部屋にも行きたいが残りの間取りは少なそうだ。リビングにある扉は4つ。1つは今出てきた部屋。少なくとも1つは外に繋がる扉だろう。実質、2つか。その1つの扉を開く事にした。


「開け、夢の扉……。」


夢の扉であればいいな……というよりそうであって欲しいです。お願いします。まさかの貧乏異世界ライフは嫌です。お願いです。


開いた先は寝室だった。ツインベット。まあ、凡そ両親だろう。この部屋には誰もいないようだ。じゃあ、皆どこにいる?


2つ目の扉を開く事にした。次の扉はこちらっ!……物置部屋のようだ。倉庫化している。床が落ちないか少し心配だ。


残念な扉ばかりだが、最後はどうか。いや、知ってんだ。最後が外に繋がるなんて事は知ってる。だけど最後の希望を掛けたいじゃないか……!!予想斜め下の異世界転生なんて嫌だっ!僕は扉を開くっ!


僕が扉に手を掛けようとした瞬間。独りでに扉が開いた。正確には外側から扉が開かれた。外だった。いや、知ってるけどさ。中に入ってきたのは母親だ。紙袋に食材が入ってる。買い物に行ったのだろう。


「どうしたの?」


話が分かるという事は言葉は通じるらしい。この状況で言葉が通じなければ僕の人生はここで潰えていた筈だ。一応、ありがとう神様。


「寝てなさい。」


「どうして?」


僕は尋ねた。体調が悪いわけではない。元気だ。外も朝。


「昨日、高熱だしたでしょ?医療師もいないこの地区だと死ぬかもしれないって大騒ぎだったのよ。」


母親の衝撃発言にこちらがビックリだ。まさか死にかけてたとは……。異世界恐るべし。いつの間にか異世界が『生まれ変わったらここで暮らしたいランキング』の堂々の最下位になっている気がする。


「僕は大丈夫。それよりもお父さんは?」


父親はどうしているのか。それが知りたかった。父親の呼称は取り敢えず年齢的にもお父さんにしておいた。


「お父さんは……お城にいるわ。」


どうやら父親は領主の住む城で働いているらしい。お父さんナイスっ!あれ?ならどうしてこんな所に住んでるの……?


「どうしてお城にいるの?」


「どうしてって……。」


ここで母親の言葉は途切れた。そして何故か苦しげな表情をした。美人にこのような顔は似合わないな……。


「……どうしたの、お父さん。」


「……」


僕には説明したくないようだ。だが苦しげな表情は変わらない。何かあったようだ。これは少し強めに聞いた方が良かったようだ。


「どうしたの?お母さん……教えて?」


「……分かったわ。お父さんはね……捕まっているの。」


「え……?」


小さな声で母親は呟いた。悔しそうな表情で。城にいるのは仕事では無いのだ……地下の牢獄にいるらしい。何か濡れ衣を着せられているらしい。


母親は何故捕まっているのか教えてくれた。恐らく僕が幼いからだろう。理解出来ないのだろうと教えたのだ。だが僕は前世の記憶が蘇った。そのせいで理解してしまった。罪の重さを。終身刑の父親だということを。


父親は反逆罪に問われていた。まだ裁判がある為に死刑になってはいないが有罪と確定すれば確実に死刑だ……。父親はどうやら領主の狩りの途中に魔物を引き寄せたそうだ。それも大量に。魔力を持たない父親がそんな事が出来るはずがないが、捕まったらしい。


僕が思うに犯人は貴族だろう。罪を着せたという訳だ。母親曰く、この世界では魔力は貴族のみが持つ。魔法はある訳だが、平民である僕は魔法は一生使えない訳だ。残念で仕方ない。


裁判は長く続くそうだ。罪が重いだけに裁判も慎重に行われる。5歳の僕には何も出来ない。平凡な生活さえ送れないようだ。成り上がりなんて出来ない生活が待っている。


母親は泣き出した。近くに住む人にさえ嘲笑される人生。……異世界なんて最悪だっ!

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