地獄屋物語

登けんぴ

第3話 恵side

恵side

普通の高校生活を送れれば良かった
どごにでもいるような女子高生で良かった
なのに、なんで…

バスケ部に宇佐美智之という超かっこいい先輩がいる
私はその先輩に憧れていてバスケ部のマネージャーとか出来たらなーって思ってた
でもやっぱり先輩は大人気で手の届かない人
ファンはたくさんいるわけだし私は別に争おうとは考えもしていない
でもそうでない人もいる

事件が起こったのはまだ桜が散りきってない頃
昼休みに宇佐美先輩が中庭のバスケットコートでプレイしていたのを私は見ていた
すると何人かの女子を従えたいかにもお嬢様!って感じの人…あ、同じクラスの田沼エリカさんだ
なんか社長令嬢らしくてお金持ちの人
怖かったからもう行こうと思ったら
「うわーまたいるわー笑笑」
え?
「キモイーストーカー?笑笑」
わ、私のこと?
田沼エリカさん達の視線は私に向けられている
「あ…の」
「ねえ…これ見て」
そう言って田沼エリカさんが私にスマートホンの画面を見せつけてきた
そこには頭から無様にずっこけていて泥水をかぶっているダサい女の子の写真が…
え?
これ私?

思い出した…
この前田んぼに落ちちゃったんだ…
いや…確か落とされた?どうだったっけ…
その時の…写真?
え、なんで?
この写真はひどい
顔から突っ込んでるからブサイクになっているし髪もぐっちゃぐっちゃ
足なんかガニ股になってる

「アハハハ!これいつ見てもウケるよねー」
「ダサすぎー」
ケラケラと笑っている女の子達
え…なんで?
「なんで…?」
思わず声に出た
ひどい!なんで?どうして!
すると田沼エリカさんが意地悪な笑みを浮かべていった
「あんたさーむかつくんだよねーブスのくせにでしゃばって先輩にアタック?ウザァ笑笑マネージャーとか調子乗んな」

え…なに?
なんでいけないの?
言い返したかったけど怖くてなにも言えなかった
でもその笑みを見て思い出した
田んぼに落ちた時私を見下ろして笑っていた女の子…
この人だ…

「ねぇこの写真SNSで拡散してもいい?笑」
え  ︎
「い、嫌だ!」
とっさに叫ぶ

「じゃあさー」

それからだった私の田沼エリカが中心の生活が始まったのは
拡散されたくないなら尽くせ
裏切るような素振り見せたら私の人生終わる
だから先輩のことは…
けどやっぱり憧れは憧れ
エリカさんに気づかれないようにこっそり想ってる

エリカさんの命令は無茶苦茶だった
みんなで出かけた時は代わり番こで何かしらプレゼントを渡さなければいけないとか
私たちの持ち物でもエリカさんが欲しいって言ったら必ずあげなくちゃいけないとか
エリカさんをよく見せるために私たちが悪者になったりとか…
とにかくひどい

でもそんなエリカさんにも屈しない人もいた
朝登校して入り口付近で私たち…いやエリカさんが騒いでいた時
他の生徒達は決まり悪そうに反対側まで移動して教室に入って行く
う…ごめんなさい
でも
「邪魔」
え?ドアのところに…山野ミナキさん…だっけ?
髪の色が不思議な顔の見えない女の子がクールに立っている
「は?」
「邪魔」
反発しようとするエリカさんだけど
…何だろうなんかすごい圧っていうの?
何も言えずに山野ミナキさんは普通に通って行った
…カッコいい
本当にカッコよかった
でもエリカさんの命令は絶対
一緒になってその子を嫌う
苦しかった…

でもそんなある日…ちょっといいことがあった
朝早くに登校して
誰もいないバスケコートをなんとなく見上げていた
「うおっマジか先客?」
え?
振り向くと…宇佐美先輩!?
なんでこんな早くに?
「ボールないけど…使ってんの?」
「い、いえ!ぜひっ、使って下さい!」
す、すごいすごい!
あの宇佐美先輩が目の前にいるー!
「じゃあ遠慮なく」
こんな間近で見られるなんて!

でもこれが引き金になり私のただでさえ最悪の高校生活はさらにドン底に叩きつけられることに
「恵、ちょっといい?」
放課後、みんな帰ってほとんど誰もいない中エリカさんに呼ばれた
なんだろう…

放課後の下駄箱
夕日が差し込んでいてちょっと眩しい
でもエリカさん達のオーラはなんだか…怖い
「今日の朝、宇佐美先輩と話してたらしいね」
え?
「やたら親しげだったって聞いてるけど?」
親しげって…ほんの一言二言話しただけなのに?
「は?何?調子乗ってんの?」
「私は確実に見たけどー?」
取り巻き女子の1人がニヤついて言った
え、そんなつもりじゃ…
「でもまあ今となったらどうでもいいことだけど」
え…?
エリカさんがスマホをこっちに向けた
!!
そこには私のひどい写真
「これ、先輩に見せたから」
は?
「この子がストーカーしてましたって言っといたよー」
うそ…
「先輩キモって言ってたよー笑笑」
「言ってた言ってた笑最悪ってねー笑笑」

言葉を失うってよくいうけど…今はまさにその状況
何も出てこない
頭が真っ白
先輩に見せた?キモイ?最悪?
キモイ…最悪…
今朝目の前でバスケをしていた先輩の姿が頭をよぎる
「SNSじゃなくてよかったねー笑」
「あんたもういらないから、つるんでると先輩に嫌われちゃうしーもう関わんないで」
エリカさんがゴミでも見るように私を見て他のみんなと笑っている
何が起こったのかわからない
先輩に嫌われた?

っ…!

涙が溢れてくる
とりあえずその場から逃げた
とにかく離れたかった!
エリカさんからとにかく離れたかった

教室のドアを開ける
入ろうとしたら
中にいる子と目が合う
…山野ミナキ!
ドアのところの段差につまずいてこけた

…うっ
涙が止まらなかった
ひどい…ひどすぎるよ
私は憧れの先輩と話しただけなのに
先輩と近づきたかっただけなのに
人影が見える
山野ミナキだ…
なんか全部にムカついてきた
「ざまぁって…思ってるんでしょ…」
こんなの八つ当たりだ…
でももう何も考えられない!
「エリカさんのいいように使われて…ざまぁって思ってるんでしょ!」
でも次に飛び込んできたのは予想外の言葉
「別にどうも思ってないし、超絶興味ない」
え?
反対側のドアから出て行く山野ミナキ
え?
え…え?
え?普通あんなこと言う?
普通もう少し優しくしない?
せめて私の言ったこと否定しない?

そんなことより…私は…どうしたらいいんだろう
ずっと憧れだった先輩に…
また涙が溢れてくる
それから30分くらいかな…その場でぼおっとしてた
あ、そろそろ帰らなくちゃ
ダラダラと足を引きずって下駄箱に向かう
流石にもう誰もいない
赤く腫れた目をまたこすりながら門を出た

その時
「ねぇ」
誰かに呼び止められた
声のする方を見ると
フードで顔は見えないけどなんか全体的に黒い人がこちらを見ていた
体型からして…女の子?
「誰?」
フードの下で少し笑った

「どうも…『地獄屋』と申します」

へ?
「その名の通り地獄を売りつける仕事をしております」
 …?
なに言ってるんだろうこの人
厨二病ってやつ?
「簡単に言うと復讐屋?みたいな」
復讐
その言葉に私の全身の細胞がざわめいたのが分かった
「とりあえずこれ渡しとくね」
そう言ってフードの子は名刺的な紙をくれた
「こんな生活でいいならいいけど、変えたいんなら自分から動きな。いつでも手は貸してあげるから」
細く綺麗な指で私の手の中の紙を指す

「このまま過ぎる『時間』で終わらせるか…」

心臓がドックンとなった

「地獄を売りつけるか…どっちがいい?」

フードの下の瞳は赤く光っていた

貰った紙に目を落とす
『地獄屋
 地獄を売りつけることが可能です』

              つゞく

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